悲しいウミガメ

 広く海に面する長崎県の近海には、かなりのウミガメが生息するに違いない。詳しく調べて、記録に残そう。そう思って県立松浦高の生物部は、ウミガメを研究テーマの一つにした▲砂浜に通い、カメを探すうちに、海に捨てられたプラスチックごみの問題に突き当たる。海岸に漂着した、死んで間もないオサガメ(体長1.3メートル)を解剖すると、胃がパンパンに膨れていて、中身は全てプラスチックだった…▲50年ほども前、1971年2月のこの出来事を、そのとき松浦高の生物の教師だった池崎善博さん(80)が論文に書き、翌年、県教育センター発行の研究誌に載った。まだ残ってますか、と池崎さんが先ごろ尋ねると、教育センターは往時の冊子を探し出し、論文の写しを提供してくれたという▲それを見せていただいた。吐き出せず、消化もできず、プラスチックは胃の中に1.4キロたまっていて、袋の形をしたものが30枚以上も…と論文にある▲「好んで食べるクラゲと間違って、海に漂う袋をのみ込んだのか」と池崎さんは今も考える。悲しい残像が、なおも心にあるらしい▲プラごみの海洋汚染は世界全体の課題とされる。オサガメの記録を「古くて新しい話」と池崎さんは言い、もう半世紀も変わらない海の様子が、この先はどうか変わってほしいと望む。(徹)

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