少年たちが涙した「さらば宇宙戦艦ヤマト」気がつけば佐渡先生と同い年 1978年 8月5日 映画「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」が劇場公開された日

それは1978年の夏休みのことであった。『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』が劇場公開され、僕たちは映画館の前に延々と続く行列の中にいた。出入り口から映画を観終えた子供たちが溢れるように出てくる――

皆、目を真っ赤に腫らし、中には鼻水をたらし顔をぐしゃぐしゃにして号泣している子もいた。一体、中で何が起こったのか? まず『宇宙戦艦ヤマト』について軽くおさらいしておこう。

1975年以降、テレビシリーズが夕方に再放送を始めると一大ブームとなり、その頃、小中学生だった僕たちの話題と言えば、女子はベイ・シティ・ローラーズ、男子はヤマトのことで持ちきりだった。総集編である劇場第一作が公開されると日本映画で初めて徹夜組の行列が出来、社会現象を巻き起こした。そのストーリーの軸となったのは、宇宙からの侵略を受け滅亡の危機に瀕していた地球を救う宇宙戦艦ヤマト乗組員たちの勇気と信念と友情であった。

ところがである。第二作『さらば宇宙戦艦ヤマト』は、それとはまるで異なるものになった。“愛する者のために人は死ねるか?” 何とも子供にとってはキツイお仕置きのようなテーマである。何としてでも生きて帰れということではなく、守りたい人々のために君は自ら死を選ぶことができますか? という問いなのだ。戦争を知らない子供たちへ突きつけられた刃のように鋭い投げかけ… トラウマのように今尚忘れることが出来ない。

物語が進むに連れ、強大な敵・白色彗星帝国を前に登場人物の大半が次々と死んでいく掟破りの展開。ついには主人公である古代進もヤマトを爆弾代わりにして敵の巨大戦艦に向かって特攻、すでに息を引き取り遺体となった恋人・森雪の肩を抱きながら死んでいくのである。そして、死地へと赴く前に生き残った乗組員たちに彼はこう語り出す。

「地球は絶対に生き残らなければならない。そのためにあの巨大戦艦を倒す。それには俺とヤマトだけで十分なんだ。皆はこれから俺が死ににいくと思っているんだろう。そうじゃない。俺もまた生きるために行くんだよ。
命というのは、たかが何十年の寿命で終わってしまうようなちっぽけなものじゃないはずだ。この宇宙いっぱいに広がって永遠に続くものじゃないのか? 俺はこれからそういう命に自分の命を変えに行くんだ。これは、死ではない!」

そして、心に沁みる鎮魂歌「ヤマトより愛をこめて」へと続いていく。

 その人の優しさが 花に勝るなら
 その人の美しさが 星に勝るなら
 君は手を広げて守るがいい
 からだを投げ出す値打ちがある

 ひとりひとりが思うことは
 愛する人のためだけでいい
 君に話すことがあるとしたら
 今はそれだけかもしれない

2017年2月27日の新宿ピカデリー。僕は新シリーズとなる『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 第一章 嚆矢篇』を観ていた。当時の音源そのままで沢田研二の歌声が劇場に再びかかると鼻水を啜りあげる音が周囲から聞こえてきた。ふと音のする方に目をやると50代半ばであろう男性が目頭を押さえている。後部の座席から前方を見渡すと、客席の8割以上が50代以上の男性であった。

客電が灯り、気が付けば明るくなった場内には徳川機関長(※1)や佐渡先生(※2)のように髪が薄くなった頭頂部がずらりと並んでいる。

1978年―― あの夏、劇場で涙した子供たちは、いつの間にか主人公である古代進や森雪の年齢をすっかり越えてしまっていたのである。そして、僕はこの客席全体が紅い夕日に包まれた “英雄の丘” であるのではないかと錯覚する。

イスカンダルへの大航海を終え、地球へと帰還したヤマト。その帰還を前に力尽きた艦長・沖田十三の銅像の前には、かつてヤマトを愛した少年たちがいた――

「艦長。今ここに来られる者たちは全員集合したよ。みんなそれぞれの場所で未来に向かってがんばっとります。安心して下さい。偉大なるヤマト艦長、沖田十三の霊に敬礼ッ!」

私自身も佐渡先生と変わらぬ年齢であることに気が付いて、古き良き時代への郷愁に包まれるのであった。

追記
『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 第一章 嚆矢篇』のオープニングでは、パイプオルガンの音色が紡ぎ出す荘厳な楽曲「白色彗星」に一気に持っていかれる。さらばのファンからしてみれば、「英雄の丘」「アンドロメダ」など、それ以外の楽曲も含め、以前と変わらぬイメージとクオリティーの高さに全身鳥肌モノの仕上がりであった。

※1:徳川彦左衛門、宇宙戦艦ヤマトの機関長。ふくよかな体型で白髪だが頭頂部は禿げ上がっている。
※2:佐渡酒造、同・軍医。Wikipedia によれば2151年生まれ、無類の酒好き。ほとんど髪はない。

※2017年3月4日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 鎌倉屋 武士

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