あなたは死んだら地獄へ行きます! 今年の夏休みは地獄の予習をしておきましょう!|Mr.tsubaking

餓鬼道

突然ですが、私たちは全員死んだ後に地獄に落ちることが決定しています。私もあなたもです。「私は悪いこともせず正直に生きてきた」とおっしゃる方がいるかもしれません。しかし、仏教で「五戒」と言われる犯してはいけないことの中に「不殺生戒(=生き物を殺してはいけない)」というものがあります。どんなに立派に生きている人でも、生きている限り何かを食べます。ベジタリアンだとしても植物の命や、ひいては大地のエネルギーを摂取しているので、生きている限り不殺生戒を犯しています。そうしたわけで私たちは全員、地獄行きなのです。

そこで今回は、生きている今のうちに「地獄の予習」ができるスポットをご紹介いたしましょう。

伊豆半島のど真ん中あたり、大自然の中にある「伊豆極楽苑」です。宗教法人や大きなお寺が運営することの多いこうした施設ですが、ここは愛しき家族経営の地獄。

入館するとご主人が、源信(平安時代の高僧)が著した「往生要集」を元に、三途の川の渡り方や、閻魔大王の裁判などを軽妙な語り口で5分ほどで解説してくれます。その解説を聴き終わったら、地獄旅行へ出発です。

まずは三途の川や賽の河原。ここからのゾーンに居並ぶマネキンや人形たちが、恐ろしい姿ながら、なぜか無性に愛らしいのです。

三途の川の先には、閻魔大王が大迫力で待ち受けています。

目の前には自分が犯してきた罪を吐露できるように置いてある「懺悔帳」。ここを訪れた人たちの独白も見られてドキドキします。それぞれの展示ゾーンには解説の音声が流れているのですが、すべてが七五調で語られていて、独特の味を醸し出しています。

閻魔大王の裁きにより、死後に進む世界が決まります。その道は「天・人・修羅・畜生・餓鬼・地獄」という6つの世界(六道)に分かれています。一見地獄のように見えますが、それよりも少しマシな餓鬼道。

そして地獄は、恐ろしい顔をした鬼たちが小さな人間たちに、目を覆うような責め苦を与えています。しかし、そのDIY感からか不思議なことにそれらもやはり愛らしさを感じるのです。

どの地獄に落ちるかは、どんな罪を犯してきたかによって決まります。釜茹でにされるのか、はたまた串刺しにされるのか。これは単なる空想のアミューズメントではありません。前述の通り、仏教に連綿と伝わるものを、源信という高僧がまとめて記した様子が元になっているものなのです。今のうちに自分が落ちそうな地獄の様子を確認しておくとよいでしょう。

仏教(とりわけ浄土系)は、極楽浄土に生まれることを目指す宗派です。それなのになぜか「阿弥陀経」などを読んでも、極楽の描写は「きれいな花と、いい香りと、美しい音楽に囲まれた世界」といったような抽象的なものばかり。一方で地獄は、こんなにも具体的に描かれるのです。

つまり人は古い時代から、極楽へ生まれること以上に「地獄へ落ちないこと」を考えてきたということです。死後の話をすると「非科学的だ」と聞く耳を持たない方もいます。しかし、伊豆極楽苑で地獄の予習をしてわかってくるのは、死後の世界の実在/非実在を議論するより、死後の世界を規定することで「生きている時間を丁寧に過ごせる」ということです。

おどろおどろしい地獄めぐりの工程を抜けた先には、阿弥陀如来が待つ極楽に出ます。

その時の安堵感たるや、現地でしか味わえません。さあ、この夏休み、死後の予習に出かけて見てはいかがでしょうか。(Mr.tsubaking連載 『どうした!?ウォーカー』 第39回)

■伊豆極楽苑
静岡県伊豆市下船原370~1
0558-87-0253
10:00〜16:00
木曜定休(8月は無休)

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