2000万円問題、消費増税…お金問題を考えるときに押さえておきたいこと

金融庁の老後資金2,000万円不足レポートを発端に資産運用の話をしたり、参院選があった関係で、消費増税や財政問題について話をする機会が増えました。子供の頃は親が親戚や知人と経済や政治の話をしているのを聞いて、大人はつまらない会話ばかりしてるんだな、と思ったものです。いざ自分が友人とお酒を飲みながらこのような話をしているのを俯瞰すると、自分も大人になったのだなぁ、としみじみと感じてしまいます。

しかし、会話をしているときに、1つ気になることがあります。それは、裏付けがないままに議論を進める人が多いのです。

今回は、根拠に基づいて語ることを学んでいきましょう。この習慣を身に付けるれば、投資力も格段と飛躍します。


消費増税は必要なのか?

参院選の争点の1つとして消費増税がありました。自民党は財政健全化や社会保障の充実に消費増税が必要と訴え、公明党は消費増税をするものの軽減税率の導入で「増税感」を緩和するとしていました。一方で、立憲民主党は消費増税の凍結を訴え、れいわ新選組にいたっては消費税そのものの廃止を訴えていました。

政治家の間でもここまで意見が分かれる消費増税ですから、オフィス街の飲み屋に行けば必ずと言っていいほど、お酒を飲みながらこの議論をしている人達を見かけます。筆者も消費増税についての議論は既に何回もしてきましたが、そもそも消費増税は必要ないというスタンスをとっているせいか、議論をしていてさまざまな意見をぶつけられることが多いです。しかし、その多くが感情的なもので論理的ではないため、いまいちしっくりきません。

たとえば、消費増税をしないと日本は財政破綻をして、ギリシャのようになってしまう、と言ってくる人がいます。しかし、それはメディアで流れている情報を断片的に聞きかじって、あたかも自分の意見にしているだけのような気がします。

過去に財政破綻に陥った国はギリシャに限らず多くあります。しかし、前述のギリシャはユーロという自国通貨ではなく共通通貨建ての債券に対しての債務不履行であり、ロシアやアルゼンチンは外貨建ての債券に対しての債務不履行だったわけです。日本円という自国通貨を発行できる日本政府が、自国通貨建ての債券に対して債務不履行をおこす話と、前述の諸外国の例をひとくくりに話すのは強引すぎます。

また、消費増税をせずに国債を乱発したり、お金を刷り続けるとハイパーインフレになると言ってくる人もいますが、20年以上も物価がほとんど上がらなかった日本に住む日本国民が、なぜインフレを通り越してすぐにハイパーインフレと言い出すのでしょうか? 少し歴史を勉強している人は第二次世界大戦後のドイツを例に挙げて語気を強めますが、戦後で工場など全て焼き払われ、供給能力がなくなった当時のドイツと、現在の日本を並列に語るのも理論が飛躍してしまっています。

全ての意見に事実やデータに基づいた根拠を持つのは非常に大変ですが、この努力をすることで、投資力が少しずつ身に付いていくのです。

老後資金はいくらあればいいのか?

また、金融庁の老後資金2,000万円不足レポートもあり、老後資金や資産運用についての話題も最近は多くなっています。6月には「年金返せデモ」が都内で行われ、報道によれば参加者は2,000人を超えたそうです。しかし、これも不思議な話で、このレポートには特段斬新なことなど書かれていないのです。既に公開されていた公の統計を用いて、あくまで平均値として算出するとこうなる、と書いてあるだけです。わざわざ平均値と書いてくれているにもかかわらず、これほどの騒ぎになるのは、レポート作成に関わった人たちも想像していなかったでしょう。

激高している人達に話を聞いてみると、老後は年金だけで暮らせると思っていたのに、裏切られたとのことですが、日頃からデータを見て計算していれば、老後は年金だけで生活できるとは到底思えないでしょう。普通に計算してみれば、不足額はむしろ2,000万円をゆうに超えていきます。平均寿命が長くなる一方で、一向に給与も上がらず、非正規雇用も単身世帯も増えていく日本において、今とは正反対の状況の頃に作られた年金制度が大きな変更点もなく運営し続けられると考える方がムリがあるのではないでしょうか。

NISAやiDeCoなどの制度が開始されたとき、喜ばしい制度である一方、その意味は各人が自助努力してくださいね、というメッセージなのではないかと、叩かれたこともありましたが、結局数年が経ち、実際にその様な事象が起きてしまったのです。

感情だけで語るのはやめよう

消費増税と老後資金問題を例に挙げましたが、これ以外にも職場の人や友人と議論をする機会はあるでしょう。その際に心がけて欲しいのは、感情的に議論をするのではなく、必ず意見にデータや事実に基づいた根拠を持たせて欲しいのです。自分の主張や行動に根拠を持たせるべく、その根拠をデータや事実で固めていく作業こそ、議論力の向上につながっていき、同時に投資力を高めていくことになるのです。

なんとなく、この株を買ってみよう、と衝動的に投資行動を起こすのではなく、なぜこのタイミングで、この株をこの金額で買おうとしているのか。全てのポイントに根拠を持つべく、企業業績や業界動向、これまでの歴史やマクロ環境など、様々なデータや事実を見て、実際の投資行動を起こしていく。そのなかで、時に失敗することがあっても、その繰り返しでしか、投資力は向上していかないと筆者は考えます。

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