【若年性認知症を支える】障害者就労支援事業所が居場所づくり 利用者にも刺激 若年性認知症を支える

担当場所の清掃を終え一服する平山さん=等々力陸上競技場

 65歳未満で認知症を発症する若年性認知症は、働き盛り世代ということで、就労の継続や居場所の確保が大きな課題だ。そこで注目されるのが、障害者就労継続支援事業所の活用だ。川崎市高津区のNPO法人「マイway」が運営する障害者就労継続支援B型事業所では、2013年の開設以来、5人の若年性認知症の人を受け入れてきた。現在は男女3人の若年性認知症の人が、精神障害者、知的障害者らとともに、支援を受けながら働いており、その取り組みが注目される。

 7月下旬、川崎市中原区の等々力陸上競技場で、マイwayなど2カ所の障害者就労継続支援事業事業所による観客席の清掃業務が行われた。最低賃金が保障される仕事ということもあり、11人の障害者が参加した。

 マイwayからの7人の中には、若年性認知症の平山惠一さん(62)と、浅野誠治さん(61)=仮名=の姿も。職員のサポートを受けながら丁寧に作業を進めた。日ごろは電器部品の製造など室内作業が中心のため、2人にとって施設外就労は良い気分転換にもなる。作業を終えた平山さんは、冷えた飲料を飲みながらフィールドに見入り、「芝生の緑がきれいで気持ち良いですね」と満足げな様子。浅野さんも「楽しいです」と笑顔だ。多様な作業による刺激を通じて、認知症の進行を遅らせることも期待されている。

 2人の仕事ぶりは、マイwayの利用者仲間にも感銘を与えている。うつ病の50代の女性は「平山さんは仕事が丁寧でテキパキしていて見習いたいです。浅野さんは仕事の手順を忘れることがあっても頑張っていて素晴らしい。私もしっかりしなくてはと思います」と、先輩2人の後ろ姿に見入った。

 認知症も精神疾患の一つとして、精神障害者保健福祉手帳を取得でき、障害福祉サービスも利用できる。記憶面などで適切な支援があれば働ける人は少なくないが、認知症の人による就労系障害福祉サービスの利用は進んでいない。障害福祉サービスの側に認知症を理解し対応できる職員が少なく、受け入れに難しさを感じるためだ。認知症の症状は人により多様であるほか、症状が進行することに対応しなくてはならない。

 マイwayでは、開設初年に若年性認知症の人を受け入れて以来、そのニーズを強く認識。介護福祉士、介護支援専門員、認知症ケア専門士である理事・渡辺典子さんを中心に受け入れ態勢を整えた。職員全員が認知症サポーター養成講座を受講するなどして認知症への理解を深めている。「若年性認知症の人は豊富な社会経験があるので、ビジネスマンの先輩として、若い障害者の手本になってくれる存在です。職員としても、先輩に来ていただいているという思いです」と渡辺さん。

 そうした対応に平山さんは「マイwayでは仕事を通してやりがいと達成感を持てることがうれしい」と話す。会社退職後は落ち込んだ浅野さんも、マイwayを利用することで、通う場ができ、収入も得られることに元気を取り戻したという。

 今後の課題は、良質で多様な仕事の確保だ。管理者の坂本栄一さんは「認知症は進行するので、症状に柔軟に対応できるように仕事を用意していきたい。仕事のバリエーションを増やしたい」と語る。そのためにも、若年性認知症の人を受け入れる障害者就労継続支援事業所が増えてほしいという。「横のつながり、ネットワークを作れば、共同して仕事を受注するなど、可能性が広がる」。地域の企業との連携も模索していきたいと話した。

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