画像はCBCニュースより
飼い主に捨てられて野良犬となった一匹の犬が多くの親切な人にバトンリレーのように助けられた結果、ついには海をも渡って新たな飼い主に巡り合いました。
そのメスの雑種犬はタイの首都バンコクのとある市場に住みついた野良犬でした。メルセデス・ベンツに乗った元の飼い主に市場に置き捨てられたことから市場の人々はメルセデスと呼んでいました。
市場の物売りの一人がメルセデスを可愛がり、エサを与えるなど世話をしていたのは幸運なことでした。
しかしその物売りが亡くなってしまいました。それでも市場の他の物売りたちがその後も代わる代わるメルセデスにエサを与えていました。
ところが良かれと思って物売りたちが与えていたエサはほとんどが揚げ物の残飯だったために、メルセデスはみるみる肥満体型になってしまったのです。5歳と推定されるメルセデスと同じぐらいの体長の犬の体重は約18キロなのに対して、メルセデスは最も重い時で54キロにも及びました。こうなると起き上って歩くのもほとんどできません。
2018年、メルセデスは親切な養護施設に引き取られました。施設が世話をしながらダイエットもさせた結果27キロまで減量に成功。しかしです。脂肪は落とせても肥満時の体を覆っていた皮膚がダブついて残ってしまったのです。皮膚の痛みを起こしやすい状態で、さらに膀胱感染症も患っていました。
そこで養護施設は、海外の動物愛護団体に協力要請の連絡をしたところ、カナダのオタワからボランティアの女性ジュヌヴィエーヴ・スミスさんが寄付で集めた1,000ドルを元手に海を渡ってタイまでメルセデスを引き取りにやって来たのでした。
メルセデスがオタワに渡って2週間。現地の獣医は余分な皮膚の切除手術が必要なものの、あと5キロの減量をしてからでないと手術ができないと語りました。そこからは新たな飼い主となったデーシー・トレイルさんの役割です。
メルセデスに運動のため散歩をさせたところ、散歩の経験がないからか、それとも芝生を見たことがないからか最初のうちは戸惑っているように見えたとトレイルさんは語っています。でも今では慣れて散歩が大好きになっているとのこと。さらには水泳をさせるためにライフジャケットも用意する予定だそうです。
今、タイからメルセデスを連れて来たスミスさんは手術を受けさせる費用3,000ドルの寄付を集めることに取り組んでいます。手術が済んでもメルセデスはタイに帰ることはなく、カナダでずっと暮らすことになるとスミスさんは語っています。
タイの道端や寺の境内では野良犬を多く見かけますが、そんな野良犬の中からまさかカナダにまで渡って健康を取り戻すばかりか優しい飼い主にも恵まれる犬が出るとは。運命というものは人も犬も関係なく面白いものです。(取材・文◎赤熊賢)