【甲子園】「最弱世代」の逆襲(1)東海大相模・野口裕斗投手

 2015年以来の全国制覇へ、東海大相模は大会第6日(11日)の第2試合で近江(滋賀)との初戦を迎える。主砲山村や大砲西川ら最強打線の中核を担う2年生の陰に隠れ、キャプテン井上ら3年生は首脳陣から「最弱世代」と呼ばれ、奮起を求められてきた。

■苦い経験

 きっと誰もがタテジマの未来を担うと信じたはずだ。2018年春の選抜大会で3試合に登板し、ベスト4へと導いた野口裕斗。小笠原慎之介(中日)を目標にしていたサウスポーが、ようやく聖地に戻ってきた。

 苦い経験が心にずっと刻まれていた。先発した選抜大会準決勝の智弁和歌山戦。初回に4点を先制したが、逆転を許して四回途中で降板した。

 「チームに勝てるなという雰囲気が出て、隙となって追い付かれた。どんな状況でも、全力で立ち向かってゼロで抑えるのがベスト」。10-12の敗北から学んだことを昨夏、昨秋と残念ながら結果に結び付けられなかった。

 エース格として期待されながら、新チームでも1番を付けることはなく、周囲から「最弱世代」と言われてしまう流れをつくってしまった。

■完全復活

 そんな左腕が、今夏の神奈川大会で完全復活を果たした。決勝で大会初先発。テンポの良い投球で5回を1失点で抑え込み、24得点を挙げた強力打線のリズムを呼んだ。

 初戦の近江戦でも同じ展開を予測する。「やっぱり野球は本塁を多く踏んだ方が勝つ。サガミの投手として、テンポ良く打線に火が付けられるような投球がしたい」

 「近江バッテリー」と「サガミの強力打線」の構図は願ったりかなったりだ。「逆に変な緊張感もない。自分の投球スタイルを曲げずに打者一人一人を打ち取っていくだけ」と冷静に、そのときに備えていく。

 選抜大会での反省を生かし、調整にも余念はない。大会期間中の投球過多で疲れをためた経験を踏まえ、今はしっかり腕を振ることを意識しつつ、「投げない時間も必要」とメリハリを付けた練習を心掛けている。2日の甲子園練習でも門馬敬治監督(49)から「一番落ち着いて練習していたな」と評された。

■野球日誌

 厚木市の南毛利中出身で愛甲シニア時代は日本代表にも選ばれた。入学早々の関東大会で公式戦デビューを飾ったが、エースの称号には最後まで届かなかった。「自分には付ける自信がなかった。でも、10番なら気分も楽に投げられる」。先発でもリリーフでも、頼まれた持ち場で力を発揮する準備はできている。

 2017年6月4日、入寮したその日から野球部のノートとは別に、自分だけの野球日誌を付けてきた。A5サイズのノートに毎日向き合い、丸1ページを埋めてきた。タテジマでの日々で導き出した答えがある。「向かっていく姿勢。気持ちで負けちゃ駄目だ」

 800ページに迫っているノートのエンディングは、仲間とともに4年ぶりの頂点を極めたその日と決めている。

◆のぐち・ゆうと 投手。緩いカーブを武器に冷静なマウンドさばきが光る。左投げ左打ち。3年。

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