「悲惨さ伝え 希望与える」 被爆十字架 浦上に返還 

贈呈式で児童に人形を手渡す米ウィルミントン大の学生(左)ら=長崎市橋口町、市立山里小

 旧浦上天主堂にあった被爆十字架が、原爆を投下した米国側からカトリック浦上教会(長崎市本尾町)に返還された7日、高見三明カトリック長崎大司教は「戦争の悲惨さだけでなく、罪悪を克服して生きる勇気と希望を与えてくれる」と語った。十字架を携え浦上を訪れた米国ウィルミントン大平和資料センターのターニャ・マウス所長は「多くの人々が、十字架にそれぞれの意味を見いだすだろう。喜んでお返しする」と晴れやかな表情を見せた。
 同教会の調査によると、十字架は祭壇の改修に伴い1938年までの数年間だけ、祭壇の装飾の最上部にあった。被爆マリア像(無原罪の聖母像)が、その下に安置されていた。
 高見大司教は「被爆マリア像と同じように、飾りなどが失われたり傷ついたりしている。戦争犠牲者の苦しみと悲しみを象徴し人間の残忍さと愚かさを証言している」と、被爆の実相を伝える力に期待を込めた。
 同大側から返還に訪れたのは、マウス所長とナンシー・マコーミック牧師、学生3人。返還に先立ち一行は7日、原爆で大きな被害を受けた長崎市立山里、城山両小を訪れ、学童クラブの児童と交流。戦前の日米親善人形交流でオハイオ州ウィルミントンから贈られた当時の人形が現在、平戸市にある縁にちなみ、米から持参した手作りの布製抱き人形を児童一人一人に贈った。
 マウス所長は「この人形で遊びながら、平和のことを考えて」と語りかけた。

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