信頼関係こそ「命綱」 路上生活者声掛けルポ

 クリスマス・イブの24日夜、路上での暮らしを余儀なくされている人たちに声を掛け、安否を気遣うボランティアによる訪問活動が横浜市中区の寿地区や関内で行われた。記者もこの日の訪問活動に参加すると、幅広い世代のボランティアたちが活動を楽しんでいる姿があった。野宿の人たちと信頼関係を築いた上で、仲間として接していることが伝わってきた。◆甘いケーキにご満悦(寿町・20:00) 「パトロール」と呼ばれる訪問活動はさまざまな団体や組織が行っているが、記者は今回「寿・関内夜回り仲間の会」に参加した。

 集合場所は寿町にある「市寿生活館」の会議室。記者が到着すると、幅広い世代の8人が集まっていた。この日、寿町でクリスマス会が開かれたという話題で持ち切りだった。寿町に住む「リーダー」と呼ばれる長老格のスドウさんは近所づきあいの中で、甘いケーキをプレゼントされたらしく、ご満悦の様子だ。

 例年に比べて冷え込みが緩んだイブだったことから、緊急時に渡す毛布を何枚持つかが話題になった。

 「渡すときはちゃんと本人に確認しないと。余計な荷物になるからと怒りだす人もいるから」。支援をしているつもりになって、相手にとって不要な毛布を配っているケースがこれまでにあったという。

 今回は5枚か3枚か。和気あいあいとした雰囲気で話し合った結果、経験を踏まえ3枚を持つことにした。この日配布する「ニュース」110枚も手に生活館を出発した。

 生活館の向かいには寿公園がある。年末年始には路上生活者に炊き出しや相談事業などを行う「越冬闘争」の拠点となっている。

 42回を迎えた今年の開催を29日に控え、公園には支援テントなどがほぼできあがっていた。

 「ニュース」は越冬闘争のスケジュールを中心に紹介している。無料の炊き出しや多彩な新春イベントなど、路上生活者にとって役に立つ情報が盛り込まれている。多くの人たちに伝わってほしいという思いが強くなる。◆キャロルが響く下町(寿町・20:50) 「クリスマスとは一番しんどい仲間とともに生きた人の生誕を祝う日だ。野宿の仲間とともに祝うクリスマスこそがクリスマスにふさわしい」 「お互いに支え合って冬を乗り越えていこう。そして、みんなで支え合って希望の春を呼び込んでいこう」 23日夜に訪問活動をした「横浜水曜パトロールの会」が配布した「ニュース」の文面だ。クリスマスは誰にも訪れる。簡易宿泊所が並ぶ寿地区でもクリスマスムードがあふれていた。

 寿地区の中心に位置する寿町勤労福祉会館にはツリーが設けられ、飾り付けが施されていた。ろうそくを手にクリスマスキャロルを歌いながら行進していた教会関係者が集まり、歌声を披露していた。

 寿町勤労福祉会館の1階と2階には20人ほどが野宿していた。「寒くないですか」「風邪とか引いてないですか」などと声を掛けてニュースを手渡していく。

 かつては40人ほどがいたというが、来年4月以降に解体工事が始まることからその数が減っているそうだ。◆対等な関係こそ大事(関内・21:10) 寿地区を離れた一行は、それぞれ雑談をしながら横浜文化体育館に向かった。

 体育館の入り口には男性が毛布の上に横になっていた。同じ目線になってから声を掛け、ニュースを手渡す。近くには別の人が使っていた毛布が置かれてある。

 スドウさんは「こっちの1人は遊びに行ったのかな」と言いながら、パトロール対象の人数を記録するノートに「文化体育館・1人」と書き込んだ。

 日ノ出川公園を通過して大通り公園に入ると、メタセコイアの根元で寝ている男性1人がいた。男性の近くにあるごみ袋には男性にとって貴重な家財道具や財産が入っているはずだ。静かに声を掛けて様子をうかがう。

 関内駅を回り、関内中央ビルで青い1人用テントを張って寝ている数人に声を掛けていく。

 関内駅周辺で野宿をしている人たちは生活保護の申請やホームレス自立支援施設の入所などを経験している人が多い。寿町に訪れたことがある人も少なくない。

 訪問活動の基本は、対等な人間同士として「互いに顔と名前がわかる関係」を築くこと。実際に名前で呼ぶ人たちも少なくない。

 路上で寝ている人たち一人一人に声を掛け、体調は大丈夫かと聞いていく。時には救急車を呼ぶこともある。声掛けを通じて生活相談に乗ったり、福祉事務所への橋渡しをしたりしているのだという。

 ◆地下で暮らす人々(関内・21:40) マリナード地下街につながる地下通路に着いたとたん、野宿している人の多さに驚いた。

 異様な光景だった。記者は、これまで目を背けていた。細い通路の壁に沿って、段ボールの仕切りがいくつも並ぶ。その数はざっと数えて30人から40人ほどに上る。

 毛布を頭からかぶって寝ている人が多いが、高齢者の姿が目立つ。確かにここは雨風を防げて暖かく、大勢の仲間とともにいるので安心できるのだろう。

 高齢のある男性が口を開いてくれた。路上生活と生活保護を繰り返し、先月まで寿町のホームレス自立支援施設にいたという。「年金をもらっているが暮らしていくには足りない。病院にも通っている」と訴えている。

 手元には「低所得高齢者に3万円 来春にも支援」という記事の切り抜きを大切に持っている。一日も早く春が来るのを心待ちにしていた様子だった。

 「オリジンさん」と愛称で呼ばれる寿支援者交流会の高沢幸男事務局長(45)は「生活保護になったら医療費を気にしなくていいから、生活保護を申請すればすぐに心がゆったりとすると思うよ」とアドバイスしていた。

 ◆靴下をプレゼント(関内・21・40) クリスマス・イブには、靴下を路上生活者にプレゼントするアートプロジェクトも関内や寿地区で行われた。女性美術家がツイッターやフェイスブックなどを通じて呼び掛けたもので、全国から303足が寄せられ、そのうち約100足を配った。

 企画したのは中区にアトリエを構える竹本真紀さん(39)。竹本さんら一行は赤いサンタ帽姿で靴下を配って歩いた。靴下には寄贈した人からのメッセージや、竹本さんが描いたキャラクター「コトブキンちゃん」の4こま漫画、チョコレートなどもセットになっていた。

 記者は竹本さんと地下通路で合流。ちょうど竹本さんたちから靴下をプレゼントされた女性の路上生活者は一瞬戸惑っていたが、中身を見て喜んだ様子だった。たまたま留守にしていた人たちにも行き渡るように、毛布や段ボールの上に靴下をそっと置いた。

 これまで路上生活者の訪問活動に参加していた竹本さんは「靴下がほしいという声が上がっていた」と話し、クリスマスプレゼントとして選んだ理由を教えてくれた。竹本さんの呼び掛けは多くの人たちの心に響き、当初の予想よりも多くの靴下が集まった。配りきれなかった靴下や下着などは、29日から始まる「越冬闘争」に寄付をするという。

 ◆きらめく光あふれ(伊勢佐木町、22:00) マリナード商店街からイセザキ・モールに出ると、街は色鮮やかな光と音楽にあふれ、若いカップルたちでにぎわっている。まぶしかった。

 記者たちはたった今まで、すぐ下の地下通路で野宿している高齢者たちと向き合っていた。毛布に身を包みながら寒さに耐える人たちの切実な言葉を聞いていた。それだけに、記者にとっては普段と変わらぬクリスマスの光景に違和感を覚えた。

 今回参加したボランティアは60歳代、40歳代、そして20、30歳代とバランス良く分かれている。ほとんどが毎回参加している常連で、2、3人でまとまって雑談をしながらコースを進む。一緒に話すうちに、次第に気持ちが落ち着いてきた。

 話題は声掛けの大切さや難しさに向かった。高沢さんは「僕たちは勝手に訪問して声を掛けるのだから、相手の気持ちを大切にしてあげることが大事」と強調した。

 若いメンバーからは「声を掛けたら怒鳴られたことがある」という経験談も。「元気かどうかを確認しているので、怒鳴るほどの元気があれば目的の半分は達成したということじゃないか」と誰かが言うと、一斉に笑いが起きた。

 高沢さんは「あなたのことを気に掛けている人がいますよ、というメッセージを届けていきたいという思いで続けています」と一貫した姿勢を説明した。

 ◆ハマスタにテント(横浜公園・22:10) 訪問活動の最終目的地は横浜スタジアム。横浜公園は薄暗く、人影はまばら。

 ボランティアで参加している若い男性と並んで歩きながら話をすると、今は無職と話していた。確実に仕事が得られるという保障はどこにもないという。

 「僕も路上で生活することになるかもしれない」。もし、自分だったらという気持ちで路上生活者と接していると話してくれた。

 生活に困窮する若者たちが増えていく「貧困の連鎖」が社会問題となっている。野宿するのではなく、ネットカフェ難民も多くいるが、その場合は支援の目からは届きにくいのが現状だ。

 路上生活者やホームレス問題は解決が難しい。だけど、本人たちが責められたり、強制的に何かを強いられるなどの人権を侵害されるべきではない。誰もが安心して生活できる社会にするために一丸となって向き合うテーマであり、路上生活をしていない側も問われていると思った。

 横浜スタジアムを囲むフェンス沿いには段ボールの囲いやテントが並んでいた。数えると30人ほどいるようだ。

 スタジアムのひさしで雨は防げるかもしれないが、冷たい風が直接吹き寄せる過酷な環境だった。ここは野宿に慣れた人たちが多く、テントは米軍関係者が数年前にプレゼントしたといううわさがあると、ボランティアの1人が教えてくれた。

 110枚のニュースはすべて配り終えた。3枚の毛布も渡した。人数を記録した須藤さんは、路上生活者の合計を発表した。今回は86人。うち女性2人。前回は90人余りだったのでわずかに減った。◆自由参加で気軽に 路上生活者や簡易宿泊街(中区・寿地区)で暮らす人々の状況に心を痛め、何かをしたいというメンバーが集まったのが「寿・関内夜回りの仲間の会」。代表も規約も参加資格もない自由な組織だが、毎月第2・4木曜日に関内駅や市庁舎周辺、横浜スタジアムなどに路上生活者への訪問活動(パトロール)を行っている。

 寿・関内夜回りの仲間の会や寿支援者交流会、寿日雇労働者組合など、寿町で活動する7団体が組織する「寿越冬闘争実行委員会」は29日から1月4日までの年末年始、寿公園で42回目の「越冬闘争」を行う。29日から6夜連続でパトロールをする。炊き出しを行い、31日はそば、1日は餅つきなどを楽しむ。

 越冬闘争の問い合わせは、生活館4階事務室の高沢さん電話045(641)5599。

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