「リヴァプールとシティ。前哨戦で明らかになった、プレミア優勝候補の課題と取り組み」

プレシーズンの延長として扱われやすいイングランドのFAコミュニティシールドだが、1898年に設立された伝統のある大会だ。

当初はアマチュアとプロクラブの対戦だったが、時代と共に変化を重ねていった結果、現在のようにプレミアリーグ優勝チームとFAカップ覇者が対戦する形式となった。

2018-2019シーズンはFAカップとリーグの両方をマンチェスター・シティが獲得したため、リーグ2位のリヴァプールが対戦相手となる。

プレミアリーグでも激戦を繰り広げ、欧州の舞台でも力を発揮した2チームの対戦は、今季の鍔迫り合いを予測させる好ゲームとなった。

動画を見たい場合はここをタップ!

マンチェスター・シティの丁寧なプレッシング

先に戦術的な仕上がりを感じさせたのは、マンチェスター・シティ。

ペップ・グアルディオラがプレシーズンを費やし、1つのオプションとして昇華されつつある「スターリングのセンターフォワード起用」によって、プレッシングの圧力を強める。

前線のコパ・アメリカ組が間に合わないことによる苦肉の策にも思われがちだが、横浜F・マリノスとの試合でもビルドアップを機能不全に追い込んだように、守備面では効果的なオプションだ。

まず、マンチェスター・シティは中盤の底に位置するファビーニョへのパスコースを消しながら、果敢なプレッシングを実施。タイミングに合わせてダビド・シルバとベルナルド・シウヴァが前に出て、スターリングがファビーニョ周辺を消すパターンも披露しながら、リヴァプールの自由を奪う。

サネが負傷交代してからも、投入されたガブリエウ・ジェズスが積極的なプレッシングを継続。ダビド・シルバとジェズスがコミュニケーションを取りながら、どちらかがファビーニョへのコースを消していく。

ベルナルド・シウヴァのポジショニングも絶妙で、ファン・ダイクの背後側から追いかけることでロバートソンへの展開を封じる。これもセオリーには合わないかもしれないが、アンカーへの縦パスを封じた局面における効果は大きい。

ファビーニョを消された場合、ユルゲン・クロップには「ヘンダーソンやワイナルドゥムを1列下げる」というチャンピオンズリーグ決勝で採用したオプションもあったが、無理には動かない。

コミュニティシールドで手の内を明かすのではなく、選手自身の判断をベースに対応させたというイメージだろう。サディオ・マネ不在ということもあり、サイドに蹴り込んでセカンドボールを回収するオプションが使えなかったこともあり、リヴァプールのビルドアップは停滞。

唯一サラーの背後を突破口にしながら模索を続けるも、答えを出せない状態が続いた。ただし、前半は受けに徹しながらも、ジョー・ゴメスのカバーリングとファン・ダイクのリーダーシップで耐え切ったことは賞賛すべきだろう。

流れを掴んだマンチェスター・シティは、積極的なフリーランニングをベースにハイラインを攻略。デ・ブライネやベルナルド・シウヴァが裏やハーフスペースに抜け出し、好機を作り出す。デザインされたセットプレーからスターリングが沈め、重要な先制ゴールを奪う。

マンチェスター・シティの実験的ビルドアップ

ペナルティエリア内でゴールキックを受けられるようになったルールを早速活用したグアルディオラは、実験的なビルドアップを試みる。それが、GKの横にオタメンディを配置したシステムだ。

ボックスの中盤に近い陣形であることから「ダブルボランチ・システム」と簡易的に名付けられていたが、基本的には4枚を置くことで相手のプレッシングを牽制しやすい。

特にストーンズとロドリの位置に選手を送り込むと、その背後に生まれたスペースを使われやすくなるので、仕掛けづらいのが本音だろう。

デ・ブライネやベルナルド・シウヴァを擁するシティ相手では、無策で飛び込むことは失点に直結する。リヴァプールは本来の果敢なプレッシングを自重し、特に前半はマンチェスター・シティが後方でボールを保有することになった。

ボックス状態でプレッシャーを軽減した後、CBの中間にGKのブラボが入り込むような大胆なビルドアップも散見されたように、グアルディオラは積極的に実験を仕掛けていた。

リヴァプールの見事な修正

後半に入ると、徐々に攻守に走行距離が長かったマンチェスター・シティの前線に疲労の色が見え始める。特にガブリエウ・ジェズスはコパ・アメリカ組ということもあり、強度の高い守備が徐々にこなせなくなっていく。

そうなれば当然、天秤はリヴァプールに傾く。サラーの裏を意識させながら、優勢にゲームを運んでいく。

グアルディオラにとっての誤算は、デ・ブライネをトップ下に変更したことだろう。リヴァプールの得意とするトランジションゲームという土俵に乗り込んだ結果、相手に勢いを与えることになってしまった。

前半のクロップ同様、無理に流れを断ち切るような交代をグアルディオラが選択しなかったことで、リヴァプールがロドリの周辺に生じるスペースから仕掛けていく。

秀逸だったのはアダム・ララーナとナビ・ケイタの投入で、彼らがボールを受けることでリヴァプールはゲームを構築することに成功。

特にナビ・ケイタは前半消されていたファビーニョの横に下がってきてボールを受けるような動きで、4-4-2に近くなったマンチェスター・シティの泣き所を攻略。ベルナルド・シウヴァはサイドバックとケイタの2枚を相手にしなければならない状況が続き、前からのプレッシングは無効化された。

オタメンディを中心に要所は抑えていたものの、リトリートしての守備は不安定で、特にロドリがネガティブ・トランジションの局面でフィルターになりきれない場面が目立った。

同点弾を沈めるだけでなく、何度となく決定機を創出したリヴァプールは圧倒的な破壊力の片鱗を見せつけた。

リズムを変化させられるララーナと、ボールを受ける際に広い範囲を走り回れるケイタの組み合わせは、今季のリヴァプールにおける注目株だろう。

前線の得点力を把握しているからこそ、今のリヴァプールはビハインドでも慌てない。バルセロナ相手に大逆転を演じた彼らは、自分たちの得点力を計算しながらゲームを進めていく。

プレミアリーグを牽引するであろう2チームの激突は、互いの課題と武器を明確にした。シーズンの始まりを、楽しみに待つとしよう。

マンチェスター・シティ、リヴァプールの両チームが重要視している「ポジショナルプレー」という思想を読み解いた「ポジショナルプレーのすべて」が絶賛発売中です。

発売後数日で重版が決定した意欲作を、是非お楽しみ下さい。

© 株式会社ファッションニュース通信社