「簡単に不安なんてなくならない」―中日小笠原が364日ぶり1軍で見せた“進化”

中日・小笠原慎之介【写真:荒川祐史】

チームのサヨナラ負けで378日ぶり白星お預けもプロ最速151キロ「試合に負けたら何の意味もない」

 故障で出遅れていた中日の小笠原慎之介投手が10日、横浜スタジアムでのDeNA戦に今季初先発。6回途中まで6安打2失点(自責1)に抑え、上々の復帰登板となった。勝ち投手の権利を得ながらチームがサヨナラ負けを喫して自身378日ぶりとなる白星はお預けとなったが、プロ入り最速を更新する151キロも記録。シーズン終盤に向け、期待の左腕が帰ってきた。

 立ち上がりから全開だった。直球で押しに押し、先頭打者の神里に対しては151キロを記録。4回までほぼ毎回走者を背負いながらも無失点で切り抜けた。さらに自らのバットでも5回に中前打で出塁し、二塁走者で迎えた2死一、二塁からの中前打で本塁へ激走。泥臭いスライディングで生還し、泥だらけになりながら自らを助ける追加点を挙げた。

 中盤以降は疲れが顕著に見え、5回に野手の失策から失点。6回には先頭打者で迎えたDeNAルーキーの伊藤裕季也内野手にプロ初本塁打を浴びたところで降板した。ベンチから勝利を願ったが、チームは痛恨のサヨナラ負け。先発としての役目を十分には果たせなかった自らへのいらだちを抑えながら、「全然ダメ。試合に負けたら何の意味もない」と言葉を絞り出した。

「そんな簡単に不安なんてなくなりませんよ」

 2018年7月28日に東京ドームで巨人・菅野智之投手と投げ合って完封して以来、遠ざかっている勝利の味。昨秋、遊離軟骨の除去手術を受けた左肘は順調に回復したが、もともと不安のあった左肩に今季は悩まされてきた。快方に向かってプルペン入りにこぎつけたかと思えば、ぶり返して投球を控えるという一進一退の繰り返しだった。

「そんな簡単に不安なんてなくなりませんよ」

 状況を問う周囲に、そう語気を強めるほど精神的に苦しい時期もあった。16年にドラフト1位で入団し、将来のエース候補として期待されながら3年間で通算12勝。大幅に出遅れた4年目に危機感を募らせない方がウソだった。地の底を這うような気持ちに耐えながら、憧れの存在でもある松坂大輔投手から助言も受け、焦りを捨ててリハビリに励んできた日々。364日ぶりに踏みしめた1軍マウンドで、時折笑みがのぞく場面もあった。

 この1年は決して停滞ではない。まずは代名詞の直球で、4年目の“進化”を見せた。神奈川県藤沢市出身の小笠原にとって、慣れ親しんだ“地元”ハマスタで踏み出した再出発。中日の未来を背負う21歳の背番号11が、次こそ勝利をもぎとってみせる。(小西亮 / Ryo Konishi)

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