【高校野球】東海大相模、効果の高い走塁で6得点 データで楽しむ夏の甲子園【6日目・第1、2試合】

第101回全国高等学校野球選手権、6日目第1、2試合の結果一覧

延長戦の作新学院と筑陽学園、リスクの高い盗塁が初戦突破の呼び水に

 優勝候補同士の対戦や、優勝経験のある強豪校の出場が相次ぎ、満員札止めとなった夏の全国高等学校野球選手権大会第6日目第1、2試合。セイバーメトリクスの指標で各校の闘いぶりを振り返ってみます。

 指標の説明は以下の通りとなっています。

OPS 出塁率+長打率 1を超えると優れている
wOBA 各プレーの得点価値を累積して算出した打撃指標
O-swing% ボールゾーンに来た球をスイングした割合
Z-swing% ストライクゾーンに来た球をスイングした割合
Swing% スイングした割合
O-contact% ボールゾーンに来た球をスイングした際にバットにボールが当たった割合
Z-contact% ストライクゾーンに来た球をスイングした際にバットにボールが当たった割合
Contact% スイングした際にバットにボールが当たった割合
Zone% ストライクゾーンを球が通過した割合
SwStr% 空振り率

WHIP:1イニングあたりに許したランナーの数
P/IP:1イニングあたりに投球した球の数
GB/FB:フライに対するゴロの割合

○作新学院 5-3 筑陽学園

【作新学院】
打率.263 OPS.575 wOBA.306
O-swing% 19.0% Z-swing% 59.1% Swing% 42.4%
O-contact% 33.3% Z-contact% 92.3% Contact% 81.3%
Zone% 58.3% SwStr% 7.9%

【筑陽学園】
打率.243 OPS.615 wOBA.301
O-swing% 19.3% Z-swing% 58.8% Swing% 42.3%
O-contact% 45.5% Z-contact% 87.2% Contact% 79.3%
Zone% 58.4% SwStr% 8.8%

作新学院・林勇成投手の各指標

10回 打者数39 投球数137
WHIP 1.00 P/IP 13.70 GB/FB 1.58
ストレート55.5% スライダー 32.8% カーブ6.6% カットボール5.1%
Zone% 58.4% 空振り率 8.8%

筑陽学園・西舘昂汰投手の各指標

10回 打者数42 投球数151
WHIP1.20 P/IP 15.10 GB/FB 1.50
ストレート55.6% スライダー 38.4% カットボール 3.3%
Zone% 58.3% 空振り率 7.9%

 打率、OPS、wOBAやセイバーメトリクスによる打撃指標が似通った両チームの対戦らしく、ゲームは延長戦にまでもつれ込みました。作新学院の林投手は要所でスライダーを駆使し空振りを取るピッチングで8回1失点に抑えてきましたが、9回はそのスライダーが落ちきれずゾーンに入ったところを弾き返され同点に追いつかれました。

 同点に追いつかれ延長にもつれ込んだ試合において、作新学院の勝利に大きく貢献したのは1番打者の福田選手でした。盗塁は失敗のリスクの高い作戦で、この試合でも作新は2つの盗塁失敗でチャンスを潰してきました。しかし延長戦という緊迫の状況の中、福田選手は積極果敢に二盗、三盗を決めました。これが作新学院3年ぶりの初戦突破の呼び水となりました。

近江・林はチェンジアップで空振り率44.4%も、合計6個のエラーが致命傷に

○東海大相模 6-1 近江

【東海大相模】
打率.167 OPS.384 wOBA0.327
O-swing% 38.0% Z-swing% 76.1% Swing% 59.8%
O-contact% 42.1% Z-contact% 84.3% Contact% 72.9%
Zone% 57.3% SwStr% 17.1%

【近江】
打率.125 OPS.378 wOBA.249
O-swing% 24.7% Z-swing% 61.6% Swing% 41.0%
O-contact% 26.1% Z-contact% 82.2% Contact% 63.2%
Zone% 44.0% SwStr% 15.1%

○東海大相模 投手の各指標

遠藤成
7回1/3 打者数27 投球数116
WHIP 0.55 P/IP 15.82 GB/FB 1.29
ストレート48.3% スライダー 42.2% フォーク6.9%
Zone% 43.1% 空振り率 15.1%

紫藤大輝
1回1/3 打者数6 投球数40
WHIP 1.50 P/IP 30.00 GB/FB 0.00
ストレート62.5% スライダー 37.5%
Zone% 45.0% 空振り率 10.0%

○近江・林優樹投手の各指標

9回 打者数37 投球数118 
WHIP 0.78 P/IP 13.11 GB/FB 4.17
ストレート34.7% スライダー 29.7% カーブ 19.5% チェンジアップ16.1%
Zone% 57.3% 空振り率 16.9%

 地方予選を強打で勝ち抜いた東海大相模に対するのは、前年ベスト4を経験してきた近江。林投手は東海大相模相手に被打率.167、WHIP 0.78、被本塁打0と、データ上では完璧と言えるほど抑えてました。外角に71.8%、低めに45.3%を集めるなど丁寧なコントロールでGB/FBは4.17とゴロの山を築きました。

 また、4種類の球種をうまく使い分け、チェンジアップで44.4%の空振りを取るなど、トータルで16.9%の空振り率で東海大相模打線を翻弄しました。しかしながら、地方大会で失策0で乗り切った守備にほころびが出て、失策出塁は5、牽制悪送球のエラー1と合計6個のエラーが致命傷となってしまいました。

 東海大相模の打線はOPS.384と押さえ込まれた形となりましたが、相手の送球間をつくスキのない走塁でチャンスを広げ、近江にプレッシャーをかけ続けていきました。特に6回表の攻撃では、長打を打ったわけではないのですが、打者走者が積極的に二塁を狙い、常に得点圏にランナーを置き相手にプレッシャーをかけていきました。セイバーメトリクスにおいて走塁の効果を示すUBRが高い攻撃を行った結果が6得点につながったと言えるでしょう。また東海大相模の投手陣も外角に73%の球を集め、近江打線を散発4安打に抑えました。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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