『山で目立つのは何色?』テストしてわかった、色以外の大切なポイントとは・・・ 登山で最も大切な装備のひとつ、レインウエア。今回は、そんなレインウェアで少し変わったテストを実施。道迷いや怪我、体調不良で動けなくなった時に、なに「色」のレインウエアを着ていると、他の登山者やハイカー、捜索してくれる方から見つけてもらいやすいのか?という、森の中での色の見え方を確認してきました!

2018年、山での遭難件数は過去最高に・・・

警察庁が発表している「平成30年における山岳遭難の概況」によると、山での遭難件数は増加の一途をたどっています。だからこそ、地図とコンパスや登山用地図アプリを活用するなどして、現在地と目的地を確認しながらトレイルを進むことが大切です。

もし、遭難してしまい自分(達)の力ではリカバリーが無理だと感じたら、早めに救助を要請しましょう。その時に登山者が自分の居場所を知らせる方法として、ホイッスルやミラー、ライト等があります。そして、それらと同様に有効なのが、目立つ色のウエアを着ること

今回は「救助者に早く見つけてもらうための方法」をテーマとしてある実験を行いました。

まずはこちらの写真をご覧ください

上の写真の中央、トイレルの分岐の所に黒っぽいウエアを着ているハイカーがいるのがわかりますか? この写真では、直線距離で約200m(高低差が約70m)程はなれているのでほぼ認識できません

この写真は、上の写真で見た分岐を別角度から撮ったものです。上の写真よりも近づいているので、立っている人が「青いジャケットを着ている」ということまでわかります。
※距離は約100m

最後に、これは紅葉の終わりの時季に撮った落ち葉に埋もれた森のトレイルの写真です。ハイカーは、グレーのジャケットに黄色に近いグリーンのレインカバーを付けたバックパックを背負っています。

小雨が降っていて薄暗く、黄葉の残った木々にも馴染んでしまい、レインカバーの色があまり目立っているとはいえません。すぐ近くに立っているので、人がいることはわかりますが・・・。

このように、山ではウェアなどの身に付けるものの色が、自分の存在を目立たせたり、反対に見つけにくくしたりするのです。

山の中で”ウェアの色の見え方”をテスト!

一般的には、エマージェンシーカラーと呼ばれる赤や黄色が目立ちやすく、アースカラー系は見にくいと言われています。
でも、本当にそうなのか? どれくらい見え方って違うんだろうか? という疑問を確かめてみようというのが、今回のテストの狙いです。

テスト概要

今回のテストでは、レインウエアの定番モンベル/ストームクルーザーの代表的な6色を使用。天気は曇り時々薄曇り。光が森の中に入らず、ちょっと見にくいかな?ということもある状況でした。

【テスト方法】
・レインジャケットが男性の背丈ほどの170㎝の高さになるように、樹間に張ったロープに吊るす
・背景は2種類(樹林帯と谷)
・新緑の時は距離を20mと45mの2種類で確認
・時間帯は13時から3時間
※夜の捜索は基本的に行なわれないため、夜間テストは行っておりません。

それでは、色別に結果を見ていきましょう。

【1】エマージェンシーカラーの代表 、”赤”は安定の実力!

多くのブランドがレインウエアにラインナップする赤の結果を見ていきましょう。

20mの距離だと

さすが目立ちます。赤のジャケット撮影時はすこし暗くなったのですが、背景の新緑との色味の違いがはっきりとしているので、問題なく赤色ジャケットの存在を確認できます。

45mまで離れてみても

倍位以上の距離になっても、しっかり赤色を確認できます。

森に赤や黄色が増える紅葉の最盛期だと、ヘリコプターの捜索の場合は見にくいかもしれません。ですが、赤色の質感が違うので、同じトレイル上から見ても紅葉以外にグレーや黒っぽく見える幹や針葉樹の緑等の色があるので、見えると考えられます。

谷の場合は?

谷側を背景にしても、問題なく赤色を主張しています。緊急時のことを考えたら、レインウエアかバックパックのどちらかに赤を入れていると安心かもしれません。

【2】緊急時によく見る”黄色”の実力は?

赤と同じくエマージェンシーカラーである黄色の結果を、見ていきましょう。

20mの距離だと

今回のウェアはやや彩度が低く、ビビッドさが控えめでコーディネートしやすい黄色。ですが、やはりエマージェンシーカラーなのでしっかり目立ちます。

45mの距離まで離れてみると・・・

撮影時に濃い雲がやってきてかなり暗くなったのですが、はっきり確認できました。もっと明るい黄色だと、暗くなってきた時にさらに目立ちやすいかもしれません。黄葉の秋の森でも、明るい黄色であれば森になじまず違和感があると想像します。

谷の場合は?

もっと目立つと予想していましたが、むしろ写真以上に、目立った感はありませんでした。彩度が低く山吹色っぽい黄色なので、逆光だと黒っぽく見えてしまうのかもしれません。

光は常に順光で当たる訳ではないので、色の明るさを考慮することも大切なのかもしれません。

【3】新緑の森で”緑”はどう見えるのか?

葉っぱと同じ色の緑。若干不利な気もしますが見てみましょう。

20mの距離だと

新緑のグリーンと重なって見えにくいんじゃないかと予想しましたが、木の幹、そして地面に敷き詰められた枯れ葉が背景になり、しっかり見えました。

45mの距離まで離れてみると・・・

黄色でも書きましたが、色の明るさってやっぱり重要なのかも!? という結果に。例えばもっと濃い緑だったら、背景に沈んで見えづらくなったかもしれません。

谷の場合は?

緑を背景にしたら目立たないんじゃないか? と思いましたが、実際には写真より目立っていました。逆に暗く濃い緑だったら、間違いなく見えづらかったと思います。やっぱり色の明るさがカギなのか・・・。

【4】明るめだけれど、アースカラーのベージュは?

登山ウェアでも人気のアースカラー。その中の一つであるベージュはどうでしょうか?

20m離れただけで・・・

実際は写真よりも、もっと明るめのベージュです。正直、ここまで見えにくいとは思いませんでした。メインカラーの見えにくさを考慮してか、フロントジッパーがオレンジ色なのでわずかに存在を感じます。

45m離れるとますます

吊していることを知らなければ、ベージュのジャケットを見つけることを難しいでしょう。このテストしていて気づいたのですが、森の中は葉っぱの緑や秋の葉の赤や黄色よりも、むしろ落ち葉や木の幹の茶系、岩のグレー系の色に溢れた世界が多いんです。

緑の谷を背景にしてみても

動物写真を撮りたい等の目的があり、山でできるだけ目立ちたくないというハイカーにはベージュは良いかもしれません。それくらい目立たないのです。カモフラージュ柄の色味が、なぜベージュ基調なのかがよく理解できました。

【5】目立たない色の代表、”黒”はどうか?

シックで男女問わず若年層のハイカーを中心に人気のある黒はどうでしょうか?

20m離れると

探そうとしているのでしっかり見えます。ですが、トレイルの脇にこの距離で座っていたとしたら、なにかの影のように見えて見落としてしまうかもしれません。

45m離れると

背景の木の幹と重なり、ほぼ同化しています。バックパックも含めて黒系のコーディネートだったら、動物や岩と見間違われても不思議ではありません。

日が暮れてきて、光が入ってこない状況になると、さらに周囲の暗さや影と同化してしまうでしょう。

背景を明るい谷側にしてみました。この場合も探そうとしているから気が付きますが、距離が10mも離れていないのにかなり見にくく感じました。

【6】果たして”青”は目立つのか?目立たないのか?

最後は自然の中に少ない色でもある青色。黒系の近い気もしますが・・・。

20mの距離からは

山の景色の中で目立つブルーシートを見たことがありましたが、自然に少ない青がこんなにも目立つとは。そのせいか、メーカーでもレインウエアに青をラインナップすることが増えているように感じます。

45m離れても

青は目立つというより、強い違和感があるという表現があいます。紅葉の時期でも、きっと同じでしょう。山の上からブルーシートを見つける時と、同じ。なんだ、あの青は!? という感じです。

緑の谷の背景では

背景は緑で明るいですが、この時も厚い雲がやってきてかなり暗くなりました。たぶん完全に暗くなったら青は黒っぽく見えてしまいますが、薄暗い中では赤や黄色よりも青の方が見えやすく感じました。

青が目立つ秘密は【プルキニェ現象】

雨天時や曇り等、薄暗い中でも青が目立ちました。これは、人の目は暗くなる程に青色に敏感になるという「プルキニェ現象」が原因。

逆に明るい場所では、赤が鮮やかに遠くまで見えると言われていることは感覚通りだと思います。

救助隊の方にも色に関するアドバイスをもらいました

今回のテスト結果を、実際に遭難者の捜索を行っている東京都山岳連盟救助隊隊長の金子さんにも見せて、色に関するアドバイスをもらいました。

金子さん

これは大変意欲的かつ、実践的な実験ですね。

色の”明るさ”も大切

山の中では空の色や光にうつされた水の色以外に、青色はあまり存在しないので目立ちます。紺色に近いような青よりも、明るい青色の方が目に付きやすいです。

その他、認識しやすい色は明るい赤や明るいオレンジ色。蛍光のオレンジ色は、紅葉の時季でも案外目立ちます。

周りの環境にも注意を払おう

灰色や黒、こげ茶は40mくらい離れると認識しにくくなります。

それ以外でも、緑がいっぱいの場所だと緑は見えにくくなり、雪の上だと白は認識しにくくなります。また、紅葉の時季には茶色や濃いオレンジも落ち葉と同じ色だと見つけにくくなりますので、周りの環境と似た色にならないように気をつけましょう。

金子さん

あなたが骨折や疲労で身動きが取れなくなり救助を依頼した場合、認識されやすい色の雨具を広げるとヘリコプターやドローンで発見されやすくなります。

もし持っていない場合はレスキューシートを広げて動かしてください。光が反射して見つけやすくなります。

明るい場所では”赤”

薄暗い場所では”青”や明るい色

予想通り、目立つ色は赤や黄色のエマージェンシーカラー。反対に黒、アースカラーのベージュは、やはり目立ちにくいことを再確認。

明るい緑も案外よく目立ったり、青は自然界にあまりない色なので違和感を感じたりということもわかりました。

20mからの距離の一覧

45mからの距離一覧

ただし早合点は禁物!

山や森の中の環境は、常に一定ではありません。どんな状況でも赤が万能、違和感は青が一番という早合点は禁物です。そもそも天候が悪かったり、霧が出ていたら、ほとんど周囲は見えません。

それらの色は他の色に比べて目立ちやすいというだけで、それを着ていれば安全という訳ではないので、他の安全対策も忘れずに。

もしものことも頭に入れながらコーディネートを楽しもう!

今回はレインウエアで目立つ色のテストをしましたが、バックパックや帽子に赤、黄、青といった目立つ色を取り入れてもよいでしょう。モノトーンやアースカラーでコーディネートしたいという方は、山の中では目立ちにくいということを考慮して、別のアイテムで目立つ色のものを持ったり、それ以外の準備・装備を怠らないように注意してください。

それでは皆さん、よい山旅を!

今回のテストに使用したモンベル/ストームクルーザー ジャケットMen’sの詳細を知りたい方は、下のボタンから確認してください。

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