核関連事故でまた露呈したクレムリンの隠蔽体質

By 太田清

2018年3月1日、年次教書演説で新型兵器を発表するプーチン・ロシア大統領(タス=共同)

 ロシア北部アルハンゲリスク州の海軍実験場で起きた爆発事故で、事故への関与を認めた国営原子力企業ロスアトムの当局者が12日までに、小型原子炉を開発していたことを明らかにした。トランプ米大統領はツイッターで、爆発について、ロシアが開発を進めている原子力推進式巡航ミサイル「ブレベスニク」の発射実験失敗によるものだったと指摘するなど、核を動力源とした新型ミサイル打ち上げ失敗との疑惑も浮上している。 

 一方で、ロシア政府は事故について当初、情報を小出しにするなど明確にせず、不安に駆られた周辺住民が甲状腺への放射線による健康被害を緩和するヨウ素剤を薬局で買いあさるなどパニックを引き起こした。現時点でも事故の規模や原因などは明らかになっていない。クレムリンの隠蔽体質は1986年のチェルノブイリ原発事故を隠し、被ばく地の住民に深刻な健康被害をもたらした旧ソ連時代と変わっていないとの指摘も出ている。 (共同通信=太田清) 

 ▽放射線情報削除 

 ロシア主要メディアの報道によると、爆発事故は8日、同州ニョノクサ近くの海上施設で発生。周辺にある人口約19万人のセベロドビンスク市当局は直後、公式サイトで放射線レベルが一時的に上昇したと報告。しかしこの情報はなぜか、サイトから削除された。一方、国防省は同日、「液体燃料のジェットエンジン」が爆発したと発表したが、なぜ放射線レベルが上昇したかについては触れなかった。 

 10日になり突然、ロスアトムが爆発への関与を認めた上で職員5人が死亡、3人が負傷したと発表。国営原子力企業の関与により、原子力関連の事故である可能性が強まったが、ロスアトムは「同位元素を使用した燃料エンジン装置の実験中」の事故だと述べるにとどめた。ロスアトム傘下の核・実験物理学研究センターのソロビヨフ主席研究員は11日放映のテレビインタビューで、死亡した5人が同センターの研究者であると認めた上で「放射性物質を使った電力源、小型原子炉の開発に取り組んでいる」と述べ、ようやく原子炉の開発が行われていたことが明らかになった。 

 ▽米紙「新型ミサイル失敗」 

  こうした中、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は12日、米情報機関の情報として爆発についてブレベスニクの発射実験の失敗の可能性が強いと報道。トランプ氏のツイッターでの言及もおそらく、情報機関からの報告を基に行われたものだろう。 

 ブレベスニクは、プーチン大統領が2018年3月の連邦議会に対する年次報告演説で、米国が世界で進めるミサイル防衛(MD)網構築に対抗するため、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」とともに開発中であることを明らかにした。

 原子力エンジンで飛行距離を延ばし、低高度かつ複雑なルートを飛ぶためMDシステムのレーダーにかからない点が特徴。大統領はミサイルが米国本土を目指すCG映像を映し出す大型スクリーンの前で「飛行距離は無限」と豪語していたが、米CNBCテレビなどは2017年11月から18年2月にかけ、同ミサイルの発射実験が4回行われ、すべて失敗したと報じていた。 

 ▽矛盾 

 一方、ロスアトムのリハチョフ社長は12日、爆発は「新型兵器」の実験中に起きたと言明したが、新型兵器がブレベスニクかどうかについては明らかにしなかった。もしブレベスニクの爆発であれば「液体燃料のジェットエンジン」との当初の説明と矛盾しているとの指摘もある。ブレベスニクは文字通り原子力エンジンで飛行、打ち上げ時に固体燃料を使うとされるものの推進用の液体燃料は使用しないからだ。

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