ニュルブルクリンクって何がスゴいの?|自動車メーカーがニュルを使う理由とは

第47回ニュルブルクリンク24時間耐久レースに出場した90号車 GRスープラ

世界のどこにも存在しない唯一無二の存在

ドイツ・北西部にあるサーキット「ニュルブルクリンク(通称:ニュル)」は、1周約5.1kmのグランプリコースと1周20.8kmの北コース(ノルドシュライフェ)と2つのコースがあるが、北コースには世界の主要自動車メーカーは足しげく通う。

ニュルブルクリンク

そもそも、自動車メーカーは自前で巨大なテストコースをいくつも持っているし、サーキットならば各国にインターナショナル級のコースはたくさん存在する。ちなみにニュルのコースサイドは誰でも簡単に行けるのでスクープもされ放題である。なぜ、彼らはそんなリスクを冒してまでニュルに来るのだろうか?

その答えは非常に単純で、このようなコースは世界のどこを探しても存在しないからだ。まず1周20.8kmと一般のサーキットと比べて距離が長い。ちなみに富士スピードウェイが4.6km、鈴鹿サーキットが5.8kmと比べるとそのスケールの違いが解るはず。ちなみにスタート地点は快晴でもコース中盤は豪雨と言うような天候の差も。

一方通行の荒れたワインディングのよう

SUBARU WRX STI NBR CHALLENGE 2018

また、主要サーキットの多くは路面がフラットな上に安全性のためにエスケープゾーンも多く用意されているが、ニュルは山間部の高低差をそのまま利用して作られており、サーキットと言うよりも「一方通行のワインディング」と言ったレイアウトである。

標高差300mはアップダウンと言うより「空に向かって」、「崖の下に向かって」と言うような感覚で、170を超えるコーナーは低速から超高速域のスピードレンジでジャンピングスポットはもちろん、先が全く見えないブラインドコーナーも存在。更にコース上のどこにも平らなところがない」と言われるくらい路面が波打っており、埃っぽく滑る。

もちろん、自動車メーカーのテストコースにはニュルの路面を模した所もあるにはあるが、長年使われて自然に荒れた路面とは違う。

生きた道を走らなければいいクルマにはならない|自動車メーカーがニュルを使う理由とは[次ページに続く]

SUBARU WRX STI NBR CHALLENGE 2018 ニュルブルクリンク24時間レース(2018)

安心して走るための性能のすべてが丸裸に

そんなニュルではクルマの何が解るのか?

ルノー メガーヌ R.S. TROPHY-R ニュルブルクリンク・北コース最速を記録

それは走る/曲がる/止まると言った“基本性能”である。ニュルでは上下左右のみならず三次元的なGが連続して掛かるため、ボディの動的な剛性が問われる。ステアリングは正確なライントレース性が求められるし、サスペンションも無駄な姿勢変化を抑えつつ、タイヤを路面から離さないしなやかさとストロークが必要となる。

ブレーキも単純な性能能力だけではダメで、踏力コントロールや緻密なABS制御も重要となる。更には、ステアリング/シートの性能やメーターやスイッチ類の見やすさや使いやすさ、更には視界性能に至るまで、「安心して走る」ための性能の全てが、過酷なコースを通じて丸裸になってしまうのだ。つまり、一つの性能が良ければ何とかなるのではなく、クルマの本質やトータルバランスが問われるコースなのだ。

中には、「日本のユーザーはそのクルマでニュルは走らない。そんな性能が本当に必要なの?」と言う人もいる。しかし過酷な場所で誰もが安心して走れるクルマ作りをすること=日常域での楽しさや気持ち良さ、そしてクルマへの信頼や安全に繋がる……と言うわけだ。

生きた道を走らなければ”いいクルマ”にはならない

ニュルブルクリンク

ニュルでは春から秋の平日に開発テストのための「インダストリアルプール」と呼ばれるメーカー占有枠が設けられ、複数のメーカーが一堂にテストを行なう。当然、お互い機密があるのでジロジロ見ることはないのだが、エンジニアなら何をやっているのかが一目瞭然。更にコース上で発売前にも関わらず相対比較もできてしまう。そう、ニュルでは「他のメーカーが何を考えてテストをしているのか?」、「他メーカーの本気度やこだわり」、「自分たちの立ち位置」までも見えてしまう。

恐らく現在の技術をフルに活用すれば、クルマはデータ/シミュレーションのみで開発することも可能である。しかし、リアルワールドで生きた道を走らせなければ“いいクルマ”にはならない事を自動車メーカーはよく解っている。だから「ニュル詣」を続けるのだ。

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