広島県東広島市河内町の椋梨川河川敷で開催されてきた、夏の大イベント「リバーサイドフェスティバル」。鮎のつかみ取りや川遊びが人気を集め、例年遠方から参加がある。しかし、平成30年7月豪雨は、河内町内に多くの犠牲者を出したばかりか、その会場をも崩壊させ、昨年のイベントは中止を余儀なくされた。
「豪雨に負けない」と立ち上がった住民たち。新しい会場で開催した、今年の「新・リバーサイドフェスティバル」を取材した。
7月28日、能光公園に会場を移し開催された「第30回 リバーサイドフェスティバル」。会場には、開会の10時を前に、多くの親子連れが向かっていた。近隣に駐車場がないため、河内駅付近に駐車したりJRを利用したりして、みな笑顔で歩いている。気の早い子どもはすでに水着姿だ。お目当ては、小学生以下対象のアユのつかみ取りや川遊び。自然と触れ合いながら楽しく過ごせるこのイベントの1年ぶりの開催を、皆待ちわびていたようだ。
昨年の豪雨災害により、長く親しまれてきた椋梨川上流の会場は使えない。高齢化の進む地域ながら住民は、フェスタの再開をあきらめなかった。地域の安心安全なまちづくり活動を行っている自治組織「you 愛 sun こうち」のメンバーは、新たな会場の候補地として、昔から見知っている沼田川沿いの一角を挙げた。地元の有志が4カ月かけて、荒れ果てた木々や周囲の土地を整備し、草を刈った。「自分たちの手でできることをやろう」と心に決めて。
開会式で「you 愛 sun こうち」の河元利行代表が「今日のイベント開催には、たくさんの人に関わっていただきました。何よりも皆さんが地域のつながりを大切に、一緒になって開催に向け頑張ってくれたことに感謝しています。地元の小・中・高校生の皆さんの協力もいただきました。JR河内駅を利用し、沼田川で川遊び。みんなで体と心をリフレッシュしましょう」とあいさつ。
髙垣廣徳東広島市長は「開催にあたり、関係者の皆さんのご尽力に感謝したい。河内町は自然に恵まれており、春には桜、秋には深山峡の紅葉、夏は川遊び。今日は新しい名所がまた一つ誕生しました。こんな素晴らしいイベントは、他にはないだろうと思います。まだまだ災害復旧の途中ではありますが、早い復旧を目指し、さらに素晴らしい行事が開催できるよう尽力したいと思います。皆さんの思い出に残る1日となりますように」と述べた。
続いて、地元の河内中学校、入野小学校、河内小学校の児童・生徒代表3人が開会宣言を行った。
「豪雨災害の影響で、昨年開催できなかった第30回リバーサイドフェスティバルが、復興への願いを込め、地域の人たちの温かいご協力のもと開催できますことを心からうれしく思います。この伝統ある夏祭りを大いに楽しみ、これからも地元の人たちの笑顔の輪を大切にし、素晴らしい令和になることを願って開会宣言といたします」
東広島市志和町から母親と参加した末廣來斗くん(小3)は「今年は座り込んで魚を待ち、4匹捕まえました!河内町は、志和町より川が大きい。来年もまた来たいです」と笑顔。母親は「毎年参加しており、昨年の豪雨でフェスタが中止されたのは残念でした。今年は子どもがとても楽しみにしていたので、再開できたのは何より」と話していた。
来てくれた人に楽しんでもらおうと、会場にはさまざまな飲食店が出店。手作りカレーやおにぎり、タピオカドリンク、肉串などに行列ができた。
会場には、地元中学生や高校生の有志の姿も見られ、ボランティアとしてイベントの運営を支えていた。昨年の豪雨によりJRの線路が崩落、電車通学する生徒は、長く不自由を強いられた。河内高校の栗田正弘校長は、「生徒たちは、線路の復旧やJRの開通を目の当たりにしてきましたので、この日のフェスタは感慨深いものがあったと思います。過疎化と高齢化が進む地域にあって、住民が一つになろうとする意味のあるイベントなので、お手伝いできることは協力させていただきました。生徒たちにとっても、地域を知る良い機会となったと思います」と振り返っていた。
新会場となった能光公園を中心となって整備してきた、事務局長の大東栄二郎さんは「河内町のシンボル、深山峡も被災し再起不能と思われている中で、新たな公園を整備できたことは、河内町の魅力再発見のよう。今日こうして無事フェスタが開催できて、ほっとしています。『河内に行ったら、こんなすてきな公園があるよ、JRを使って行ってみようよ』と言われるよう、PRしていきたいです」と話す。
従来のイベント会場が使えなくなったことは、大きな痛手だったに違いない。しかし、地元住民はあきらめなかった。ピンチをチャンスに変え、一丸となって新しい名所を生み出した。来年は、もっと多くの人が新会場へ足を運び、笑顔と歓声があふれるだろう。
取材・文 門田聖子(ぶるぼん企画室)
写真 堀行丈治(ぶるぼん企画室)