農林畜産業などの土地利用が気候変動対策の焦点に:IPCC報告書

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は8日、気候変動対策における土地利用の重要性を指摘する特別報告書を発表した。報告書は、温暖化の進行によって食料の安定供給が困難になるとし、2050年には穀物価格が最大で23%上昇する可能性もあると警鐘を鳴らす。現在、農林畜産業に関連する土地利用で排出される温室効果ガスは全体の排出量の23%を占める。食料の大量消費や廃棄、森林破壊や土壌劣化を防ぐなど、持続可能な土地利用が求められている。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=小松遥香)

気候変動と土地

地表の温度は、産業革命以前に比べ、ほぼ2倍の高さに上昇しているという。報告書は、土地について、食料や水、生物多様性を育み、人間の暮らしやその質を左右するものであり、同時に温室効果ガスの発生や水、エネルギー循環の鍵を握り、今後の気候を決める重要な役割を担っているとする。

現在、人間は食料や飼料、木材、エネルギーなどを使うことで、地球の大地が持つとされる生産力の4分の1から3分の1を利用している。人間の活動から排出されるすべての温室効果ガスのうち23%が土地利用から発生し、人間の活動に起因する土壌劣化は地表の約4分の1にまで達している。水資源についても、人口増加や消費の拡大によって、地球上の淡水の約70%を使用している状況だという。

人間の直接的な活動だけでなく、気候変動によっても低地の沿岸地域、三角州、乾燥地帯、永久凍土などを中心に土壌劣化は進んでいる。1961年から2013年までに、干ばつした乾燥地帯の範囲は平均して毎年1%を超える速度で広がり、東南アジアや北アフリカ、中央アフリカなどで砂漠化が進行。気候変動によって生活の安定が脅かされている人口も増えている。

食を取り巻く問題

気温上昇や降水量パターンの変化などによって、農作物の収穫地域が低地から高地へと移り変わり、低地でのトウモロコシや小麦などの穀物の収穫量が減少している。農業害虫や病気の発生にも影響を与えている。気候変動はこうして、家畜や生物多様性、人間の健康、生態系、インフラ、そして生産から消費にいたるまでの食料供給システムに悪影響を及ぼしているという。

報告書は、異常気象の影響が広がり頻発するようになると、食料の安定供給が困難になり、二酸化炭素が増加することで穀物の栄養品質も下がると指摘。2050年には、穀物価格が中央値で7.6%、最大で23%まで増加する可能性があるという。食品価格の上昇や、食料不足、飢餓のリスクも増加するため、最も脆弱な立場にいる人が深刻な影響を受けることが懸念される。

一方で、1961年から始まった調査によると、植物油や肉の一人当たりの供給量は2倍以上になっており、一人当たりのカロリー摂取供給もおよそ30%増加。世界には、栄養不足とされる人が約8億2100万人いるとされているのにも関わらず、生産される食品のうち25-30%は廃棄されるなどして食べられていない。報告書は、こうした現状が温室効果ガスの排出量を増加させる要因の一つでもあると指摘。消費のあり方を見直すことは、20億人以上の肥満の成人を減らすことにもつながるとしている。

報告書は、土地利用に関連した温室効果ガスの排出量を減らすための緩和策と気候変動の影響を防止する適応策を進め、適切な政策や法整備を実施することを呼びかけている。気候変動対策と連携した土地利用政策を行うことは、資源を有効に活用することや土地のレジリエンスの増強、自然の回復も促進し、多様なステークホルダーが連携するきっかけにもなる。また、食料廃棄や食事の選択肢を増やし、消費のあり方を見直すといった食料供給システムに関連する政策を整備することは、持続可能な土地の利用や食料の安定供給、温室効果ガスの排出量削減にもつながると期待を込めている。

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