「街金」にお金を借りたらどうなる? 業界歴20年の業者に聞いてみた

「街金」と聞くと何を思い浮かべるでしょう? 銀行などより高い利息でお金を貸す業者のことですが、多くの人にとっては縁遠い存在ではないでしょうか。漫画『ナニワ金融道』や、こちらは違法な「闇金」ですが、『闇金ウシジマくん』といったフィクションのダークな世界を思い浮かべる人もいるかもしれません。

実際に街金業を約20年営んできたテツクルさんは、そんな社会の表にあまり出ない業界の内情をTwitterや書籍で発信しています。8月には多重債務者の悲哀を描いた『ぼく、街金やってます』(KKベストセラーズ)を出版しました。街金の世界の酸いも甘いもかみ分けてきたテツクルさんに、そのお仕事について聞きました。一見、笑顔を絶やさず物腰の低い人物ですが、その裏に隠された街金の「リアル」とは……。前後編でお送りします。


『ウシジマくん』のような人は実在する

――テツクルさんが街金の世界に入ったきっかけを教えてください。

テツクル(以下同): 僕はもともと債務者側でした。闇金に違法金利で借りたことがあって、(債権者側の)“怖いオジサン”に金融業で働くことで返していったんですね。そうして(自分の借金の)利息が徐々に平和になっていったのです。

――その後、自身で街金業を開業したテツクルさんですが、そもそも街金とはどんな仕事なのでしょうか? 例えば、漫画『ウシジマくん』に出てくる違法な闇金とはどう違うのでしょう?

法律で決まっている利息の範囲でしか、街金は貸し付けしません。ウシジマくんは「10日で●割」とかとんでもない利息で取ってますよね。あと、取り立てのやり方が違います。あの漫画みたいに大きい声を出したり、暴力的な行為もしないですね。

取材に答えるテツクル氏

――やはり、漫画の世界はファンタジーなのですね。

ウシジマくんのやり方は(法律的に)アウトですよ。ただ、あの作品は(違法な)闇金の人たちをちゃんと取材して描かれているので、私たちにとってはリアルに感じます。ああいう人は実際いますね。

あと、『ナニワ金融道』については(実際の街金と)ほぼその通り、リアルです。一昔前の漫画なので、今の法律とは違っていたりしますが……。

街金もノンバンクや消費者金融と同様に、(借りたい人から)決算書や資料を出してもらって、融資ができるかできないかを判断しています。収入がしっかりしていないといけないとか、審査基準があるんですね。ただ、街金の方はその辺が「緩い」んです。ノンバンクや銀行みたいに(お金が出るのが)3週間後とかではなく、すぐに貸せる。ただ、その代わりに法定内ですが、金利は高くなります。

――テツクルさんの本には「金主(きんしゅ)」や「借り換え」といった、普段の社会ではあまり聞きなれない用語も出てきますね。金主はウシジマくんにも登場したため、印象に残っている人もいるかと思いますが。

金主とは、僕らにお金を貸し付けて投資してくれる人のことです。この業界、自分で資金をちゃんと持っている人はそんなに多くないですから。(金主は)いろんな人がいます。個人投資家もいれば、企業としてやってる人もいますね。やはり、癖の強い人が多いと思います(笑)。

借り換えとは、僕ら(街金)がお金を貸している人に、同業他社から代わりに借りてもらうことです。(僕らへの借金返済の)期日が来ているとか、何かしらの問題が起きているということですね。逆に(他社から借りている人に)僕らがお金を融資することもあります。当然、(借り換え前より)金利は膨らんでいって、借金の条件は悪くなります。

「嫌がらせ」のようなこともする

――漫画ほどでないにしても、現実の街金の世界もなかなかシビアそうですね。この仕事の「コツ」などあるのでしょうか?

テツクル: 僕らにとってお金の調達は、以前に比べて楽になってきました。クラウドファンディングなど、個人が出資してくれるハードルも(ITの影響で)下がってきましたし。

しかし、取り立てだけは「人力」でないといけません。AI(人工知能)に取り立ては無理ですよね(笑)。もちろん、ウシジマくんみたいな暴力は駄目です。暴力を「におわす」行為も行政処分になります。だから、債務者が自宅に不在なのを分かっていて向かい、車をギリギリまで家の近くにつけて待つとか。債務者が家から出勤すると駅に僕が待っていて、電車に同乗するけれど、一言もしゃべらないとか……。

――そういうプレッシャーを受ける債権者も非常に嫌だと思いますが、かけ続けなくてはいけない街金側もきつい仕事ですね。

ずっと債務者を押していてもだめですが、引いたら引いたで緊張感が落ちるため、ちょっと「嫌がらせ」のようなこともしなくてはいけません。僕がTwitterを始めたのも、車の中で債権者を待っていて暇だったから。取り立てのことをツイートしたらみんなに興味を持ってもらえたのです。

僕の会社から債権者の家まで距離があったりすると、行くのはしんどいですよ。催促は電話になりがちですね。でも、「そんな簡単に催促に来ないだろう」と(支払いが)遅れる人はいます。やはりたまには家の前に立ったりして刺激を与えなくてはいけない。まあ、やりたくない仕事ですよね……。

――20年やってきた街金ですが、昔とビジネスの内容が変化した点はありますか?

商売のシステムはほぼ変わっていません。例えば、いろんな業界で電子サインが取り入られてますが、僕らの業界は全部紙にハンコを押さなくてはいけない。業界団体で決まっているので、IT化しようがない。僕だってiPad出してサインとかしてもらいたいのですが……。書類には全部、印紙も付けなきゃいけないんですよ。

融資も機械的に進められるものじゃない。書面だけでは判断できないので、相手と会って「何とかなるかな」と考えます。

世間の景気とは「真逆」

――銀行やノンバンクに比べると審査基準が緩いという話ですが、融資を断るケースもあるのですか?

断ることも結構ありますね。担保の余力がないとか、1カ月目から利息が払えないだろうとか。あと、不動産を持っていて担保の余力があっても、(支払いの督促業務で)ストレスがたまるだろうなとか。そのお客さんの名前をネットで検索すると、いろんなことが出てくる場合もあります。「この人を探してます」とか、お金を持って逃げたといった犯罪系の話とか……。

――正直、街金業界はいま儲かっているのですか?

僕は不動産を担保にする場合が多いので、不動産業界の景気にすごく左右されます。例えば、リーマンショックの時は短期間で仕事が一斉に増えましたね。ものすごい勢いで不動産業者が(融資を求めて)押し寄せました。街金業界全体でも、あの頃はものすごく儲かりました。僕はバブルを経験していませんが、バブル崩壊の時もみんな大儲けしたそうですよ。基本的に(世間の)景気と真逆の商売なんです。

だから、不動産業界が好景気なのでここ数年は暇です。不動産業界の羽振りが良くて、どこでもお金を借りれるから。でも、金融機関が融資を絞りだしたら、きっと僕らのところに来るのでしょうね。

どのような業種が多いか

――となると、「不動産バブルが弾ける」という説もささやかれる、2020年の東京五輪直後の動きが気になります。

確かに五輪が終わった後はチャンスだと思っていますが、知人の不動産業の人に聞くと、そこまでは(不動産業界も)崩れないんじゃないかという話もあります。異業種の方に問題が起きて、どんどん(景気が)崩れていけば影響があるかもしれませんが。

――今はどんな業種の人がお金を借りに来るのですか?

最近は製造業の人が多いですね。昔ながらの業種で社歴も長いようなタイプです。まさに「最後の最後」の状態で、僕らのところに借りに来るのです。

――ありがとうございます。後編は、街金のメーンユーザーである「多重債務者」の知られざる実態に迫りたいと思います。

[(www.amazon.co.jp/dp/4584139385)

<著者>
テツクル
池袋北口の風俗ビルに入居する街金ではたらく。投資家から10%で借りたお金を債務者に15%で貸す日々を過ごしている。

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