アルファロメオ ステルヴィオ ディーゼルモデル試乗|生まれ故郷のイタリア・ステルヴィオ峠を駆ける!

アルファロメオ ステルヴィオ イタリア試乗

車名のもととなったイタリア北部の峠道、”ステルヴィオ”

アルファロメオ ステルヴィオ イタリア試乗

断崖から見下ろす絶景。山肌に稲妻が走ったような“つづら折り”は、正にカタログで見たあの峠道だった。

アルファロメオ ステルヴィオで“ステルヴィオ峠”(Passo dello STELVIO)を走るーーーーー。そんな冗談みたいな、しかし一生に一度あるかないかの、素敵な体験をした。

ステルヴィオは、ご存じアルファロメオが、その100年以上に及ぶ歴史で、初めて世に送り出したSUVだ。

名前の由来は今まさに私が見下ろす峠道、パッソ・デル・ステルヴィオに由来している。イメージとしては、この険しい山道を苦もなく走るSUVというところだろうか。

実際ステルヴィオの魅力は、SUVらしからぬ走りにある。

アルファ156/147のヒット以来長らく停滞していたブランドバリューを掘り起こすべく、巨額の投資を経て開発した「ジョルジオ・プラットフォーム」。これを基軸として丹念に作り込まれたシャシーは、先んじて登場した「ジュリア」で見事に開花した。

四半世紀ぶり、アルファ75以来の復活となるフロントエンジン・リアドライブの駆動方式はアルフィスタにとって“涙モノ”。こうして得たシャシーワークをベースにステルヴィオは駆動方式を4WD化し(ジュリア・ヴェローチェも同じシステムだ)、その65mmかさ上げされた車高を安全かつ自在にコントロールしてくれるのであった。

イタリアの道が作り上げた素晴らしいハンドリング

アルファロメオ ステルヴィオ イタリア試乗

そんなステルヴィオで走ったヨーロッパの道は、なるほどこうしたクルマが生まれるだけの土壌である、と改めて感心させられた。

ミラノのムゼオ アルファロメオ(アルファロメオ博物館)からクルマを駆りだしておよそ300km強。街中はランナバウトが中心となるため信号渋滞が起こりにくく、道筋はナビが要らないほど単純で(といいつつ、現地仕様にはガーミン製と思われるナビがインストールされていた)、間違ってもルート復帰しやすい。

そして日常的にカーブが多いことからクルマには、当たり前のように高い操縦性が求められる。

高速道路の速度制限は最高で130キロと高い。そして車線全体のアベレージも当然日本より高く、この中で自然に棲み分けが行われている。

飛ばす者はメリハリ良く飛ばし、そうでないものは追い越しをした後さっさと走行車線へと戻る。アウトバーンほど速度域が高くないためにマナー意識はドイツほど厳格でないようだが、だからこそ“クルマの格”と“腕前”の両方で、ドライバーの力量が推し量られる。それでもここ数年は若者のクルマ離れが目立つようになってきたというが、簡単に言えばヨーロッパにはまだ、“クルマ好き”が沢山いる感じがした。

秀逸なディーゼルエンジンが引き出す心地いい走り

そんな環境でステルヴィオは、実に生き生きとしていた。

アルファロメオ ステルヴィオ イタリア試乗

今回試乗したのは「2.2 TURBO DISEL Q4」。文字通り2.2リッターの排気量を持つ直列4気筒ディーゼルターボ(210PS/470Nm)と8速ATの組み合わせは、街中から高速道路までの広いレンジを巧みにカバーしていた。

比較的狭い道が多いイタリアの街中では、高い車高とディーゼルターボのピックアップが大柄なボディサイズを上手に補う。いやむしろ、身軽ささえ感じさせてくれるほどであった。

高速巡航ではエンジン回転が低く抑えられるため、長距離移動がとても快適だ。そして追い越しでは、少しアクセルを踏み込むだけで十分な加速をしてくれる。このあたりはライバルたちよりもキャパシティが少し大きい、2.2リッターターボの排気量が効果を発揮していた。

アルプスの山道で本領発揮

だがステルヴィオが一番本領を発揮したのは、アルプスの山々が眼前に現れてからであった。

鮮烈なのはそのターンインだ。12:1というスーパークイックなステアリングのギアレシオは、ためらいもなくノーズをコーナーの内側へと差し込んで行く。

アルファロメオ ステルヴィオ イタリア試乗

このクイックレスポンスに安定を与えてくれるのは、粘り腰のサスペンションだ。また4WDながらも前輪の駆動がアンダーステアを誘発することもなく、実に美しいコーナリングフォームを保つことができる。タイヤが無粋なスキール音をたてない様子からしても、エンジン出力は絶妙なバランスで4輪に配分されているのだろう。これこそがFRベース4WDのメリットである。

コーナーを立ち上がるときに、アクセルを床までグッと踏み込む。レブリミットは5000rpm付近と低めだが、そこまできれいに吹け上がるエンジン特性にはディーゼルらしからぬ切れ味がある。全開加速は圧倒的というほどではないが、8速ATのステップ比がこれをそつなく補って加速感をつないでくれる。

SUVとしては、まことにスポーティな一台である。これにがっぷり四つな存在として、真っ先に思い浮かぶのはジャガーFペイス。ポルシェ・マカンの完璧ぶりに抗いたいなら、ステルヴィオは最右翼の存在だと言えるだろう。

アルプスに敬意を抱いたアルファロメオ流儀のSUV

アルファロメオ ステルヴィオ イタリア試乗

さて肝心なステルヴィオ峠の印象だが、つづら折りの道程は慣れてくると単調さを感じたことも事実だった。急斜面の山肌を切り開くべく作られたその道は、直線をヘアピンカーブでつなぐ山道。登山鉄道でたとえればスイッチバック的なルートであり、コースとしては極めてシンプルなのだ。

ただこれは、アルプスの山々を生活の場とした人々が生き抜くための単調さだろう。そしてその急斜面はむしろ、現在はロードレーサーたちに愛されているようだった。その証拠に路面には、沢山のチョーク跡があり、日中になると老若男女実に幅広い年齢層のサイクリストがこの坂道を登っていた。パッソ・デル・ステルヴィオは「ジーロ・デ・イタリア」をはじめとした、数々のロードレースの舞台なのだ。観光地化された頂上は、ヨーロッパ中から集まったサイクリストたちで賑わっていたのである。

アルファロメオ ステルヴィオ イタリア試乗

ジグザグな道を登り切ると牧草地帯が始まり、山道は適度なR(アール)をもったワインディングへと変化して行った。むしろこうした道の方が、車輌開発には適している。そしてアルプスには、こうした道が無数に存在するのではないかと思う。

いわば“パッソ・デル・ステルヴィオ”のジグザグ道はアルプスの山々を想起させるアイコンであり、ルノー“アルピーヌ”、BMW“アルピナ”と並ぶイタリア流のアルプスネーミングなのだろう。そのあまりの雄大さ、サイクリストやツーリストたちが愛する大自然。これを知らずして、運動性能だけを語ることはあまりにもったいなかった。アルファロメオとは、相変わらずロマンチックなメイクスである。

[筆者:山田 弘樹/写真:FCA]

アルファロメオ ステルヴィオ主要スペック

※スペックは日本仕様です

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