【中原中也 詩の栞】  No.5 「夏の日の歌 詩集『山羊の歌』より」

青い空は動かない、
雲片一つあるでない。
  夏の真昼の静かには
  タールの光も清くなる。

夏の空には何かがある、
いぢらしく思はせる何かがある、
  焦げて図太い向日葵が
  田舎の駅には咲いてゐる。

上手に子供を育てゆく、
母親に似て汽車の汽笛は鳴る。
  山の近くを走る時。

山の近くを走りながら、
母親に似て汽車の汽笛は鳴る。
  夏の真昼の暑い時。
 

【ひとことコラム】

溶けたコールタール、たくましく咲くひまわりなどが、晴れ渡った夏空の下でふと感じる静けさを表しています。山々にこだまする汽笛も優しい響きを持っていて、自然の懐に包まれたような安心感を与えてくれます。今ほどの炎暑ではなかった山口の夏を想像させる詩です。
中原中也記念館館長 中原 豊

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