明石商はフライを量産、宇部鴻城はボール球に手を出す傾向が…
いずれの試合も劇的なサヨナラで決着した夏の全国高校野球選手権大会第10日(8月16日)第3、第4試合。この2試合をセイバーメトリクスの指標で振り返ります。
使用している指標の説明は以下の通りとなっています。
OPS 出塁率+長打率 1を超えると優れている
wOBA 各プレーの得点価値を累積して算出した打撃指標
O-swing% ボールゾーンに来た球をスイングした割合
Z-swing% ストライクゾーンに来た球をスイングした割合
Swing% スイングした割合
O-contact% ボールゾーンに来た球をスイングした際にバットにボールが当たった割合
Z-contact% ストライクゾーンに来た球をスイングした際にバットにボールが当たった割合
Contact% スイングした際にバットにボールが当たった割合
Zone% ストライクゾーンを球が通過した割合
SwStr% 空振り率
WHIP 1イニングあたりに許したランナーの数
P/IP 1イニングあたりに投球した球の数
GB/FB フライに対するゴロの割合
○明石商 3-2 宇部鴻城
【明石商】
打率 .343 OPS .982 wOBA .458
O-swing% 11.3% Z-swing% 67.0% Swing% 44.4%
O-contact% 57.1% Z-contact% 93.4% Contact% 89.7%
Zone% 59.5% SwStr% 4.6%
【宇部鴻城】
打率 .256 OPS .634 wOBA .307
O-swing% 29.2% Z-swing% 59.0% Swing% 45.2%
O-contact% 61.9% Z-contact% 95.9% Contact% 85.7%
Zone% 53.5% SwStr% 6.5%
○明石商・杉戸理斗投手の各指標
10回 打者数40 投球数155
WHIP 1.10 P/IP 15.50 GB/FB 0.68
ストレート42.6% スライダー41.3% カーブ9.7%
Zone% 53.5% 空振り率 6.5%
外角 49.0% 低め 56.1%
○宇部鴻城2投手の各指標
岡田佑斗 6回 打者数27 投球数102
WHIP 1.83 P/IP 17.00 GB/FB 0.24
ストレート71.6% スライダー 14.7%
Zone% 63.7% 空振り率 5.9%
池村健太郎 3回1/3 打者数17 投球数51
WHIP 2.10 P/IP 15.30 GB/FB 1.17
ストレート76.5% スライダー 9.8% カーブ13.7%
Zone% 51.0% 空振り率 2.0%
OPSでは明石商 .982、宇部鴻城 .634と大差がついているのに、終わってみれば1点差の試合でした。その要因は残塁の多さ。明石商の残塁は13に及びます。明石商は6回を除いて毎回走者は出しましたが、宇部鴻城の投手陣の粘りある投球に序盤はあと1本が出ず、得点に結び付けられませんでした。
なお、岡田投手のGB/FBが示すように明石商はフライを量産していることがわかります。ゴロ数11に対してフライ数は23。徹底してフライを狙ったと思われます。この姿勢が中盤に入って本塁打を含む長打につながり、徐々に差を詰めていったものと考えられます。
宇部鴻城は初回に2ラン本塁打で先制しましたが、その後は残塁8と追加点に結びつきませんでした。特にO-swing%29.2%からもわかるようにボール球に手を出す傾向が見られ、少しバッティングに粗さが出たように思われます。
圧倒的な打力誇る八戸学院光星、海星・江越は直球勝負で痛打食らう
○八戸学院光星 7-6 海星
【八戸学院光星】
打率 .400 OPS 1.092 wOBA .492
O-swing% 23.5% Z-swing% 64.7% Swing% 41.8%
O-contact% 70.0% Z-contact% 88.6% Contact% 82.8%
Zone% 44.4% SwStr% 7.2%
【海星】
打率 .267 OPS .872 wOBA .389
O-swing% 21.2% Z-swing% 75.9% Swing% 43.4%
O-contact% 33.3% Z-contact% 90.9% Contact% 74.2%
Zone% 40.6% SwStr% 11.2%
○八戸学院光星・山田怜卓投手の各指標
3回2/3 打者数14 投球数55
WHIP 0.82 P/IP 15.00 GB/FB 1.00
ストレート47.3% スライダー41.8% チェンジアップ9.1%
Zone% 40.0% 空振り率 23.6%
外角 70.9% 低め61.8%
八戸学院光星はこの試合でもOPS 1.092と1を超える打棒を誇り、打撃戦をサヨナラ勝ちで制しました。八戸学院光星は1回戦から3試合連続でOPS1超えを達成。通算OPSは1.106となっています。また海星のOPSも.872と決して低い数値ではありません。ただ両チームの攻撃に物足りなさを感じるのは、残塁が八戸学院光星10、海星7、併殺が2つずつと、走者を出してから打ちあぐねていた様子がうかがえることです。
6回を終えて6-6と点の取り合いでしたが、7回以降は海星・江越、八戸学院光星・山田両投手の力投により、緊迫した試合展開になりました。特に3番手で登板した山田投手は徹底して外角低めへの意識を持って投げ、スライダーで40%、チェンジアップで20%の空振りを奪って海星打線を抑え込みました。この力投が最終回のサヨナラ劇につながることになるのです。
江越投手はストレート70%の割合の配球で八戸学院光星打線に立ち向かっていきましたが、9回裏に許した3安打はすべて甘く入ったストレートでした。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。