『お百姓さんになりたい』 失敗に学ぶ農業から見える希望

 埼玉県三芳町の明石農園は、2.8ヘクタールの畑を持ち、そこで農薬や除草剤、肥料も使わない「自然栽培」に取り組んで60種類もの野菜を育てています。この作品は、自然と向き合いながら、丁寧に土を耕し土壌を作り、野菜を作っていく農園のオーナー・明石誠一さんの姿を追ったドキュメンタリーです。

 明石さんは28歳のときに新規就農して自然栽培に取り組み出しました。元パティシエやカメラマンなど、様々なバックグラウンドから農業を始めるためにやってきた研修生たちと一緒に、毎日草を取り、取った草は3年間の歳月を経て堆肥となっていく。手間をかけながらタネを採る作業。東京という、歩くペースが格段に速い都会で生まれ育った私には、その感覚が少しもどかしく感じられてしまいましたが、映画を観ていると自然の流れに合わせたゆったりとした時間がだんだんと心地よくなってくる。明石さんは、手間だとか、めんどくささだとか、そういうことを抜きにして色々な実験を畑で行います。この育て方とこっちの育て方だとどんな違いが出るのか。生きるために、野菜を作り、生活する。数多くの失敗を通して学んでいく農業。

 仕事に追われる毎日を送っていると、失敗をしないように、ミスをしないようにビクビクしながら生きていますが、失敗から多くのことを学び、次のステップに進んでいく明石さんの生き方がとても羨ましく思えました。そして、自然栽培を通して明石さんの元へと集まる人々。研修生の他にも、都会から親子がやってきたり、障がい者の方が農作業を手伝いにきたり。土に根を下ろし、人と人との繋がりで世界は広がっていく。日本の希望の光をこの映画で見ることができました。★★★★☆(森田真帆)

監督:原村政樹

出演:明石誠一

8月24日(土)から全国順次公開

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