おとなの休日 ~ 苔むす石垣と里坊のあるまち「坂本」~ 歴史遺産をめぐる秋旅

―大人の探訪スポット―

古くから神山と崇められた比叡山と、琵琶湖に挟まれた風光明媚な地「坂本」。
中世では比叡山延暦寺と日吉大社の門前町として、また琵琶湖畔の荷揚げ港として、大いに栄えていました。
栄枯盛衰の歴史を越え、受け継がれる歴史遺産とは。

独特の美しい石垣「穴太衆積み」

歳月を物語る苔に覆われた見事な石積み。ここ坂本は、穴太衆積み(あのうしゅうづみ)と呼ばれる独特の石垣が美しいまち並みを形成しています。湖西には朝鮮半島の石積み技術と似た古墳が数多く残され、早くから朝鮮からの渡来系民族が入植していたと考えられています。自然石を乱積みするこの技法は、坂本の隣町「穴太」の技術者(穴太衆)によって継承され、一層磨かれていきました。その高い技術は時の権力者たちに認められ、江戸時代初頭まで全国の城郭の石垣に穴太衆積みが用いられました。近年、コンクリートブロック壁の強度を上回ることがわかり、「平成の穴太衆積み」として県内施設や高速道路のトンネルなどでも同技法が用いられています。

里坊と山坊

仏教文化と歩んだ「坂本」

坂本は、比叡山延暦寺の高僧や老僧が晩年の居として構えた里坊が数多く残り、現在でも一部は僧侶の住居として継承され、見事な庭園がある、いくつかの里坊は拝観が許されています。

山裾の里坊と対極にあるのは、厳しい山学山修の道場である比叡山の山坊、延暦寺。788年、天台宗の開祖、最澄によって創建され、鎮護国家の寺として崇敬を受け、坂本のまちに繁栄をもたらしました。のちに比叡山と坂本は織田信長によって焼き払われ、坂本城主・明智光秀によって再興されていきます。

栄枯盛衰の歴史を経た仏教文化のまち「坂本」は、穴太衆積みの石垣に囲まれた多くの里坊が、往時を伝えています。

○ 01 滋賀院門跡(しがいんもんぜき)
慈眼大師・天海が、後陽成上皇より京都御所の高閣を賜り移築。明治11年に全焼し、現建築物は延暦寺の建物を移築再建したもの。見事な襖絵と小堀遠州の庭園は必見。【有料施設】
○ 02 慈眼堂(じげんどう)
比叡山焼き討ち後の復興に力を注いだ、慈眼大師・天海を祀る廟所。庭のみ公開。
○ 03 旧竹林院(きゅうちくりんいん)
国指定名勝庭園には、大正時代に建てられた全国的にも珍しい間取りの茶室や四阿(あずまや)があります。昨年夏までの改修工事を経て、2階も見学可能に。1階では、庭園を鑑賞しながら抹茶やコーヒーを楽しむことができます。【有料施設】
○ 04 芙蓉園 本館(ふようえん ほんかん)
かつては里坊でしたが、大正時代より料理屋へ。穴太衆積みの石垣に囲まれ、どこから見ても美しいといわれる池泉廻遊式の庭園を眺めながら、ゆったり食事ができます。庭園には穴太衆積みの洞窟があり、現在は映画などの撮影でもよく利用されています。

○ 05 坂本ケーブル

仏教の聖地、比叡山「延暦寺」(1994年世界文化遺産に登録)へは、坂本ケーブルがおすすめ。全長2025mもの日本一長いケーブルカーでは、眼下に広がる壮大な眺望を堪能できます。

今回の「探訪スポット」

■大津市坂本町

坂本のまちを特徴づける穴太衆積み(あのうしゅうづみ)の石垣と里坊が点在。清涼な水路と歴史的風致に優れたまち並みは、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。

■取材コーディネート

坂本観光協会

滋賀県大津市坂本6-1-13 TEL:077-578-6565

http://www.hieizansakamoto.jp

情報誌「自悠時間」掲載2015年9月

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