悩み抱えず“SOS”を 夏休み明け前、呼び掛け続々

トークイベントに参加した葛西剛さん(左)=21日、東京都港区

 子どもの自殺が増加する傾向がある夏休み明けを前に県教育委員会は21日、「いのちを大切にするメッセージ」を県立学校と県内全市町村教育委員会に出した。「一人で悩みを抱え込まずに、相談して」との呼び掛けを、各校の校長や担任を通じて子どもたちに伝えてもらう。26日からは、県内中高校などの全生徒を対象に無料通信アプリ「LINE(ライン)」を活用したいじめ相談を受け付け、気軽に相談しやすい態勢も拡大する。

 メッセージは例文を示す形で、県立高校142校、中等教育学校2校、特別支援学校28校と市町村教委に通知した。

 夏休みが終わり学校生活が始まる中、勉強や進路、部活動、友達、家族のことなどで思い悩むこともあるでしょう、と例示して「そのようなときには、一人で悩みを抱え込まずに、先生や、スクールカウンセラー、家族など、周囲の人に相談してください」と呼び掛けている。

 さらに「周りの大人は、あなたたちの支えになりたいと心から思っています。辛いとき、困ったとき、一人で苦しまずに、ぜひ声を掛けてください」と繰り返している。

 県教委による「いのちを大切にするメッセージ」は近県を含めて子どもたちの自殺とみられる事案が相次いだ2017年9月以降、夏・春休み、大型連休明けに出されており、今回で6回目となる。

◆LINE いじめ相談 26日から4週間期間延長

 県教育委員会はLINE(ライン)を活用したいじめ相談について、昨年9月に試行した実績を踏まえて拡大する。生徒から「相談しやすい」との声が多かったことから、期間を4週間に延長し、対象生徒も約44万人に増やす。

 県立高校の多くが夏休み明けとなる26日から9月22日まで、毎日午後6時から同9時まで受け付ける。

 対象は国公私立の県内学校の中高校生世代の全生徒で、各学校で相談窓口につながるQRコードを記載したカードを配布する。心理カウンセラーが最大24人の相談に同時に応じられる態勢を組む。LINEを使用しない生徒には、24時間電話相談窓口=(0120)078310=を周知する。

 事業費は約800万円で、国が全額補助する。

 県教委は昨年9月10日から2週間試行し、対象は県内学校から抽出した101校の生徒約5万8千人だった。183件の相談が寄せられ、その後のアンケートで「役に立った」、「電話に比べラインは相談しやすかった」の回答がいずれも8割を超えた。

◆生きる価値 誰にもある いじめ自死遺族訴え

 いじめを苦に亡くなった子どもの言葉や遺族の思いを伝える展示会が21日、東京都人権プラザ(東京都港区)で始まった。3年前のこの時期に娘を亡くした遺族も協力し、悩みを抱える全国の子どもに「あなたが生きているだけで価値があると思っている人が必ずそばにいる」と呼び掛けた。展示会は31日まで。

 展示会では、子どもたちの顔写真とともに、小学校の卒業文集に載せた文章や、亡くなる直前に残した言葉が飾られた。

 「やさしい心が一番大切」「いつもの生活が幸せ」-。悩みを抱えながらも前を向こうとしていた様子がうかがえる一方、いじめ被害の苦しさを訴える内容もあった。

 この日はトークイベントも催され、2学期の始業式翌日だった2016年8月25日に亡くなった青森市立中2年の葛西りまさん=当時(13)=の父剛さん(41)が参加。夏休み中のりまさんは友人や姉と出かけ、笑顔で過ごしていたというが、「自宅で『このまま夏休みが終わらなければいいのに』と話したことがある。気付けなかったが、SOSだったのかもしれない」と振り返った。

 その上で、剛さんは「娘の遺書に生きる価値がないという表現があったが、この世に生きてはいけない人はいないと言葉を掛けたかった」と胸の内を語った。

 教育評論家の尾木直樹さんも講演し「大人の自殺は減っているが、若者の自殺は増えている。家庭の問題ではなく社会の責任だ」と強調した。

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