ZENT CERUMO LC500にみるGTのシビアさ。ナット不良でなければ“対策”は困難/スーパーGT第5戦富士トピックス

 8月3~4日に富士スピードウェイで行われた2019年のスーパーGT第5戦。ここではレース途中で不運に見舞われたZENT CERUMO LC500やau TOM’S LC500、タイヤ1セットで3スティントを戦い抜いた埼玉トヨペットGB マークX MCにまつわるトピックスを紹介しよう。

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■au TOM’S LC500、“ほぼ1基目”エンジンの恐るべきポテンシャル

GT300のマシンが前に2台いる状態でダンロップコーナーを立ち上がり、1台をその直後に抜き、続く第13コーナーでもう1台のインを突いたが、そこで接触してしまった。マシンは左フロントのアームが曲がり、アップライトも損傷していたという。

 レース前、WAKO’S 4CR LC500のスタッフがこう語っていた。「タイで勝てたけど、あのレースで一番スピードがあったのは36号車(au TOM’S LC500)だと認識している。だから気は抜けない」と。

 その言葉どおりに、流れはau LC500に傾きかけていた。BS(ブリヂストン)を履くレクサス勢は、多くがハードコンパウンドを軸に組み立てていたが、auはミディアムを中心に考えていた。

 日差しが強いスタート直後はやや厳しかったが、関口雄飛が担当した第2スティント中盤から気温の低下とともにコンディションがタイヤとマッチし始めていた。

 第3スティントを担当した中嶋一貴のペースは良く、涼しい時間帯のゴールに向けてすべてが順調だった。関口に交代する、まさにその周に一貴から「終わった」と無線が入る。第13コーナーでGT300クラスのマシンと接触してしまったのだ。ピットに戻った一貴は、チームに謝罪した。

 今回の第5戦富士からレクサス勢は今季2基目のエンジンを投入したが、auは第2戦富士でブローしたためその翌戦(第3戦鈴鹿)から2基目を入れ、そのまま継続している。

 つまりほぼ1基目の性能のまま、トップに絡めそうな勢いがあった。ライフの問題から、3基目投入は避けられないようだが、そうなったラウンドはぶっちぎりそうである。

■ZENT CERUMO LC500にみるスーパーGTのシビアさ。ナット不良でなければ“対策”は難しい

 ピットアウトして第3スティントを走り始めたばかりの立川祐路から、「クラッシュした! ハンドルがきかなかった!」という無線が入った。モニターには、ノーズから突っ込んだZENT LC500の姿が映し出されていた。

「原因はナットトラブルまたは作業ミスのどちらか」(村田淳一工場長)だという。充分なトルクで装着されたホイールは、その内側に打痕がしっかりと残るのだが、問題があった右フロントの痕跡は弱かった。

 チームは録画しておいたピット作業の動画を確認したが、作業ミスらしき様子はほとんどなかったという。「唯一あるとすれば、ガンを打つ時間が長かった点」と村田工場長は言う。

 通常、トリガーを引けば「ガガ!」と一瞬で締まるものが、「ガガガガ!」とわずかに長かった。これは何かしらの抵抗があった可能性もある。問題なのは、多少の異常があったとしてもある程度は締まってしまうことがあるということ。

 そしてその異常の有無は周囲からは判別不可能で、締めている本人にも「伝わることもあれば伝わらないこともある」のだそうだ。

 ナットの不良が原因ならばその強化品を作る、あるいは使用前の点検を徹底すればいいのだが、作業ミスだった場合、今回の事例の対策は難しい。ナットをはめる際、ソケットに添える左手でソケットごとねじりながら内部のナットをネジ山に合わせていくしかなさそう。当然それは1秒2秒のロスが生まれる。

「チームとしても、スピードを求めすぎていたかもしれない」と村田氏は言う。セルモのピット作業はGT界でもトップクラスの早さを誇り、その右側担当のメカニックは経験豊富でミスも少ないという。それでもわずかなほころびが見え隠れするスーパーGTは、じつにシビアな戦いを強いられている。

■じつは「いま、一番速いクルマ」。CRAFTSPORTSにご用心

 ドライバーふたりを“外部”から招いて新たなスタートを切った今季のCRAFTSPORTS MOTUL GT-Rは、当初から第5戦富士での表彰台獲得を狙っていた。テストの機会も少ないなか2度目の富士となること、そしてニッサンGT-Rが得意とするコースであることが、その理由だ。

 予選は赤旗の影響もあり「悔しい」(平手晃平)2番手となったが、前戦タイも予選3番手と「ベースとなるセットができてきた」(田中利和監督)うえに、ドライバーふたりの順応もレースごとに進んでいる。

セーフティカー明け、ダンロップ進入でイン側のWedsSport ADVAN LC500とマコヴィッキが接触(裁定はレーシングアクシデント)。「最初のスティントはタイヤの内圧が高くて少し苦労したけど、第3スティントは強かった。接触は残念だったけど、11番手から3番手まで挽回できたわけだし、僕らはコース上で一番速いクルマだった」と、ファステストもマークしたマコヴィッキ

 レースではフレデリック・マコヴィッキの接触やブレーキトラブルによる修復作業があり結果は残らなかった。だが、一時はトップに立ち、ピックアップに苦しむ23号車MOTUL AUTECH GT-Rとは対照的にスティント終盤まで快調なペースを維持するなど、“最大のベンチマーク”23号車(今回のウエイト差は17kg)を上回っている部分もある。

 田中監督は今季の目標を「(ランキング)トップ6」と語るが、最大ウエイトとなる次戦では、すべてがかみ合えば優勝も狙えるはずだ。

■埼玉トヨペットGB マークX MC、悔しい2位。それでもこぼれた笑顔の理由

埼玉トヨペットGB マークX MCはタイヤ無交換でダブル&トリプルスティントを走破。この実戦テストが、タイヤ開発を促進させる。第6戦オートポリス、第7戦SUGOはMCが得意とするサーキット。そこでの初優勝はあるか?

 レースは結果がすべてだ。どんなに内容が良くとも、運に左右されようとも、シリーズポイントはリザルトに応じてしか得られない。しかし、時にリザルトだけでは見えてこない部分がある。埼玉トヨペットGB マークX MC(52号車)の第5戦富士の週末は、まさにそれだった。

 まずは予選。Q2で吉田広樹の自身初ポールポジション(PP)獲得に沸いた裏側で、脇阪薫一はQ2進出ギリギリの16番手だった。リザルトだけを見れば、吉田の速さが際立つ。

 実際、吉田は速い。だが、Q1の薫一にはメーター表示がすべて消え、無線も使えない電気系のトラブルが発生していた。ギヤポジションも分からず、シフトタイミングのランプも点かず、薫一はエンジン音を頼りにシフトチェンジしていた。その状況でのQ1突破は称えられる結果だろう。それがなければ、吉田のポールポジションも幻となっていたのだから。

 決勝はポールスタートからの2位。参戦3年目のチームにとってベストリザルトだが、「もちろん勝ちたかったし、そのチャンスはあったと思うので悔しい」という吉田に、「僕たちは勝つか負けるかでやっている。2位も3位も4位も一緒なんですよ」と薫一が付け加える。たしかに、セーフティカーという運の要素が働かなければ、52号車が勝っていたレースだった。

 それでも、「久々に満足はしています。勝ってないのにこれだけ僕がニコニコしているのは珍しいでしょ(笑)」と薫一。それに吉田が「2位でも充分な収穫があったから」と呼応する。

 ドライバー交代を伴う4回のピットが義務付けられた富士500マイルレースで、52号車は2回目のピット時のみしかタイヤを交換していない。つまり、タイヤ無交換で後半の3スティントを走り切ったのだ。この戦略は賭けではなく「実戦テスト」だという。

 GT500を主戦場とするブリヂストンタイヤを、今季から使用している52号車は、まだマザーシャシー(MC)に合わせ込んだタイヤ開発が進んでいない。そして、翌週末に行なわれたSUGOテストで、MCに合わせたタイヤを初めてテストした。

 2日間の総合タイムは3番手。ここに“試しのトリプルスティント”のデータが今後のタイヤ開発に活かされる。そこで感じた期待に、自然と笑顔がこぼれたのだろう。52号車の初優勝は、近い未来に起こり得る。

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