『2時間飛ぶと120万円!?』遭難のお金の話を聞いてわかった、登山者がやるべきコト 頂上からの景色や色とりどりの植物など、登山にはたくさんの魅力があります。しかし、同時に誰もが遭難する可能性を秘めています。今回は遭難してからでは遅い「遭難に関するお金の話」。きちんと準備をしておかないと、とんでもない経済的負担を抱えてしまうことになるかもしれません。

遭難すると、かなりお金がかかる場合があるらしい・・・

たくさんの魅力がある登山ですが、必ずそこに潜んでいるのが遭難のリスク。

あなたは遭難したら、いくらくらい捜索費用がかかるか知っていますか?さっそくですが、遭難事例を見てみましょう。

今回は、日本で唯一の山岳遭難対策制度を運営しているjRO(日本山岳救助機構合同会社)代表の若村さんにご協力いただき、実際の遭難事故にかかった費用やjROの補填金(捜索にかかったお金を補填するお金)を事例別に解説していただきました。

事例①:発見されなかった場合・・・

編集部 大迫

残念ながら、見つからなかったケースですね。

若村さん

はい。その当時のjROの制度の補填金額の上限、330万円(現在は550万円)に達した時点で請求を受け付けました。

編集部 大迫

補填金で330万円ということは、実際はそれ以上に費用がかかっていた可能性があるということですね。どんな費用が生じたんですか?

若村さん

請求分だけですが、11回分の有料救助隊出動費ですね。この内容は隊員の日当、宿泊費、食糧費、交通費など多岐にわたります。

編集部 大迫

発見されなかったということは、行方不明扱いということですよね。

若村さん

はい、残念ですが。このまま見つからない場合は死亡保険が受け取れないなど、経済的負担が家族にはかかります(※1)。

※1)遭難者が見つからない場合、7年間は死亡とみなされないため、遺族年金の支給や死亡保険を受け取ることができません。

どうしてこんなにも費用が高くなるの?

もちろん毎回330万円かかるわけではありませんが、今回のように捜索が長期に及んだ場合は捜索費用が高額になってしまうのです。(jROの過去実績だと、平均40万円くらいだそう)

どんなことにお金がかかっているのか、まずはどのように遭難者の捜索が行われるのかを見ていきましょう。

山での遭難が発生した場合、まず家族の要請を受けて警察などの公的機関が一次捜索を行います。この時の捜索費用は、原則無料(正確にいうと、税金を使った捜索※2)。
※2)一部有料化も検討されています。
民間の捜索は有料で、捜索の規模や期間によって金額が変わります。基本的には公的機関の後ですが、人命優先で捜索方針によって一次捜索から参加することも。

以下の内容は、具体的な費用の一例です。

当然ながら、捜索が長引くと捜索費用もかさむため、人命と経済的負担の観点の両方から考えても、遭難したらできるだけ早く見つけてもらうことが大事です。

スムーズな捜索のために自分ができること・それは少しでも自分の「足跡」を残しておくこと。それが早期発見、早期救助へとつながります。

でも、遭難ってそんなに起こるものなの?

実際に自分が遭難をしないとなかなかイメージしにくいかもしれませんが、山での遭難は起きています。

警察庁が発行した『平成30年における山岳遭難の概況』によると、平成30年の山岳遭難発生件数が2,661件で遭難者は3,129人です。これを1日あたりにならしてみると…

○1日に約7件の遭難が発生!

○1日に約8.6人が遭難している!

ということになります。
実際は日によって、遭難件数・遭難者数ともにバラツキがあります。
原因を見てみると、道迷いや転倒などさまざまで「危ない岩場に行かないから安全」「低い山だから平気」ということはなさそうです。反対に、登山をする誰もが遭難する可能性を秘めていると言えます。

【実例紹介】もしも遭難したらどれくらいお金がかかるの?

もう少し、他の遭難事例を見てみましょう。

事例②:比較的早く発見された場合…

編集部 大迫

この事例の捜索費用は、いくらだったんですか?

若村さん

28万9700円です。内訳は、
・日当24万円(3万円×8名)
・救助隊保険料39,700円(7,940円×5名)
・補助隊員活動費用1万円(1万円×1名)となります。

編集部 大迫

場所がわかっていたので、すぐに発見されたんですね。

若村さん

場所が絞れると捜索がスムーズになるので、自分の居場所を伝えられる手段があるといいですね。

編集部 大迫

でも、最初の公的組織による捜索は無料では?

若村さん

一次捜索でも規模や難易度によって、警察や消防などが家族の同意を待たずに民間の救助隊に要請することがあります。

編集部 大迫

命を救うことが最優先なんですね。

事例③:捜索に○○を使った場合

編集部 大迫

これは冬山での遭難事例ですね。

若村さん

そうです。このケースでは175万7920円の捜索費用がかかりました。このうちの130万3080円はある費用だったんです。

編集部 大迫

全体の約4分の1を占めていますね。

若村さん

これは民間ヘリの出動費なんです。しかも1回分。

編集部 大迫

ええ、そんなに!

若村さん

捜索のためのヘリコプターのチャーター費は、1分1万円(状況により変動)ともいわれます。それで考えると、2時間飛べば120万ですから。

編集部 大迫

1日3時間捜索を2日行ったら、180分×2日×1万円=360万円ですが・・・。これはかなりの金額ですね。

若村さん

ほかの案件で公的機関のヘリが出動しているときなど、民間ヘリが要請されることもあり得ます。

編集部 大迫

1次捜索でも民間ヘリでの捜索が十分考えられるんですね。

早期発見のためにできることとは…?

これだけの請求がくるとなると自分が困るのはもちろん、忘れてはならないのが残された家族の負担。

平成30年度の遭難死亡・行方不明者数は342人(警視庁『平成30年における山岳遭難の概況』)。遭難者の約10人に1人が行方不明もしくは、亡くなっています。万が一、保険や山岳遭難対策制度に入っていないと、捜索費用の負担は家族がすべて負うことに。

そして、経済的負担だけでなく精神的負担を負わせることになります。考えてみてください。もし愛する人がどこにいるのか、そしていつ帰ってくるかわからない状況を、生きているのかすらわからないでひたすら待ち続けることを…。

捜索隊員が語る現場のリアルーー「遭難者と同じくらい大切にしたいこと」とは?
登山者が増えるシーズンはニュースでも「遭難」について多く取上げられます。残念ながらすべての登山者には、遭難のリスクがついてきます。さら...

遭難しないように、事前の入念な計画や装備の準備はもちろん大切です。しかし、予想外に天候が急変したり植物の生育状況で目印が隠れていたり…相手は自然である以上、100%危険がないということはありません。

自分を守るためにも、遭難した時の想定をしておくことは大事なこと。では、どのようなことができるのが、具体的にみてみましょう。

①家族や知人などに「いつ、どこの山に行くか」を知らせる

登山届けの提出はもちろん、それだけでなく自分がいなくなったことに気づいてくれる家族や友人などに「自分が、いつどこの山に行くのか」を伝えておきましょう。

登山の途中でSNSに投稿するのも、自分がどこにいるのか(いたのか)を残すために有効な方法です。

下山後は、無事下山したことを忘れずに伝えましょう。

【保存版】登山計画書って意外に簡単!書き方から下山後までを解説します
皆さん登山計画書(登山届け)を出していますか?必要だと思っていても「低山だから書く必要はない」「書き方がわからない」など提出しない理由...

登山計画書にある《エスケープルート》って何か、きちんと説明できる?
登山計画書を作成する時、必ず目にする「エスケープルート」の文字。詳しく知らないからなんとなく空欄にで提出していた、なんて人もいるのでは...

②いつでもスマホや携帯電話が使えるようにしておく

遭難した場所が電波の届くところだったら、スマホや携帯電話は強力な助っ人になります。バッテリーが切れないように、モバイルバッテリーは必須。また、登山アプリでGPSで現在地などの情報をすぐ伝えられるものがあるので、事前にインストールして使えるようにしておきましょう。

濡れて使えなくならないように、防水対策も忘れずに。

地図とコンパスはもう不要? スマホの地図アプリが果たす役割とは
2017年の山岳遭難者は3,111人。そのうちの4割、1,252人が道迷い遭難でした。山岳遭難の多数を占める道迷い遭難対策としては「紙...

”自動&無料”で遭難捜索をスムーズにする機能?YAMAPの『みまもり機能』を使うべし
2019年7月、登山アウトドア向けアプリ「YAMAP」に遭難捜索をスムーズにする可能性を秘めた新機能がリリースされました。この「みまも...

③山のお守り「ココヘリ」に加入しておく!

ココヘリは会員制の捜索ヘリサービス。携帯電波の届かない場所でも、会員証代わりの発信機を使えば位置を知らせることが可能。自分の居場所を伝えられる最強の手段ともいえます。
しかも、発信機はフル充電で約3か月もつので、全ての登山者だけでなく待っている人にも「安心」をもたらす心強い味方です!

【発見率100%!】(MISSING)素早く・正確に遭難者を見つける「ココヘリ」とは?
もし登山中に遭難してしまったとき、山岳保険と登山計画書さえ出していれば大丈夫と思っていませんか?じつはこの2つだけでは、あなたを確実に...

④もしものために保険やjROに入ろう

そして忘れては行けないので、保険やjROに入って捜索費用や最悪の場合の補償を備えておくことです。

登山保険のおすすめ比較11選!種類を知って適切なものを選ぼう
登山保険のおすすめをご紹介!YAMAPやモンベル、jROなど、掛け捨てなどの日帰り用から年間契約のものまで比較してまとめました。ネット...

ヤッター!ゴールデンウィークは登山だ!もちろん保険の準備もOKだよね?
2019年のゴールデンウィークは最大で10日間。これだけ休みがあれば、他に用事があっても登山の時間を確保できそうですね。ギアやウェアの...

jRO(日本山岳救助機構合同会社)

自分と大切な家族のために、リスクに備えた安全登山を

「自分は大丈夫」と思っていませんか?しかし、現実に遭難事故は起きています。それがあなたに起こらない保証はありません。

そんな「もしも」の時、自分だけでなく家族や知人に心配や負担をかけないためにやれることをやっておく。登山にはそんな気遣いも必要ではないでしょうか。

© 株式会社スペースキー