『カム・ギャザー・ラウンド・ピープル』高山羽根子著 一気に疾走する青春のその先

 一気読み必至の一冊だ。とある女性が、自分の幼少期から現在までを、ほぼ時系列順に回想する。込み入った伏線などはなく、けれどその光景がひとつひとつ鮮明に目に浮かぶ。「あっぱっぱ」姿の祖母。その首元からのぞく背中がやけに美しかったこと。そんな祖母と、どうも価値観が合わなかった母。部屋を飛び回る羽虫。その一切を無視していた祖母と、いちいち捕まえては潰していた母。少女は観察し、そして成長する。

 近所の工事現場のついたてのかげで、彼女は知らないおじさんにお腹を舐められる。それを「なかったこと」として飲み込みながら彼女は育つ。中学に入ってからもそうだ。校舎の裏手にある大学寮で、男子学生に膝の裏を触られて、彼女は黙したまま相手を蹴り上げて疾走する。即座に被害を訴えるとか、どこかに助けを求めるとかいった発想がない。

 大人になった主人公は、あるバーの常連になる。店員の「イズミ」と親しくなって、彼女がスマホで撮りためている映像を見せられる。とあるデモの現場。怒りに満ちた人たちの群れ。その群れが見つめる先に立っている、女装したリーダーの姿。主人公はハッとする。それが高校時代の男友達「ニシダ」であることに。

 イズミに強引に誘われて、ニシダが先頭に立つ集まりに行ってみる主人公。すると壇上から、ニシダは主人公に気づく。ステージから降りてくるニシダ。踵を返して全力で逃げる主人公。ここはどうしても逃げ切りたい。なぜなら——その理由は本書を読んでいただくとして。

 被ったことを、飲み込む体質の人間。何をされても、上手に怒れない人間。そういう人間が、晴れやかに生きていくにはどんな道があるのか。疾走した主人公が、息切れの下で、ニシダに吐いたひと言とは。共感しかない。幸せになりたい。

(集英社 1300円+税)=小川志津子

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