「保育所の定員を4,000人増やすコスト」は「投票の棄権で無駄になるコスト」に匹敵?!埼玉県知事選挙を棄権する前に知ってほしい5つの数字

16年ぶりに新人同士の争いとなった埼玉県知事選挙(以下、埼玉県知事選)は18歳選挙権の下で行われる初めての県知事選ということもあり、若い有権者の動向が注目されます。

「翔んで埼玉」とのコラボレーションによる投票啓発活動なども話題となっていますが、歴代県知事選挙の投票率ワースト5の内3つを占めるなど低投票率になりやすいことでも知られています。
2年前のさいたま市長選挙では、全年代の投票率31.44%に対して10代と20代有権者を合計した投票率は17.95%とほぼ半分の水準となったというデータもあります。

なかには、「埼玉には様々な問題がある」とは思うものの、「夏休みにまで政治なんて難しいことを考えるなんて‥」という学生の方や、「連日の猛暑の中でのせっかくの休日。投票に行くよりも旅行やリフレッシュに使いたい」という若い世代の方もいるのではないでしょうか。
そんな人にも知ってほしい5つの数字があります。

埼玉県知事選にかかる費用は 「23.4億円」

埼玉県知事選を実施するための予算として23.4億円が計上されています。
前回の埼玉県知事選の投票率は26.63%と、およそ3/4の人が投票していない状況でした。
語弊があることも承知で言い換えると、「県民の県政に対する意見を聞くために実施される県知事選に要する費用(23.4億円)の約75%(=17億円)が無駄になっている」とも言える状況です。
17億円あると、埼玉県ではどんな取り組みができると思いますか?

埼玉県では、この10年間で保育所定員が1.6倍に増加したものの、待機児童が1,000人を超える状況が続くなど保育を必要とする子どもや親御さんの要望を満たすことができていません。

図1_埼玉県の保育所定員と待機児童数

県内では年々働く女性の割合が高まるなど、これからも保育の需要は増加してくことが見込まれています。
そのようななかで、今年、保育所待機児童対策の推進に充てられた予算は29億円です。新たに7,000人の保育サービスの受け入れ枠拡大を図ることにしていますが、17億円あるとその定員を1.5倍以上にすることもできます。
また、保育士の待遇改善(2.9億円)や、児童相談所の体制強化(3.2億円)といった取り組みもあります。

他にも県政で興味がある分野として挙げられることの多い医療の分野に目をむけると、医学生・研修医に対する奨学金・研修資金の貸与(6.6億円)、看護師の定着・就労支援(0.4億円)などもあります。
もし17億円を自由に使うことができたら、埼玉県の子育てや医療を巡る環境は大きく変わっていくのかもしれません。

県知事が4年間で使い方を決める税金の規模は県民一人あたり100万円

私たちが納めた税金を使って予算を組み、埼玉県は教育や警察や消防といった私たちの生活に密接にかかわる取り組みを行っています。

埼玉県の中で、唯一予算案を取りまとめ、議会に提出することができるのが埼玉県知事です。

今年、埼玉県で決定された一般会計予算は1兆8885億円です。今年1月の県民数(約738万人)を基準に考えると、県民一人あたり25.6万円になります。

県知事の任期である4年間で考えると、県民一人当たり約102万円にあたる金額の使い道を、私たちに代わって考える人を選ぶ機会=埼玉県知事選と捉えることもできます。

図2_埼玉県の予算

そこで、「県民一人当たり100万円にもなる税金の金額やその使い道を決める権利」を「一票の価値」と捉えてみると、皆さんの「投票する権利」への想いがすこし変わってきませんか?

埼玉県の人口は世界第100位

埼玉県を世界の国や地域と比べてみると、実はなかなかの規模があることをご存知ですか。

埼玉県の人口は約738万(2019年1月1日時点住民基本台帳人口)ですが、190の国や地域の人口と一緒にランキングすると、埼玉県は上位から100番目に位置する規模となります。
埼玉県と近しい国や地域には、同じアジアでは香港(約748万人)、南米ではパラグアイ(約708万人)、ヨーロッパでは約700万人ほどのブルガリアやセルビアといった国や地域があります。

ほかにも、埼玉県の県内総生産22.7兆円は、OECD加盟国の国内総生産(GDP)と比較すると25番目に位置し、ポルトガルやギリシャ、チェコ、ニュージーランドといった国々よりも大きい状況です。

もし埼玉県が独立した国家であったら、上記の国々のように国際社会で一定の存在感を発揮する存在になっているかもしれません。

埼玉県知事の平均在職期間は11.5年

そんな埼玉県のリーダーである県知事は、実は在任期間が長いことをご存知ですか。
平成に入ってから選挙で選ばれたのは土屋義彦元知事(3期)と上田清司知事(4期)の2人だけです。
ちなみに、土屋元知事の前任の畑元知事は5期20年にわたって埼玉県知事の任にありました。

もちろん権限や役割などに大きな違いがありますが、埼玉県知事選はヨーロッパの中堅国と同じ規模の集団を10年間にわたってリードする大統領を選ぶ選挙というイメージと重ねられるかもしれませんね。

情報収集に要する1日あたりの負担「60秒」

投票するにしても、何を判断材料とすればよいのだろう、と思う人もいるかもしれません。

投票所や期日前投票所には「選挙公報」がありますので、投票直前に選挙公報を読んで判断材料とすることができます。(設置されていない場合でも、投票所の係員さんに声をかけると貸し出してもらえます)

他にも、スマホなどから「埼玉県知事選の各候補の政策を一覧で比較」などをみて判断することもできます。
また、3分間で埼玉県政の課題を開設する動画(さいたま賢人)などもあります。
もちろん、候補者が発信するSNSなどでの情報もたくさんあります。

こうして挙げていくと考えると、いろいろな手段で情報は集まりそうだけどたくさん時間が必要そうでやっぱり投票はめんどくさい、と思われてしまう方もいるかもしれません。

でも、埼玉県知事選は4年に1度です。仮に、「投票に必要な情報を集めて投票所に行き、投票すること」に丸1日を費やしたとしても、毎日少しずつ負担を積み重ねていったと考えると1日あたりの負担時間は60秒ほどになります。

また、投票所が行列となることはめったにありませんので、投票に行って帰ってくるだけならば多くの人は30分もあれば十分です。

投票すると何が変わるの→政治家からの関心が高まります

冒頭でさいたま市長選挙の年代別投票率を紹介した様に、選挙の後、各地の選挙管理員会に問い合わせると年齢別の投票状況を知ることができます。

そのため、各候補者は事前にどの年代の有権者がどれくらい投票に行くのかを把握しています。

選挙結果を詳しくみると、あと少しの票で当選者が変わるような選挙区も少なくありません。例えば、近いうちの解散が報じられることもある衆議院議員総選挙の前回結果を見てみましょう。

【2017年衆院選における得票数の差の少ない選挙区】

新潟県第3区:当選者と次点の得票差50票
埼玉県第12区:当選者と次点の得票差492票
北海道第10区:当選者と次点の得票差513票
静岡県第6区:当選者と次点の得票差631票
愛知県第7区:当選者と次点の得票差834票

取り上げた選挙区の中で最も投票数が少なかったところでも、総投票数は19万票を超えています。また、惜敗率はいずれも99%を超えています。

これらの選挙区では、これまで投票したことのない人たちを取り込むことがとても重要になります。そこで、棄権者の多い若者が、状況が整えば投票する可能性がある存在であることを示すことができれば、今後政治家の関心が一気に若者に向けられることも考えられます。

「若者は有権者としての数も少ないし、他の世代に比べたらその意見が重要視されることなんてない」と考えてしまう人もいるかもしれませんが、様々な選挙結果を見てみるとそうとも言えない状況であることが読み取れてきませんか。

「この一票を投じる機会を作るための費用が他のことに使われていたら、なにができたのか?」

時にはそんなことにも思いを巡らしながら、ご自身にとっての一票の価値や、投票する・しないといったことについて考えてみるのはいかがでしょうか。

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