思い出ありがとう 高岡大和閉店 売り場 往時のにぎわい

買い物客で混み合い、最盛期のようなにぎわいを見せた店内

 高岡大和(高岡市御旅屋町)の最終営業日となった25日、店内は最盛期のようなにぎわいを見せた。衣料品やバッグは飛ぶように売れ、レストランや食品売り場の人気店には長い列ができた。なじみの店員との別れを惜しむ常連客の姿もあった。「思い出をありがとう」。笑顔と涙と感謝に包まれた老舗百貨店の「最後の一日」を追った。 

 【午前9時半】  1階に従業員ら約200人が集まり、最後の朝礼が行われた。小杉美和子店長は「永遠の思い出をつくっていただけるよう、最高のおもてなしでご奉仕しましょう」とあいさつし、ガンバローを三唱した。

 【午前10時】  最後の営業開始。正面入り口が開くと、大勢の人が一斉に店内へ押し寄せた。  「『ありがとう』と伝えたくて」。30分前から並んだ高岡市あわら町の主婦、中谷世津子さん(79)は、高岡大和が入る御旅屋セリオのある場所に生家があった。幼い頃から高岡大和が遊び場で、子どもが生まれてからは祝い事があるたびにレストランで食事した。「私の人生と共にあった。本当に寂しくなる」

 【午前11時15分】  地下食品売り場のパン店「ドンク」には長い列ができた。家族4人で訪れた同市中保の武田香奈さん(29)は、チョコクロワッサンが好きで子どもの頃からよく利用した。長女の芽依ちゃん(5)も同店のパンがお気に入りで、武田さんは「高岡で買えなくなるのは残念。富山大和に行くしかないかな」

 【正午】  7階のレストランは80席が全て埋まり、30組以上が順番待ちに。同市伏木地区の井波千枝さん(91)は娘や孫らと一緒に訪れた。いつも通りビーフカレーを注文し「最後に家族そろって来ることができて幸せ」と笑顔を見せた。昔はここでしかホットケーキが食べられなかったことや、孫が迷子になったことなど、思い出話に花を咲かせた。

 【午後3時】  地下食品売り場で売り尽くしのタイムサービスが始まる。最終価格となった青果や水産加工品、調味料などを求める人で売り場はごった返した。「普段からこの半分でも人が来ていたら、閉店にはならなかったのに」。レジの列に並びながら、そうこぼす人もいた。

 高岡市出身で現在は富山市に住む会社員の武田和夫さん(47)は「サテライトショップになってからも、百貨店らしい物産展を残してほしい」と要望した。

 【午後4時20分】  正面入り口に設置された「感謝」というメッセージボードの前で記念撮影する人の姿が増えた。5歳の長男、2歳の長女と写真を撮った高岡市内島の湯口美香さん(34)は「子どもを連れてよく通った。閉店は残念だけど、小学生くらいの子どもが遊べるスペースができたらいい」と今後のセリオに期待した。

 【午後6時25分】  閉店時刻が迫り、従業員が2列に並んで最後まで買い物をした客を見送った。同市荻布新町の澤崎惠子さん(71)は「きょうは感謝の気持ちを込めて買い物をしました」。名残惜しそうに店を後にした。

 【午後6時40分】  正面入り口前で閉店セレモニーが行われた。小杉店長が「日本一幸せな百貨店でした」と感謝の言葉を述べると、最後まで残った数百人の客から拍手が起こった。従業員OBや御旅屋通り商店街の商店主が店長に花束を贈った。

 近くで理容店を営む田中佳美さん(67)はシャッターが下りる様子を涙を浮かべて見守った。「家族を失うような気持ち。でも、サテライトショップができるし、セリオがなくなるわけでもない。まちなかで暮らす人が頼りにし、新たなにぎわいを生む場所に生まれ変わってほしい」

大勢が並んだパン店
思い出を振り返りながら食事を楽しむ利用客
正面のシャッターが下りる中、市民らに感謝を込めて頭を下げる店員ら

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