西武27歳新人・森脇、プロ入りを後押しした愛妻の言葉「あんたの人生や」

西武・森脇亮介【写真:荒川祐史】

森脇は塔南高、日大、セガサミーを経てドラフト67位で西武入り

 現在パ・リーグ2位につける西武。2年連続のパ・リーグ制覇を狙うチームだが、15日の本拠地オリックス戦では球団ワーストタイとなる20失点を喫するなど、投手陣に課題が残る。苦しい状況だが、1日にはドラフト7位ルーキーの佐藤龍世内野手がプロ初の猛打賞を記録し、新戦力が躍動した。活躍が期待されるルーキーを紹介する第4回目は、社会人のセガサミーに4年間在籍したのちにドラフト6位で入団した27歳のオールドルーキー、森脇亮介投手だ。

 京都・塔南高から日大を経て社会人のセガサミーに入社。高校生の時からドラフト候補に名前が挙がっていたが、当時はプロの世界へ踏み出す勇気がなかった。

「先を見てしまいました。高校を卒業してプロに行って活躍できればいいけど、もし芽が出なかったとき、どうしようかなと。大学を出ていたほうがいいんじゃないかと考えていました」

 プロで活躍する自信を得るため、レベルアップを目指して東都大学リーグの名門、日大に進学するが、4年間は思い通りのピッチングができず、卒業後は野球をあきらめ就職を考えた。

「投げては打たれで、結果を残せませんでした。いいボールがいっているのに、打たれる。キャッチャーに聞いても『いいボールだよ』って言うんです。結果が出ないことに、ずっともやもやしていました。このままだったら大学で野球は終わりかな。と思いました」

 大学では、野球をやらなくても就職すれば生きていけると考えていた。しかし、4年の時にセガサミーの練習に参加したことが縁で「うちでやらないか」と声をかけられた。

「プロは全く考えていませんでした。社会人で野球を続けさせてもらえることになって、セガサミーが自分の中で最後のチームになるだろうなと思いました。『最後のチームなんだから頑張ろう』そう思って、ちょっと真面目に野球に取り組むようになりました」

 その成果もあり、セガサミーでは1年目から都市対抗に出場。東京ドームのマウンドに上がったことで、それまで全く考えていなかったプロを意識するようになった。しかし、2年目以降はそれが裏目に出てしまい、苦しいシーズンを送ることになる。

「2年目に入ってからは『今年結果を出せばプロに行けるかも。エースで投げてやる』という気持ちになり、自分中心になって全く周りが見えなくなりました。リズムも単調で、力みまくって狙ったところより甘くなって、チームを勝たせることができなかった。その結果が都市対抗予選敗退です。NTT東日本の補強で出場させてもらいましたが、準決勝で自分が打たれてサヨナラ負け。日本選手権にも出場できませんでした」

セガサミー3年目に引退も覚悟「野球を上がった人に『どんなことするんですか』って聞いてました」

 結局、この年のプロ入りは叶わなかった。ストレートには自信があったため、3年目は変化球を磨こうとしたが、これもいい結果には繋がらなかった。

「真っ直ぐを待ってる中で、取ってつけたような変化球でも最初は打ち損じてくれていました。でも『こういう球もある』というデータが入った瞬間に、全部打たれるか見逃されました。3年目は試合でほとんど投げられず、ピッチングコーチに『今年でクビになるかもしれない』と言われました」

 3年目の日本選手権予選ではベンチに入ることもできず、引退を覚悟した。それからは、週に1回の出社日に率先して電話を取り、電話対応の仕方や名刺交換のマナーを学び、社業に就く日に備え社会人としての基本を身に付けた。

「野球を上がった人に『どんなことするんですか』って聞いて回っていました。日本選手権の予選で負けた後、誰が引退するのかそわそわしていたんですが、面談で『真っ直ぐをもっと磨け』と言われて『来年も野球ができるんだ』と思いました」

 結果を出せなかったらクビだと覚悟して臨んだ4年目。自分が1番自信がある真っ直ぐをもう1度磨こうと決心した。練習に格闘技を取り入れるなど試行錯誤を繰り返し、都市対抗予選直前に手応えをつかんだ。

「ストレートの球威が伸び、予選ではほとんど点を取られませんでした。覚悟をもってやった年、今までとは違う気持ちでやった1年が、結果につながりました」

 都市対抗ではチームをベスト4に導く活躍を見せ、この年のドラフトで西武から6位指名を受けた。すでに結婚し2児の父親でもあったが、奥さんは「後悔しないようにしてほしい。あんたの人生や」と、背中を押してくれた。

 ここまで中継ぎとして29試合に登板し、5月15日のソフトバンク戦ではプロ初勝利も挙げた。それでも、試行錯誤の毎日だ。

「プロではボール球は全然振ってくれないし、いいところにいっているボールでもファウルで逃げられるか、内野の間を抜かれてヒットになる。さすがだなと思います。プロで生きていくためには、どれだけいい真っ直ぐを投げられるかが大事だと思っています」

 変化球に逃げ、自らのピッチングを見失った社会人での経験が生きている。「社会人を4年やってプロに入ったことには意味があると思っています」。力強くそう話す27歳のルーキーは、大事な場面を任せてもらえる投手を目指し、直球に磨きをかける。(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)

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