DeNA2年目右腕・齋藤を刺激する“昔の仲間” 巨人・若林から届いたメッセージ

DeNA・齋藤俊介【写真:佐藤雄彦】

怪我に泣いた1年目は公式戦登板なし「自暴自棄になりそうになったことも」

 即戦力投手として期待され、強豪社会人のJX-ENEOSからDeNAに意気揚々と入団した2018年。齋藤俊介は1球も公式戦で投げることができなかった。キャンプスタート直後に右肘を痛めると、7月には右肩のクリーニング手術。キャッチボールを再開したのは11月だった。

「本当に何をしているんだ、と思いました。自暴自棄になりそうになったこともあります」

 そう振り返ったのは、手術から約1年が過ぎた今年8月初旬。場所は他でもない、横浜スタジアム。失意の1年目をバネに大きく成長した右腕は、2年目の今季、7月5日に1軍デビューを果たして以来、中継ぎとして存在感を大きくしている。

 野球を始めたのは小学校3年生の頃。成田高、立教大、JX-ENEOSと野球を続けてきたが、昨年ほど長い期間、ボールを投げなかったことはない。投げ出してしまいたくなることもあったが、「自分が腐っていてはダメだ」と思わせてくれたのは、コーチやトレーナーの方々の親身なサポートだった。

 手術を受けた肩の機能をアップさせるトレーニングに加え、インナーマッスルや小さな筋肉を動かすトレーニングにフォーカス。「大きい筋肉は鍛えられているけど、小さい筋肉が使えていないので、バランスが崩れている」とトレーナーに指摘され、「投げても壊れない身体作り」に専念した。

 かつてないほど自分の身体と向き合う日々は「1日1日充実していました」。よりよい身体の使い方や投げ方を教わり、実践する中で少しずつ効果が現れ始めた。1軍で活躍する同級生や同期の姿をモチベーションにし、自分に「しっかりやれば大丈夫。また投げられる」と言い聞かせていたが、コーチやトレーナーからも「お前、絶対に大丈夫だから」と背中を押され、自信を深めた。

DeNA・齋藤俊介【写真:佐藤雄彦】

 万全な状態で迎えた2年目。久々に立ったマウンドで、今度はプロの洗礼を浴びた。社会人時代から外角を中心に攻めるスタイルできたが、コーチ曰く「一辺倒な攻めだと怖さがない」。フォームもスタイルも、オーソドックスな右投手。何か工夫をしなければ、プロの打者にはあっという間に攻略されてしまう。そこで、打者に厄介な投手だと思わせるために、インコースを突くなどストライクゾーンを目一杯使うスタイルに変えると、成果は如実に表れた。

 運命の日は、意外に早くやってきた。7月5日の敵地・巨人戦を前に1軍初昇格を果たすと、即デビュー。8回、2-8と6点を追う展開だったが、先頭のビヤヌエバを見逃し三振、続く若林晃弘を空振り三振、最後は陽岱鋼を一塁フライに打ち取って、3者凡退デビューを飾った。

「昇格1日目だったので緊張しましたね。でも、展開から『これはあるぞ』と思って準備していたので、ちゃんと3人で抑えられたと思います。ファームでやってきたことが上(1軍)でも通用すると体感できたので、このまま続けていきたいと思いました」

DeNA・齋藤俊介【写真:佐藤雄彦】

1軍で失点した試合の後、田中健二朗から届いたメッセージ

 もちろん失点し、気落ちしたこともある。元々「すぐ結果を求めがち」な性格。だが、中継ぎの先輩・田中健二朗から届いたLINEのメッセージに、ハッとさせられた。

「『打たれたとしても、やれることを明確にして、ちゃんと1個1個やっていけば、絶対大丈夫だから』ってメッセージをいただきました。自分は何か上手くいかなかったら『あぁダメだ』と思いがちなので、この言葉は響きましたね。次にどう繋げるかを考えれば大丈夫。そう思うようになりました」

 身長176センチ、体重85キロ。決して大きな体格ではないが、マウンド上での投げっぷりの良さは誰にも負けない。「やっぱり自分は弱気になって腕が触れなくなったらダメ。やってきたことを信じて、キャッチャーミットを目掛けて思い切り投げることはすごく意識しています」と、真っ直ぐでも変化球でも懸命に腕を振り続ける。左腕王国と言われるDeNAだが、「三嶋(一輝)さんのようないい右ピッチャーがいる中で、負けずに齋藤もいるぞ、とアピールして行きたいです」と活きがいい。

 社会人時代を過ごしたJX-ENEOSは横浜を拠点とする強豪チーム。齋藤は2016年と2017年の2度にわたり、DeNAと行ったクライマックスシリーズ前の練習試合に登板し、プロ入りの想いを強めた。そして、そのDeNAから2017年にドラフト4位指名を受けて入団。少なからず感じる縁に「すごくうれしかったです」と振り返る。社会人でチームメートとして一緒に勝利を目指したのが、巨人の若林だ。首位争いを演じる敵ではあるが、同じ釜の飯を食べた仲間の絆が消えることはない。

「若林とファームで対戦した時はしっかり打たれたんですけど、デビュー戦では三振に抑えられた。試合の後で連絡が来て『全然球が違ったよ』って言ってくれました。すごくうれしかったです。昔の仲間の活躍は刺激になりますね。負けないぞ、と思いながらも、うれしいです」

 寝る前や遠征の移動中は、ミステリー小説などを読んでリフレッシュを図る。「面白いと評判のものを片っ端から読む感じ」と言い、東野圭吾、伊坂幸太郎作品は、ほぼ読み尽くしたほどだ。読書で気分を切り替えた後は、またマウンドに上がって思い切りよく腕を振る。1日でも長く1軍で活躍する投手になるために、目指すは「調子の波が少ない」投手だ。

「今はまだ納得できる時とダメな時の差が激しいんです。でも、木塚(敦志)1軍投手コーチにも言われるんですが、求められるのは調子が悪い時にどれだけおさえられるか、どれだけ試合を作れるか、任されたイニングをどう抑えるか。これが今後のキーになると思うので、波を減らしていきます」

「今があるのは、皆さんのサポートがあるおかげ」と感謝を忘れず、「去年、投げられなかった苦しみを知っているから、投げられる喜びを感じています」と笑顔を見せる。苦労を成長の肥やしとし、これから大きな花を咲かせてみせる。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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