日本一“アツい”ラグビーの街・熊谷は今どうなっているのか

「4年に一度じゃない。一生に一度だ」。ラグビー・ワールドカップ(以下、W杯)の日本開催を9月20日に控え、街中には同大会のキャッチコピーを掲げたポスターやのぼりなどが目立つようになってきました。

大会は開幕戦となる同日の日本対ロシア戦を皮切りに、11月2日の決勝戦までの44日間、全国12会場で計48試合が行われます。カウントダウンが始まり、試合会場のある各都市も受け入れ態勢の整備を急いでいます。その1つ、埼玉・熊谷ラグビー場のある熊谷市へ足を運びました。


熊谷とラグビーの浅からぬ歴史

「スクマム!クマガヤ」。W杯開催を待つ熊谷市のスローガンです。ラグビーの「スクラム」と熊谷を組み合わせたもの。熊谷へは東京・池袋から電車で約1時間。玄関口のJR熊谷駅を降りると、このスローガンのキャラクターをあしらったフラッグが出迎えてくれます。

「熊谷」といえば、暑さで有名な都市です。今夏の猛暑について伝えるテレビのニュース番組でも、熊谷の最高気温がしばしば取り上げられていました。実際、「熊谷へ取材に行く」と周囲に話しをすると、「暑いでしょう」という反応が少なくありません。

しかし、それだけではありません。実は「ラグビータウン」としても知られています。熊谷におけるラグビーの歴史は1967年にさかのぼります。

同年の国民体育大会でラグビーが開催されました。県などは「教員の部」に出場するチームを強化しようと、大学のトップレベルでプレーしていた選手を体育教師などとして次々と採用。それをきっかけとして、熊谷を中心にラグビーの裾野が広がっていったのです。

124億円を費やしスタジアムを改修

これまでに日本代表の監督を務めてW杯初勝利へと導いた故・宿澤広朗さん(熊谷高校卒)、日本代表選手として活躍した堀越正巳・現立正大監督(熊谷工業高校卒)など、あまたの名選手を輩出しています。1991年に策定した市の振興計画には、イメージアップ戦略の一環として「ラグビータウン熊谷」の構想が盛り込まれました。

W杯の招致に奔走した市の担当者は、新聞報道などに一喜一憂していたそうです。島村英昭・ラグビーワールドカップ2019推進室長は「12都市開催は不透明」という見出しの記事を手に、「開催会場が全国12都市でなく10都市に絞り込まれたら、熊谷と福岡は厳しいと言われていた」などと当時を振り返ります。

2015年3月、開催都市の1つに決定。半世紀余りにわたって熊谷のラグビーを支えてきた地元関係者の悲願が成就した瞬間でした。

生まれ変わった熊谷ラグビー場

大会開催を前に、熊谷ラグビー場は約2万4,000人の収容が可能なスタジアムへ生まれ変わりました。大規模な改修工事に要した費用は約124億円。W杯の試合会場では数少ないラグビー専用グラウンドの1つです。

ラグビー場に集まった市民の目的は?

8月17日、熊谷ラグビー場のバックスタンドに約400人の市民らが集まりました。南アフリカ国歌の練習が目的です。

新スタジアムで国家の練習をする熊谷市民

同ラグビー場ではW杯の予選プール3試合が行われますが、前哨戦として9月6日に日本対南アフリカのテストマッチが開催されます。国歌の練習イベントは同ゲームに備えたもの。前出の「スクマム!クマガヤ」というスローガンの下に立ち上げられたプロジェクトの一環です。そこには「国歌を斉唱することが海外チームの代表選手に対する最高のおもてなしになる」との思いが込められています。

この日の熊谷の最高気温は36.8度。市民らは同市の代名詞ともいうべき「暑さ」を吹き飛ばそうと、声高らかに南ア国歌を歌い上げました。練習に参加していた埼玉・坂戸市在住の女性は、ボランティアとしてW杯に携わる予定です。「実際に試合も観戦することができればいいのですが……」と大会を心待ちにしている様子でした。

市はW杯本番で地元の小・中学生約1万5,000人を5,000人ずつに分けて全員観戦させることにしました。小・中学校でも観戦する代表チームの国歌を練習中です。

アクセス面の難点を克服するカギ

気になるのが、熊谷ラグビー場へのアクセスの問題です。JR熊谷駅からスタジアムまでは約3.5キロメートル、歩くと50分ほどかかります。試合開催日には警察などと協力して、会場周辺の交通規制を実施します。

自動車での直接の乗り入れは禁止し、シャトルバスの運行やパーク&ライドなどの実施で対応。400台前後のバスを用意して臨む構えです。バス1台の乗車人員は45名を想定。単純に考えると、バスで賄うことができるのは1万8,000人の観戦客にとどまる計算です。

本番を約1ヵ月後に控える熊谷ラグビー場

市民一体となってW杯を成功させようと名付けられた「スクマム!クマガヤ」。プロジェクトの内容は国歌斉唱以外にも「飲食店で“スクマムクッキー”を作る」「花屋でラグビーボールの形をフラワーアレンジメント&ブーケを販売する」など、さまざまです。

熊谷市の島村室長は「4年前のイングランド大会では、最寄り駅に“スタジアムまで徒歩40分”という看板が掲げられていたところもあった」と話します。熊谷ラグビー場まで歩いても50分の長さを感じさせずに済むかどうかは、多くの観戦客をもてなす市民のスクラムの堅さにかかっているのかもしれません。

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