登山あるある《山の天気は崩れやすい》の謎を解いてわかった、危険な兆候って? 「山の天気は崩れやすい」と聞いたことはありませんか?山はその複雑な地形と標高の高さから、平地と異なる天気の特徴があるんです。今回はそんな山のあるあるの「山は天気が崩れやすい」をテーマに、山の天気について解説していきます。山の天気のことがわかれば、また一つ山の楽しみが加わりますよ。

せっかく山頂についたのに、午後の展望はゼロ・・・

澄みわたる青空と雄大な景色。晴れた日の登山は格別ですよね!

でも出発した時は晴れてたのに「昼過ぎに山頂についたら、真っ白で全然景色が見えなかった」「午後になったら、突然雨にふられた」「雷が発生して怖い思いをした」などの経験をしたことがある方も、多いのではないでしょうか。

「山の天気は崩れやすい」ってほんと?

街には青空が広がっているのに、山にだけ雲がかかっているのを見たことがありませんか?

平地がいい天気だとしても、山も同じ天候とは限りません。山はその複雑な地形と標高の高さから、平地よりも天気の変化が激しいんです。

山の天気は死活問題!知らないじゃすまされないことも・・・

天気のことってなんだか難しそうと敬遠されがちですが、山の天気に興味を持ち学ぶことは、あなたの登山の安全性を大きく変えます。

気象変化による遭難事故の一例として

・大雨による沢の増水、土砂崩れ
・カミナリの発生による落雷事故
・霧による道迷い
・突然の風雨による体温の低下

など、命に関わるものも。これらの危険に素早く気づき、より安全なルート変更や撤退のタイミングを判断するためにも、天気の動きを予測する力を身につけることが大切です。

でも、天気の話って難しそうなんだよな~

大切なのはわかるけど、天気の話って「気圧配置」とか「天気図」とか専門的で難しそうなイメージを持っていませんか?
確かに一度に全部身につけようとすると大変ですが、まずは少しずつ慣れるところからはじめればOK。

ということで、今回は「午後になると山の天気が崩れやすい理由」をテーマに、天気について少し学んでいきましょう。

山の天気を左右する原因はズバリ”雲”だった!

雲ひとつない青空の時は、穏やかなことがほとんど。反対に、大雨や雷の時に必ずあるのが雲。そう、雲が天気の良し悪しを左右しているんです。

また、平地には雲がないのに、上の画像のように山の上だけ雲がかかっているのって見かけたことありませんか?これは山の独特な地形が密接に関係していて、山の天気が崩れやすい理由の一つでもあるんです。

午後から天気が崩れる時は、こんなことが起きている

すべてがこのパターンに当てはまるわけではないですが、多くの場合はこんな流れで山の天気が変化していると思われます。

この①~④のストーリーを簡単に解説すると。

①雲のない晴天で登山開始
②天気は良く、問題なく登って行きます
③雲(ガス)が出てきて、異変に気づき始める
④気づくと雲が発達していて、雨に降られる

なんとなくの流れは理解できたと思いますが、問題は「なぜ、時間の経過とともに雲ができて天候が悪くなったのか?」という部分。

天候が荒れた原因や雲ができる仕組みを、もう少し詳しく見てみましょう。

「上昇気流が発生しやすい」だから山の天気は変わりやすい

街にはなくて山にある特徴の一つ、山は上昇気流が発生しやすいということ。この上昇気流こそ、雲を生み出すキーマンなんです。

上昇気流によって、山で雲ができる要因は2つ。

〈①山の斜面によるもの〉

風が山にぶつかると、風は他に行き場がなく強制的に山の斜面を吹き上がっていきます。これにより、山では風が吹けばあっという間に上昇気流が発生するのです。

〈②日射によるもの〉

晴れた日、太陽の熱によって山肌が温められると、地面付近が暖かく軽い空気(※1)となり、上昇気流が作り出されます。
※1)ストーブで暖めた部屋が上ばかり暖かくなり足元が冷たいように、暖かい空気は軽く上方へ、冷たい空気は重たく下方へいく性質があります。
以上、2つの原因により、山の上は上昇気流により雲ができやすい場所になっているんです。

なぜ、上昇気流が起こると雲ができるの?

山は上昇気流ができやすい場所ということがわかったところで、次は上昇気流と雲ができる関係について説明します。

雲の正体は、小さな水滴のかたまり
私たちの身の回りには目に見えない「空気」が存在しています。その空気が上昇して温度が下がることによって、水蒸気(気体)は水滴(液体)へと変化し目で捉えることが可能に。

これが雲であり、このように空気が上昇する流れは上昇気流と呼ばれ、雲を生み出す仕組みの重要な部分なのです。

たくさん水分を含む空気は悪天候の予兆

上昇気流が起きた場合、その気流の水蒸気量が雨雲の発達に影響してきます。

例えば、空気が乾燥している(水蒸気がほとんどない状態)と上昇気流が起きても雲は現れず、もし発生したとしても雨が降る可能性は低いです。
逆に空気中に水蒸気が多く含まれている場合、雲は大きく発達し強い雨を降らせる可能性が高くなります。

こんなときの登山は天気の変化に要注意!

ここまでは水蒸気を多く含んだ空気が山の斜面にそって上昇することで、山が雲に覆われやすくなることを学んできました。

しかしながら、空気が上昇し続けなければ、雲は落雷や強雨をもたらす雲にはなっていきません。

そこで次は落雷や強い雨をもたらすような積乱雲が発生する仕組みについて解説します。代表的な二つの注意すべき例を見ていきましょう。

①大気の状態が不安定なとき

天気予報で「大気の状態が不安定」というワードを耳にしたことはありませんか?
大気が不安定な状態とは、

1.上層に冷たい寒気があるとき
2.下層に暖かい空気があるとき
3.下層に暖かく湿った空気があるとき

を指します。このとき暖かい空気は上へ、冷たい空気は下へ向かう動きが起こり、強力な上昇気流が発生します。
これにより急激に発達した雲が「積乱雲」となり、カミナリを伴った大雨を降らせるのです。

(積乱雲が最も発達した状態。雲の頂点が水平になっているのが特徴)

「積乱雲(せきらんうん)別名:入道雲」は山で最も危険な雲のひとつ。大きく発達した天空の城ラピュタのような巨大雲が、時には災害級の大雨をもたらします。特に大気中に水蒸気が多い夏山シーズンに発生しやすいので注意が必要。

天気予報で「大気の状態が不安定」が予想される場合は、無理のない早め早めの行動を心がけるようにしましょう。

②海から風が吹き込むとき

海の上は水分が蒸発しているので、水蒸気を含んだ空気がたくさん。この海からの風が山にぶつかると、上昇気流が発生し、風上側で天気が崩れやすいことが予想されます。

例えば、夏場の富士山で静岡県側から風が吹く場合は、静岡県側で特に天候悪化や積乱雲の発達に注意が必要です。

風向予報はWEBの天気予報でチェックすることができるので、登山に行く際には風向にも目を向けてみましょう!
また基本的に上昇気流は風上で発生するので、風上側の街の天気予報を参考にすると良いです。

天気の動きを予想し、答え合せをしてみよう!

天気が移り変わる仕組みを理解することで、自分の力でこれからの天気がどうなるかを予想し実際にどんな天気になったかを確かめることができます。
晴れの日も、曇りの日も、雨の日も、その時々の山がどうなっているかを考えてながら空を見上げると、また新たな視点での山登りが楽しめますよ。
まとめ

■山の天気が変わりやすいのは、雲を作る原因になる”上昇気流”が発生しやすいから

■たくさん水分を含んだ空気は悪天候の予兆

■「大気の状態が不安定」が予想される時は、積乱雲に要注意

監修:猪熊隆之さん

山岳天気予報士であり、国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテンの代表取締役。

「猪熊隆之の観天望気講座」やチーム安全登山会員用ページの「登山講習」で「雲から山の天気を学ぼう」という連載を行い、登山中に見られた雲や登山前に確認すべき天気図のポイントについてわかりやすく解説。

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