臓器移植の現状1冊に 富山市のジャーナリスト向井さん

臓器移植をテーマにした本を執筆した向井さん

 2009年の改正臓器移植法成立から10年を機に、富山市のジャーナリスト、向井嘉之さんが「いのちを問う 臓器移植とニッポン」を刊行した。脳死からの臓器移植が進まない日本の現状と課題を探った。

 1997年の臓器移植法施行で、日本でも脳死臓器移植の道が開かれた。ただ、移植件数は他の先進国に比べ極端に少なく、改正法で基準が緩和された現在も子どもを中心に移植のための海外渡航が続いている。

 「浄土真宗の祖である親鸞の思想は臓器移植につながるものだ」。向井さんは30年前にカナダの大学病院で取材した移植専門医の言葉が記憶に残り、関心を持ち続けてきた。本書では「なぜ日本で脳死からの臓器提供が進まないのか」という問いに対し、日本の文化的視点や宗教的倫理観も含めて考察した。

 2012年に富山大附属病院で行われた国内初となる6歳未満の子どもの脳死判定、14年に米国で心臓移植を受けた射水市の長尾澄花さんの事例も取材。脳死患者の家族に臓器提供の選択肢を示すことへの医療現場のためらい、移植を待つ患者や家族の置かれた現状や思いに向き合った。

 向井さんは「日本では、脳死臓器移植についての議論がほとんど聞かれない。多くの人があらためてこの問題を考えるきっかけになれば」と話している。

 能登印刷出版部刊、A5判168ページ。1728円。県内外の書店で扱うほか、向井さんの電話・ファクス076(438)2830で直接注文も受け付ける。

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