【MLB】プホルス独占インタ 子供のスポーツ離れに懸念「勝敗よりも大切なものがある」

エンゼルスのアルバート・プホルス【写真:Getty Images】

自身のツイッターでも呼びかけ「子供たちに子供らしいスポーツを返そう」

 8月5日、エンゼルスのアルバート・プホルス内野手が自身のツイッターで動画メッセージも交えて、こんな発信をした。

「あらゆる場所で子供たちのスポーツ離れが進んでいます。私たちは皆、コーチや保護者が若いアスリートたちにどんな言葉を掛けるかが重要であることを心に留めておく必要があります。子供たちに子供らしいスポーツを返しましょう」

 この投稿には「#DONTRETIREKID」というハッシュタグがついており、米非営利シンクタンク「アスペン・インスティテュート」(AP)が手掛ける「Project Play」という活動を支援する目的を持っている。APの関連団体「Sports&Fitness Industry Association」(SFIA)が2018年に行った調査によると、米国では6歳から12歳までの子供のうち、普段からチームスポーツに親しんでいる子供はわずか38%で、2008年の45%から大幅にダウンしている。また、チームスポーツの経験を持つ子供でも、その多くが11歳までにスポーツを辞めてしまうといい、その主な理由は「スポーツがつまらなくなってしまったから」。この傾向に危機感を抱いた元NBAスター、コービー・ブライアントが中心となり、「Don’t retire kid(子供を引退させるな)」というキャンペーンをスタート。親交のあるプホルスも賛同したというわけだ。

 プホルス自身も5人の子供を持つ親だ。実際に身近な場面で子供たちのスポーツ離れを感じることがあるのだろうか。通算652本塁打&3178安打の大打者は「Full-Count」の独占インタビューに応じ、子供たちにとってのスポーツは「勝敗よりも大切なものがある」と力説した。

「野球に限らず、どのスポーツでも子供たちが早くからスポーツを辞めてしまう傾向にある。これは本当に悲しいこと。スポーツをするのが楽しくないなんて、こんな悲しいことはない。どうして、子供たちがそう感じてしまうのか。僕が見せてもらった資料によると、子供たちは上手くならなければいけない、勝たなければいけない、とプレッシャーを感じているそうだ。最初は楽しかったスポーツが、プレッシャーが大きくなるにつれて、つまらなくなる。そんなの切ないじゃないか」

「子供にとって、コーチや両親の一言は、大人が思う以上に大きな意味を持つ」

 日本では子供の野球端れが多く取り上げられているが、それと同じような状況が米国ではスポーツ全体で起きているという。子供がスポーツから離れていく理由はそれぞれだが、中でもプホルスが無視できない傾向があるという。それが「子供にとってのスポーツが持つ意味の変化」だ。

「そもそも、子供にとってのスポーツは楽しいものであるはず。プレーする中で、チームスポーツであれば、仲間と協力することを覚えたり、チーム内での自分の役割を覚えたり、困っている仲間を助けたり、そういう経験を積みながら、人間として成長していく。ルールを守る、相手をリスペクトするという社会性も学べる場所であったはずだ。それが、いつの間にか勝敗が全てになってしまった。子供がスポーツの意味を変えたわけじゃない。変えたのは大人。コーチや保護者といった周りにいる大人たちが、勝敗に重きを置くようになってしまったんだ。子供の成長にとって、勝敗よりも大事なことがある」

 プホルスの子供たちもスポーツをプレーしているというが、「僕はほとんど口を挟まない」と話す。何か声を掛ける時でも、決して叱ることはない。「子供にとって、コーチや両親の一言は、大人が思う以上に大きな意味を持つ」と考え、子供が理解できるように、彼らの目線に立って話しかけるようにしているという。

「もちろん、親だったら自分の子供が上手にプレーできる方がうれしいし、試合に勝てばうれしい。でも、負けや失敗から子供が学ぶこともたくさんある。下手に口を挟んで、子供が成長する機会は奪いたくないし、まだ小学生のうちは楽しくプレーしていれば、それで十分。子供が大人の言葉で傷ついたり、プレッシャーに感じてしまうこともあるからね。

 勝った負けたは、もっと大きくなってからでいい。それよりも将来、他人を思いやれる大人になれるか、家庭を愛する大人になれるか、諦めずに何かに打ち込める大人になれるか。僕はスポーツをすることが、そういう人間形成に大きく役立つと思っているんだ」

プホルスの願いとは…「子供たちがスポーツを楽しめる、そんな環境を」

 メジャー19年、39歳となった今でも現役野球選手としてプレーし続けているのは、野球を愛する心があるからこそ。自分が野球をプレーし続けたからこそ得た経験、仲間、喜びなどを、子供たちにもぜひ味わってほしいという想いがある。

「僕は今でも胸を張って、野球を愛していると言える。もちろん、辛いことも悔しいことも経験した。それでも、野球を愛する気持ちは子供の頃から変わっていない。将来、プロ選手にならなくても、子供の頃にスポーツをした経験は必ず社会で生きるし、趣味として続けることもできる。こういう機会を子供から奪ってしまってはいけない。もう一度、子供たちがスポーツを楽しめる、そんな環境をみんなで取り戻していきたいんだ」

 子供にとってのスポーツとは何なのか。もう一度、大人は考え直してみるべきかもしれない。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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