<レスリング>【特集】東京オリンピック出場枠獲得にかける(13)…女子68kg級・土性沙羅(東新住建)

(文=布施鋼治)

土性沙羅(東新住建)

 6月17日に行なわれた全日本選抜選手権の女子68㎏決勝。土性沙羅(東新住建)は第2ピリオドの残り10秒で逆転勝ち。成長著しい古市雅子(自衛隊)を振り切ると、ホッとした表情を浮かべた。

 その表情が気になって仕方がなかったので、8月中旬、東京・味の素トレーニングセンターでの強化合宿で練習する土性に、古市との激闘についてあらためて聞いた。2年ぶりに世界選手権出場を決めた2016年リオデジャネイロ・オリンピックの金メダリストは、第三者的な視点で振り返った。

 「最後まで負けるとは思っていなかったけど、ポイントでは負けていた。取りにいきたいけど、取りにいけない。どうしようと思った矢先に取れたので、自分でも、よかった、と思ったんでしょうね。最後の最後で逆転という試合は久しぶりだったし」

 優勝を決めた後、マットでテレビ局のアナウンサーにマイクを向けられた土性は「大変なこともあったので…」と世界選手権の切符を手にするまでの道程が困難だったことを示唆した。大変なこととは、2015年の全日本選抜選手権で亜脱臼。その後、だましだまし試合を続けていたものの、昨年、ついに5時間に及ぶ手術に踏み切った左肩のことを指す。

6月の全日本選抜選手権決勝、ラスト10秒で逆転勝ちし、天に感謝(?)=撮影・矢吹建夫

 「手術をしてから、思い通りに肩が動かなかったり、思い通りのレスリングがなかなかできなかったりした。本当にいろいろあったので…」

 すべては東京でオリンピック連覇を果たすため。復帰戦に昨年12月の全日本選手権を選んだのも、この大会がオリンピック予選の第一弾として行なわれたからにほかならない。「肩が完全に治っていたわけではないので、闘い方はとりあえずおいて、『最後は自分が勝っているように』という意識を強く持つようにしていました」

 アジア選手権優勝を経て臨んだ全日本選抜選手権でも、決して満足のいくコンディションではなかった。試合中もどこかで肩をかばう自分がいたことを否定しない。「やっぱり今でも怖さはあります」

世界選手権のテーマは「東京オリンピックへの序曲」

 取材日は、女子の笹山秀雄・強化委員長(自衛隊)とのマンツーマンの練習に時間を割いていた。笹山委員長は「まだ思い切りタックルにいけていない」と指摘する。「今の土性は、タックルに入る時、手の方が体より先に入っている。勢いをつけていこうとするから、そうなってしまう」
 

2年ぶりの世界選手権へ向け、全日本合宿で練習する土性

 どうすれば、修正できる?「スピード感はある。(体と同時に入ることで)手が相手から見えなくなり、迷いがなくなれば、また全然違うタックルになる」

 そうした指摘に土性は素直にうなずく。「頭では分かっているけど、体がまだ思うように動かない。4月のアジア選手権くらいまでは(納得のいく)タックルにも入れていたけど、『リオの前みたいに戻りたい』という思いが強くなったら、入り方がちょっと分からなくなってきた感じがします」

 世界選手権までに間に合うのか。笹山監督は「少しずつよくなって来ている」と前向き。土性も「牛歩のようなスピードでそうなってきているかも」と感触を掴みつつあるようだ。「世界選手権の試合当日、一番いいパフォーマンスができるようにしたい」

 全日本選手権から全日本選抜選手権までのテーマが「復活」とするならば、今回の世界選手権のそれは「東京オリンピックへの序曲」。カザフスタンの地で、土性はどんな曲を奏でてくれるのか。全てはタックルを修正できるかどうかにかかっている。


2019年世界選手権=東京オリンピック第1次予選(9月14~22日、カザフスタン・ヌルスルタン)

女子68kg級代表・土性沙羅(東新住建)
 1994年10月17日生まれ、24歳。三重県出身。愛知・至学館高~至学館大卒。159cm。2008・09年に全国中学生選手権を制し、高校2年生の2011年に全日本選手権67kg級で優勝。2013年に世界選手権67kg級に初出場して3位。以後、69kg級で2014年2位、2015年3位。2016年はアジア選手権で勝ったあと、リオデジャネイロ・オリンピックも制した。2017年も世界選手権で優勝。2018年は肩の手術で戦線離脱したあと、全日本選手権で優勝。

略歴(詳細) JWFデータベース UWWデータベース 国際大会成績

女子68kg級・展望=制作中 / 5位以内がオリンピック出場枠獲得、3位以内は協会規定により日本代表に内定

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