「価格2800万円」ランボルギーニのSUV「ウルス」を2日間乗り回してみた

軽自動車をテストした翌日は数千万円のスーパーカーを試乗する。私たちがテストする試乗車はまさにジェットコースターのように毎日変化します。

先日も約180万円のダイハツ・タントを試した翌日、約2,800万円のランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」を2日間預かって撮影と試乗を行いました。「ウルス」1台でタントが16台ほど買えますし、「ウルス」の消費税でフル装備の最高級のタントを買ってもおつりが来るという価格差ですが、どちらも快適にA地点からB地点へと移動できるということにおいては同じ結果を得ることができます。

それでも実際に試してみると、移動の中身がまったく違っていました。


背は高いが正真正銘のスーパーカー

ランボルギーニと聞けば、多くの人は「カウンタック」を思い起こすでしょう。

まさに1970年代中盤に巻き起こったスーパーカーブームの牽引役であり、その名は今も多くの人たちに語り継がれていますが、すでにそのブランド名は無くなっています。現在は「アヴェンタドール」や「ウラカン」といったスーパーカーがその役割を担っています。

そうしたランボルギーニの中で、ちょっぴり異質とも言えるのが、大型の野生牛に由来すると言う車名を与えられた「ウルス」です。私たちの間ではスーパーカーブランドから登場したためにスーパーSUVと呼ばれています。

それにしても、本来なら地面に突き刺さるようなぺったんこなアヴェンタドールとかウラカンなどといったスーパーカーを作っていたメーカーまでもが、こうしてSUVを送り出すのですから、ブームも極まった感があります。

さてスーパーカーの代表格と言えるブランドからリリースされた「ウルス」です。走りのパフォーマンスはもとより、刺激的なスタイルと贅沢な室内、そして注目度の高さは、正直、一般のクルマでは絶対にマネのできない仕上がりになっていますし、軽自動車16台分の価値は当然そこにあります。

まずはスタイルを見てください。ジープやレンジローバーなど伝統的なSUVのように押し出し感の強いスタイルではありません。どちらかと言えばクーペとSUVのクロスオーバーという部類で、かなりシャープに見えます。「ウルス」は背が高いSUVであってもランボルギーニらしく“地をはうような”フォルムになるようです。おまけにフロントマスクのデザイン、エッジの効いたフェンダーと共に見た目のインパクトは抜群ですから、注目度の高いスタイルといえます。

誰が乗っても快適に使える

イタリアブランドらしく上質なレザーシートと華やか色使いのインテリア

ドライバーズシートに乗り込んでシートポジションを合わせます。この状態で前を見ている限り、コックピットは他のランボルギーニのモデルと多くの共通性を持ったデザインで、スポーティでありながら独特の華やかさもあります。

3つのオンロードモードと3つのオフロードモードから選べるANIMAコントローラーが備わる

さてシートポジションが決まったところでエンジンスタートです。ウラカンと同じような赤い蓋を跳ね上げてプッシュする始動スイッチを押すと、拍子抜けするほど普通にエンジンが静かにスタートします。

赤いキャップを跳ね上げるとエンジンのスタート/ストップスイッチが現れる。その周りにP(パーキング)、N(ニュートラル)、M(マニュアル)などシフトのボタンが見える。さらに左側にはドライブモードセレクター、右側にはエンジン、ステアリング、サスペンションを個別に設定できるスイッチが並び、操作性は悪くない

“野獣の咆吼”などという表現は、まったく当てはまることなく、実に穏やかにエンジンが目覚めました。冷静に考えればいくらスーパーSUVなどと呼ばれる存在であっても、ごく普通に、女性たちでも楽々と使いこなすことが求められる存在ですから、辺り構わず高周波のエンジンを響かせて走り回る必要はありません。いや、むしろそうした演出は「ウルス」にとって不要なのかもしれません。

しかし、秘めた実力を発揮するときは来ます。スペックを確認すれば4リッターのV型8気筒ツインターボエンジンは650馬力を発生し、0~100km/hの加速は3.6秒、最高速305km/hとなっています。これはまさしくスーパースポーツのスペックであり、2,360kgもあるボディを軽々と走らせます。

ひとたび高速に乗り込み、合流でアクセルを踏み込むと、背中がシートバックにググッと押しつけられ、それはそれは凄まじい速さを披露してくれます。それほどの速さを持っていながらも、乗り心地は実にしっとりとして快適そのものです。

オプションでは2人掛けのリアシートもあるが、これは標準の3人掛けで、その居住性と使い勝手はごく普通の高級サルーンのように快適

燃費も案外悪くない

これならばごくごく日常的な市街地走行をこなしながら、高級SUVを涼しい顔して乗りこなす女性たちのショッピングの足としても使えますし、不快感はまったくありません。冷静さを取り戻し、ゆっくりと流していると荒々しさはほとんど顔を見せません。それに静かな運転をしていると燃費10.0km/リットルに迫る勢いで走ってくれます。まぁ、このクルマのオーナーはあまり気にしないでしょうが、燃費の良さも十分に確認できます。

モニター画面もオプションで装備できる
エアコンの操作もパネルで行う。指紋がけっこう目立つ

しかし冷静に考えればランボルギーニの「ウルス」はそれでいいのかもしれません。あくまでもセレブリティ向けのファッションアイテムのひとつとしてのSUVであって、ごく一部の車好きや走り屋さん達のためのスポーツカーという位置づけはどうやら「ウルス」には似合わないようです。

多くの人がどんな走り方を望んでもキッチリとハイレベルで応えてくれるようにしっかりと調教され、ちゃんと飼い慣らす事が出来る存在となっています。残念ながら、これほど多くの要求に軽自動車、いや普通のクルマは当然応えることはできません。これが2,800万円という価格の秘密なのだと納得しようとしたのですが、やはり私のような庶民にとって、クルマに支払うレベルをとうに超えてしまっています。

年間の保険料は60万円以上

それと同時にある現実を受け入れることになります。私たちはこうした高額車に乗るとき短期の任意保険に加入することがありますが、この「ウルス」を数日、走らせるだけで5万円ほどの保険料がかかります。

何かあれば一大事ですから、安いといえば安いのですが、一年間の保険料は60万円以上と言われます。もはやコンパクトカーの購入ローン代よりも高額かもしれません。消費税でクルマが1台、保険料でもう1台、そして静かに走れば燃費がいいとか喜んでいる場合ではありませんし、第一、そんなことを気にする人は生涯「ウルス」を所有することはないと思います。仕事を終え、メーカーに「ウルス」を無事に返却できたときのあの安堵感は、スーパーSUVを試せた幸福感を凌いでいたのです。

© 株式会社マネーフォワード