主力打者の左右投手別相性、オリ吉田正は右投手相手に驚異的成績 パ6球団の数字を分析(後編)

(左から)ロッテのブランドン・レアード、オリックス・吉田正尚、ソフトバンクのジュリスベル・グラシアル【写真:荒川祐史、藤浦一都】】

故障者続出で右打者偏重のソフトバンク、左投手を打ち込む

 左投手に強い打者、右投手に強い打者、そして左右どちらの投手に対してもほぼ変わらない成績を残す打者。投手の左右によってどれだけの変化が生じるかは、打者一人一人によってさまざまだ。セオリーでは右打者は左投手に、左打者は右投手に強いとされるが、投手、野手ともに、その一般論に当てはまらない選手は数多く存在する。

 たとえ同一の打者であっても、シーズンによって左右投手別の相性が真逆の傾向を示す例も珍しくない。そして、選手たちが残した成績が束になって示されるチーム全体の成績にも、同様に明白な傾向が表れることもまた多いものだ。

 前回は日本ハム、楽天、西武のデータを紹介した。後編の今回はロッテ、オリックス、ソフトバンク3球団の左右投手別打撃成績と、各球団の主力打者たちの左右投手別対戦成績を紹介。そのチームが全体として左腕と右腕のどちらを得意としているのか、そして、その傾向はどんな理由で生じているのか。数字をもとに探っていきたい。(記録は全て8月29日時点)

○ロッテ
対左投手:895打数 223安打 30本塁打 121打点 打率.249 出塁率.336 OPS.748
対右投手:3157打数 786安打 112本塁打 398打点 打率.249 出塁率.327 OPS.733
合計:4052打数 1009安打 142本塁打 519打点 打率.249 出塁率.329 OPS.737

 ホームランラグーン設置の影響もあって、本塁打が2018年の78本から大幅に増加。西武と同様に、対左右別の成績にほとんど差がついていないところも特徴だろうか。主力打者の左右別成績は以下の通りだ。

荻野貴司外野手(右打者)
対左投手:105打数 31安打 1本塁打  8打点 打率.295 出塁率.364 OPS.831
対右投手:351打数 111安打 9本塁打 36打点 打率.316 出塁率.372 OPS.851

レアード内野手(右打者)
対左投手:76打数 27安打 5本塁打 23打点 打率.355 出塁率.457 OPS.1,075
対右投手:355打数 81安打 26本塁打 59打点 打率.228 出塁率.313 OPS.792

井上晴哉内野手(右打者)
対左投手:70打数 19安打 8本塁打 17打点 打率.271 出塁率.420 OPS.1,063
対右投手:280打数 68安打 15本塁打 42打点 打率.243 出塁率.350 OPS.793

中村奨吾内野手(右打者)
対左投手:93打数 23安打 5本塁打 10打点 打率.247 出塁率.327 OPS.779
対右投手:338打数 76安打 10本塁打 42打点 打率.225 出塁率.318 OPS.673

鈴木大地内野手(左打者)
対左投手:106打数 36安打 2本塁打 17打点 打率.340 出塁率.432 OPS.960
対右投手:338打数 98安打 13本塁打 45打点 打率.290 出塁率.362 OPS.838

角中勝也外野手(左打者)
対左投手:57打数 10安打 0本塁打 4打点 打率.175 出塁率.299 OPS.492
対右投手:247打数 66安打 7本塁打 35打点 打率.267 出塁率.360 OPS.773

 遊撃のレギュラーだった左打ちの藤岡裕大内野手の2度にわたる故障もあって、田村龍弘捕手や清田育宏外野手も含めた主力の多くが右打者という布陣に。井上とレアードの主砲2人が左投手に対してOPS1,000超えの素晴らしい成績を収めており、一見すると左腕に対してより相性の良い打線に見える。しかし、個別の成績を見ていくと、チーム全体で左右別の成績にほぼ差が出なかった理由の一端が見えてくる。

 今季の角中は打率.250と波に乗り切れていないが、打率.175と左腕を大の苦手としているのもその理由の一つか。かつては左投手を苦にしなかったが、2016年から4年連続で対右が対左を大きく上回っている。また、田村(対左打率.083、対右打率.273)は右打者ながら角中以上に極端に左投手の成績が低くなっている。

 途中加入のマーティン外野手(対左打率.138、対右打率.286)はここまで日本の左投手に苦戦しているが、右腕に対してはOPS.991と見事な活躍。右打者が多い打線にあって、左打ちの助っ人は効果的な働きを見せている。先述の藤岡(対左打率.154、対右打率.272)も右投手を得意にしており、彼らの存在がチーム全体の左右別成績のバランスを保っているという見方もできそうだ。

 対照的に、左打者ながら左腕を苦にしない鈴木をはじめ、清田(対左打率.277、対右打率.252)、岡大海外野手(対左打率.265、対右打率.218)といった右打者が左腕を得意にしている。また、両打ちの加藤翔平外野手(対左打率.412、対右打率.183)、吉田裕太捕手(対左打率.444、対右打率.103)は打数こそ少ないながら対左の打率が.400を超えている。

オリックスは吉田正が対右打者で傑出した成績

○オリックス
対左投手: 958打数 242安打 18本塁打 103打点 打率.253 出塁率.309 OPS.664
対右投手:2964打数 717安打 64本塁打 324打点 打率.242 出塁率.313 OPS.672
合計:3922打数 959安打 82本塁打 427打点 打率.245 出塁率.312 OPS.670

 打率、得点、本塁打がリーグ最少と、なかなか状態が上がってこなかった今季の打線。左右別の成績に目を向けると、打率では対左の方が対右をやや上回っているが、OPSでは逆の結果が出ている。主力打者の左右別成績は以下の通り。

ロメロ外野手(右打者)
対左投手:62打数 24安打 5本塁打 18打点 打率.387 出塁率.394 OPS.1,104
対右投手:176打数 49安打 11本塁打 34打点 打率.278 出塁率.353 OPS.853

大城滉二内野手(右打者)
対左投手:80打数 13安打 1本塁打 5打点 打率.163 出塁率.212 OPS.450
対右投手:222打数 66安打 2本塁打 23打点 打率.297 出塁率.369 OPS.779

中川圭太内野手(右打者)
対左投手:83打数 26安打 0本塁打 8打点 打率.313 出塁率.337 OPS.698
対右投手:208打数 59安打 1本塁打 18打点 打率.284 出塁率.329 OPS.709

吉田正尚外野手(左打者)
対左投手:120打数 31安打 4本塁打 18打点 打率.258 出塁率.333 OPS.733
対右投手:306打数 108安打 18本塁打 52打点 打率.353 出塁率.452 OPS.1,053

福田周平内野手(左打者)
対左投手:108打数 43安打 0本塁打 13打点 打率.398 出塁率.463 OPS.954
対右投手:303打数 63安打 1本塁打 17打点 打率.208 出塁率.315 OPS.569

モヤ内野手(両打ち)
対左投手:37打数 10安打 1本塁打 9打点 打率.270 出塁率.289 OPS.640
対右投手:124打数 33安打 7本塁打 19打点 打率.266 出塁率.305 OPS.781

 ロメロ、大城、安達了一内野手といった主力の戦線離脱、T-岡田外野手の深刻な不振など多くの誤算が重なり、今季は状況に応じて様々な選手を起用しながら戦うことを余儀なくされた。現在、規定打席に到達しているのは吉田正と福田の2人だけ。300打席を超えているのも大城と中川を加えた4人のみで、首脳陣がやりくりを強いられてきたことが分かる。

 今やチームの大黒柱となった吉田正は、右投手に対して驚異的な相性の良さを示している。大城も右打者ながら右投手の成績が左を大きく上回っている。一方、ロメロは左腕に対して吉田正の対右以上に圧倒的な成績を残しており、福田も.400近い高打率を記録。また、中川も対左打率.313を残している。モヤは左投手に対しては打率、右投手には長打力という異なる特徴が出ている。

 対左よりも対右のほうが良い数字を残している選手としては、後藤駿太選手(対左打率.200、対右打率.228)、小島脩平選手(対左打率.150、対右打率.229)、小田裕也選手(対左打率.000、対右打率.239)、西浦颯大選手(対左打率.195、対右打率.211)といった面々が挙げられる。とはいえ、いずれも打率.200台前半にとどまっており、あくまで相対的に得意という範囲にとどまっている印象だ。

 逆に左投手を得意としているのは西野真弘内野手(対左打率.318、対右打率.237)、安達(対左打率.275、対右打率.258)、佐野皓大外野手(対左打率.269、対右打率.189)、若月健矢捕手(対左打率.208、対右打率.186)らだ。先述の右投手が得意な面々と比較すると高打率を残している選手が多く、チーム全体の左右別成績の差もここに起因している。

ソフトバンクの右打者は左投手に対して強い打者が多い

○ソフトバンク
対左投手: 944打数  259安打  39本塁打 135打点 打率.274 出塁率.331 OPS.767
対右投手:3055打数  749安打 117本塁打 347打点 打率.245 出塁率.308 OPS.715
合計:3999打数 1008安打 156本塁打 482打点 打率.252 出塁率.313 OPS.727

 主力打者に故障者が続出する状況が続きながら、リーグトップの本塁打を記録しているあたりに底力がうかがえる。左右別の成績では、対左の成績が対右を大きく上回っているのが特徴だろう。主力打者の左右別成績は以下の通り。

甲斐拓也捕手(右打者)
対左投手:91打数 20安打 2本塁打 6打点 打率.220 出塁率.290 OPS.620
対右投手:243打数 67安打 9本塁打 34打点 打率.276 出塁率.363 OPS.791

内川聖一内野手(右打者)
対左投手:88打数 30安打 4本塁打 14打点 打率.341 出塁率.363 OPS.874
対右投手:331打数 79安打 7本塁打 24打点 打率.239 出塁率.288 OPS.635

グラシアル外野手(右打者)
対左投手:66打数 25安打 9本塁打 21打点 打率.379 出塁率.423 OPS.1,256
対右投手:226打数 68安打 13本塁打 32打点 打率.301 出塁率.351 OPS.878

松田宣浩内野手(右打者)
対左投手:87打数 31安打 5本塁打 20打点 打率.356 出塁率.370 OPS.979
対右投手:367打数 90安打 19本塁打 43打点 打率.245 出塁率.298 OPS.739

デスパイネ外野手(右打者)
対左投手:68打数 25安打 5本塁打 14打点 打率.368 出塁率.463 OPS.1,066
対右投手:304打数 76安打 25本塁打 61打点 打率.250 出塁率.348 OPS.871

今宮健太内野手(右打者)
対左投手:82打数 19安打 3本塁打 10打点 打率.232 出塁率.284 OPS.638
対右投手:232打数 61安打 10本塁打 26打点 打率.263 出塁率.321 OPS.756

 2018年に外野のレギュラーだった柳田悠岐外野手、上林誠知外野手、中村晃外野手という左打者3人がそろって離脱を強いられたこともあり、今回取り上げた主力打者6人は全て右打者。実際、内川、グラシアル、松田、デスパイネの4人は対左投手のほうがより優れた成績を残しており、この点がチーム全体の相性にもつながっている可能性は低くなさそうだ。

 今季の内川は打率.260、OPS.685と苦しんでいるが、左投手に対しては打率.341、OPS.874と成績を残している。デスパイネと松田も左腕相手にそれぞれ5本塁打を放ち、打率、OPSともに高水準という素晴らしい成績を残しているが、9本塁打、打率.379、OPS.1,256という圧巻の数字を残しているグラシアル選手の対左の強さは、まさに驚異的だ。

 やや打数が少ない選手の中にも、川島慶三内野手(対左打率.400、対右打率.214)、上林(対左打率.222、対右打率.189)、明石健志内野手(対左打率.268、対右打率.234)、中村(対左打率.412、対右打率.200)、高田知季内野手(対左打率.273、対右打率.140)と、左投手を得意としている選手が多い。川島以外の4人は左打者にもかかわらず、左腕相手のほうが好相性となっている。

 一方、甲斐と今宮は右打者ながら、右投手を打っている。打数が少ない中では牧原大成内野手(対左打率.189、対右打率.251)、釜元豪外野手(対左打率.175、対右打率.233)、福田秀平外野手(対左打率.143、対右打率.296)と、こちらはセオリー通りに左打者3人が右投手に対して強さを見せている。

主力打者の左右別成績はチームの左右別相性がリンク

 前回と同じように、今回の記事においても、主力打者の左右別成績とチーム全体の左右別相性がある程度リンクしているといえる結果が表れた。しかし、ロッテとソフトバンクはともにチーム事情によってラインアップに右打者が多くなっているが、チーム全体の相性としては異なる傾向が出ている。

 ロッテはレアード、井上、中村といった右打者3人と、左打ちの鈴木が左投手を得意としていた。しかし、荻野と角中に加え、田村、マーティン、藤岡といったレギュラークラスが右投手と好相性だったことで、チーム全体としての左右別相性のバランスは取れていた。

 ソフトバンクは内川、グラシアル、松田、デスパイネの4人が左腕を相手に素晴らしい成績を残しており、打数の少ない選手の中にも左投手と相性の良い選手が多かった。一方、甲斐、今宮、福田らは右投手に対して活躍を見せたが、チーム全体のバランスとしては左腕相手の成績が上回る結果となった。

 オリックスもソフトバンクと同様に左腕を得意としているが、こちらは主力打者の左右別成績にそれほど大きな差はない。しかし、打数の少ない打者の中に左投手に対して好成績を残している選手が多く、右投手が得意な選手の成績は伸び悩んでいた。前回の日本ハムと楽天のケースと同じく、相性の傾向が同じでもその理由は異なるという例が再び見られたといえよう。

 選手の顔ぶれが変われば、チームの左右別相性も同じように変化していくもの。しかし、その年ごとに「なぜ、そうなったのか」を数字に基づいて考えてみると、チームや個々の選手が持つ強みや課題も見えてくる。相手投手の左右のみを判断材料とした、ある意味単純なデータではあるが、そういった数字を頭に入れて試合を見てみるのも面白いのではないだろうか。(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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