高知蔦屋書店上映会決定、「人生フルーツ」監督・伏原健之独占インタビュー!

「1万人で大成功」と言われるドキュメンタリー映画の世界において、 2017年1月に封切した「人生フルーツ」は、 26万人以上を動員し(19年8月時点)、 “異例の大ヒット”を記録。さらに、 第91回キネマ旬報ベスト・テン文化映画第1位、 平成29年度文化庁映画賞文化記録映画優秀賞、 ぴあ映画初日満足度1位など、 数々の賞も受賞。

ただし、この「人生フルーツ」は、 上映会または劇場でしか観ることができません。 なぜなら、 DVD化もされていなければ、 ネット配信も一切されていないからだ。

そして、 9月6、 7日の2日間、 高知蔦屋書店で、 いよいよ「人生フルーツ」の上映が決定。監督である伏原健之の独占インタビューが公開された。

高知蔦屋書店上映会決定記念 伏原健之独占インタビュー

――「人生フルーツ」のナレーターは2018年に亡くなられた樹木希林さんです。 ナレーションが作品の1つのポイントになっていますが、 監督はなぜ希林さんを起用したのでしょうか?

伏原:僕は以前から東海テレビのドキュメンタリー「神宮希林 わたしの神様」などで希林さんと仕事をさせてもらっていました。 「人生フルーツ」のナレーションは説明や情報をたくさん入れるのではなく、 「呪文」や「おまじない」のような詩を少し入れる構成にしたこともあり、 ナレーションの量が少なくても効き目があって、 番組の骨をつくり、 津端夫妻の人生を表現できるのは誰か? と考えたときに、 「希林さんしかいない」と思ったんです。

――希林さんはこの映画を観てどのような感想をもたれていましたか?

伏原:まず希林さんのナレーションの方法を言うと、 通常、 ナレーションの録音は事前に映像と原稿を渡して下準備をしてくる方が多いのですが、 希林さんは事前に映像も原稿も一切見ませんし、 リハーサルもせずに、 初見で本番のナレーションを入れていくんですね。それで撮り終わった後に感想をいただくのですが、 これが毎回緊張します。 「人生フルーツ」のときは「伏原さん、 誰もがこういう夫婦になれるわけじゃないからね」でした。 僕はまだ独身で、 いつも希林さんから「早くお嫁さんをもらいなさい」と叱られていたこともあっての感想だったと思います(笑)。あとは、 作品終盤の妻・英子さんのあるシーンを見て、 「これは女優にはできないわ」とおっしゃっていました。 もちろんこの映画はドキュメンタリーなので、 英子さんは演技しているわけではありませんが、 僕自身も監督でありながらこの映画を客観的に見て「脚本家が書いたような綺麗なシーンだ」と思っていたので、 その言葉も印象に残っています。

――伏原監督は映画を撮る前に「かっこいいおじいさん、 おばあさんを撮影したい」と候補を探していたそうですが、 なぜ津端夫妻に決めたのでしょうか?

伏原:そもそものきっかけは名古屋の地元紙で津端夫妻の記事を読んで「この人達と知り合いたい、 自分もこういう風になれたらいいな」と思ったことでした。 それから撮影依頼をしたのですが、 最初はけんもほろろに断られまして……。僕はテレビ屋なので取材を断られるのは日常茶飯事で、 それでもどんどん撮らないといけないので諦めて次を探すのがいつものスタイルですが、 今回はなぜか諦めきれずに、 その後に4通ほど手紙を出して依頼を続けて、 ようやく承諾をいただきました。今思えば「恋愛」のようなものでしたね。 一目惚れをして、 告白して、 フラれて、 それでも諦めきれずに手紙を何度も出して。 ストーカーみたいですけど、 「この人じゃないとダメだ」と思ったんです。 それが「なぜか?」と言われると説明するのが難しく、 直観的なものなんですが、 津端夫妻には“伝えなければならない大切な何か”があるんじゃないかと思ったんです。

――撮影は2年間続けて、 400時間のテープを回したそうですね。 それが映画では91分と撮影素材の1%弱にまとめられていますが、 編集するうえで意識したポイントは?

伏原:僕は撮影中ずっと「ドキュメンタリーだけど、 ジブリのようなファンタジーをつくりたい」と考えていました。 だから編集では、 お二人の人間ドラマをきちっと描きながら、 その世界観を出したいと思っていたんです。撮影にはそのイメージをもって臨みましたが、 お二人の人間像は編集しながら見えてきた部分がたくさんあったというのが本音です。 津端夫妻は「こういう人です」と言い切れないところがあり、 そこにまた魅力があります。 だから編集の仕方で作品が大きく変わり、 修一さんの偉人物語、 英子さんの料理特集、 修一さんの建築の実績集になったりして、 それではお二人の人間ドラマを描き切れてないと思い、 何度も編集をやり直しています。普通の映画は、 最初に人物設定をして、 脚本を書き、 撮影・編集をしますが、 この映画はその逆で、 撮影をしてから人物設定が明確になっていきました。

――「スローライフの映画」という文脈で語られることも多い「人生フルーツ」ですが、 監督もやはりそこは意識したのでしょうか?

伏原:僕自身はスローライフに憧れはありますが、 自分とはかけ離れていて、 縁がないライフスタイルだと思っていました。 ただ、 その一方で、 撮影を進めていくと、 修一さんの建築家としての紆余曲折や、 英子さんの女性としての生き方や考え方など、 スローライフだけでは言い表せない、 さまざまな面がお二人にあることに気付きました。だから「人生フルーツ」では、 「いろいろな経験があって今の津端夫妻をつくっている」というところもしっかり描きたいと思ったんです。 そのうえで、 何か大切なものが心の中に入ってくるようなイメージで映画をつくりました。ジブリの宮崎駿監督は2013年の引退会見で「この世は生きるに値する」と言いました。 僕は報道の仕事もしていて、 現実は厳しくて大変なこともたくさんあると感じますが、 津端夫妻のように誠実に生きると良い人生がある、 ということを知るだけでも明日の希望になるんじゃないかと思っています。

――「人生フルーツ」は動員数26万人以上と、 ドキュメンタリー映画シーンでは異例の大ヒットを記録しています。 その要因はどのように分析していますか?

伏原:この映画はつくり手の僕らが思っている以上に作品が大きく膨らんだという印象です。 観る人によってさまざまな解釈をされていて、 僕も改めて「作品をつくるってこういうことなんだ」と実感しました。「人生フルーツ」は余白を意識して入れています。 僕が2年間の撮影期間で津端夫妻のことを全て理解したかと言えばそうではありません。 だからと言って、 謎の部分を無理やり自分の解釈をつけてナレーションを入れるのではなく、 余白にしておいて、 「みなさんがそのままに感じてください」というつくりにしているんです。 この余白の部分で、 さまざまな解釈をしていただいて、 多くの人に観ていただいているのかなと思います。

――最後に、 「人生フルーツは」DVD化やネット配信が一切されていません。 今回のような“上映会”で映画を観ることのメリットは何だと思いますか?

伏原:「人生フルーツ」は観る人によって本当にいろいろな解釈がある映画なので、 たくさんの人が集まる上映会で一緒に観て、 上映会後はそれぞれの感想を語りあってもらえるとうれしいですね。今はスマホで簡単に映像が見られる時代で、 映画をみんなで一緒に観る機会はどんどん減っていますが、 僕は「映画を通じて人が繋がる感覚」がとても好きです。 じつは希林さんも舞台挨拶や海外の上映会には積極的に参加されていて、 いろいろな方と話をするのを楽しみにされていました。 僕も高知蔦屋書店の上映会の様子を後日聞くことを楽しみにしています。

――ありがとうございました!!

(取材・文 廣田喜昭)

© 有限会社ルーフトップ