打ちまくった西武森、孤軍奮闘のハム有原 セイバー目線で選出、8月の月間MVP【パ編】

西武・森友哉【写真:荒川祐史】

森は文句なし あらゆる指標で突出した数字をマーク

 9月1日終了時点で1位から6位までのゲーム差が9.5。近年まれにみる混戦状態となっているパ・リーグの8月順位表は以下の通りです(OPS=出塁率+長打率)。

西武 17勝10敗 打率.299 OPS.882 本塁打47 援護率7.55 先発防御率6.34 QS率33.3% 救援防御率4.42

オリックス 14勝9敗 打率.289 OPS.771 本塁打18 援護率5.11 先発防御率4.77 QS率34.8% 救援防御率3.35

ソフトバンク 12勝11敗 打率.270 OPS.750 本塁打27 援護率4.12 先発防御率4.60 QS率30.4% 救援防御率4.00

楽天 13勝12敗 打率.262 OPS.738 本塁打25 援護率4.93 先発防御率4.64 QS率40.7% 救援防御率2.41

ロッテ 14勝13敗 打率.262 OPS.734 本塁打26 援護率4.58 先発防御率2.72 QS率50.0% 救援防御率4.79

日本ハム 5勝20敗 打率.235 OPS.650 本塁打17 援護率3.11 先発防御率4.82 QS率19.2% 救援防御率3.83

 8月だけのデータで振り返ると、極端な数値のオンパレードとなっています。8月の首位は西武ですが、1試合平均得点6.37、平均失点6という大味な展開でした。月間得点は172、失点が162。どちらも160を超えるのはプロ野球史上初めてのことです。

 月間打率.299、本塁打47と山賊打線が猛威をふるう一方、先発防御率6.34と序盤の失点も多く、両チーム合わせて10点以上の試合が27試合中17試合もありました。オリックスに8-20で大敗(15日)しながらも、次の試合でソフトバンクに13-8でに大勝(17日)するという展開は印象的でした。そんな中、7つの貯金をつくって首位ソフトバンクに肉薄しています。

 西武の陰に隠れた形ですが、オリックスの月間チーム打率も.289とかなり高い水準でした。これまでは毎月援護率が防御率を下回っていたのですが、8月はようやく上回りました。8月は打高投低になりがちですが、ロッテの先発防護率と楽天の救援防御率が2点台と健闘しました。

 月間5勝に終わった日本ハムは、先発投手が6回以上投げて自責点3以内に抑えると記録されるクオリティスタート(QS)の割合が19.2%と低水準でした。堀瑞輝のオープナー起用の影響もあったのかもしれませんが、先発が5回未満で降板するケースが26試合中15試合もありました。さらに、援護率がリーグで唯一の3点台と打線も低迷しました。

森、中村、外崎と西武勢が月間OPS「1」超えを記録

 パ・リーグの月間MVPは9月11日に発表予定です。月間MVPの選出基準は原則NPBの公式記録が用いられます。ただ打点や勝利数といった公式記録はセイバーメトリクスでは、個人の能力を如実に反映する指標と扱わないので、個人の選手がどれだけチームに貢献したかを示す指標による評価は、公式のMVPとは異なることもあることでしょう。

 そこで、セイバーメトリクスの指標による8月の月間MVP選出を試みます。

 8月月間MVP パ・リーグ打者部門

○森友哉(西武) OPS1.183 wOBA0.496
RC27 11.60 長打率.736(すべてリーグ1位)

 8月は森だけではなく中村剛也、外崎修汰と西武勢が月間OPS「1」超えを記録しました。特に森は打率.377、40安打、10本塁打、打点30と主要な打撃指標すべてでリーグ1位を記録し、得点圏打率 .438と勝負強さも発揮しました。公式の月間MVP獲得はまず間違いないでしょう。
 
 セイバーメトリクスによる指標においてもOPSで1.183、各プレーの得点価値を累積して算出するwOBAで.496、選手の得点創出能力を測るRC27で11.60と、すべて月間1位になっています。

 捕手として24試合に先発出場するなど守備での貢献もさることながら、3番打者としての貢献も大きかった森友哉を8月の月間MVPに推挙します。

ロッテ種市が健闘も、低迷するチームで気を吐く有原に軍配

○8月月間MVP パ・リーグ投手部門
 
○有原航平(日本ハム)5試合 2勝3敗 FIP2.42 WHIP0.90 RSAA6.79 防御率2.36 QS率80% 奪三振32 奪三振率8.39

 8月のパ・リーグで月間規定投球回をクリアしたのはわずか4人。なお、8月に完投したのはロッテ二木康太(2日、対楽天=114球5失点)、ソフトバンク千賀滉大(2日、対日本ハム戦=135球完封)、オリックス竹安大知(17日、対ロッテ=115球完封)の3人のみでうち2人は完封でした。先発の平均投球回数が6回を下回っている状況では規定投球回数を超えるのはなかなか困難とみられます。

 月間最多勝が2勝のため、公式の月間MVPの選考は難航しそうですが、有力候補は以下の3人と考えられます。

種市篤暉(ロッテ)4試合 2勝1敗 防御率1.61 奪三振35 奪三振率11.25 被打率.186

有原航平(日本ハム)5試合 2勝3敗 防御率2.36 奪三振32 奪三振率8.39 被打率.195

増井浩俊(オリックス)10試合 8ホールド 防御率0.82 奪三振14 奪三振率11.45 被打率.195

 規定投球回数を超えている投手の中で最も月間MVPに近いるのは種市篤暉です。2勝と防御率1.61はリーグ1位で、2桁奪三振を2度記録しました。

 救援では増井が8ホールドをマークし、セットアッパーとしてオリックス投手陣を引っ張りました。

 セイバーメトリクスによる評価をみてみましょう。

有原航平 FIP2.42 WHIP0.90 QS率80% HQS率80% K/BB4.57 RSAA6.79

種市篤暉 FIP2.73 WHIP1.04 QS率100% HQS率75% K/BB3.18 RSAA4.59

増井浩俊 FIP2.03 WHIP0.91 K/BB7.00 RSAA2.66

 有原は被本塁打、与四死球、奪三振のみで投手を評価するFIP、7回以上投げて自責点2以内に抑えた割合を示すHQS率においてリーグ1位になりました。さらにRSAA(Runs Saved Above Average)という、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標(リーグ平均FIP-選手個人のFIP)×投球回数/9による評価で、有原はリーグ1位の成績を残しています。

 日本ハム投手陣でただ1人気を吐いて出色の成績を残した有原をパ・リーグの月間MVPに推します。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

© 株式会社Creative2