帰ってきた「臨時特急まほろば」〜奈良の雄・近鉄への挑戦〜

特急「まほろば」に使用される287系 画像:JR西日本

日本で初めて都が置かれ、長い文化と歴史をもつ古都・あをによし奈良。日本一古い木造建築・法隆寺や東大寺大仏など、様々な観光スポット目白押しであり、外国人観光客や修学旅行生で賑わう。それにもかかわらず、唯一JRの新幹線・特急運行(JRの無い沖縄県を除く)が無く、全国で最もホテル・旅館の客室数が少ない都道府県でもあるのだ(※1)。そんな奈良に今年11月〜12月上旬にかけて土休日(計13日間)の臨時特急「まほろば」が運行されることが発表された。

速く・新しくなってカムバック

2010年に運行された特急「まほろば」 写真:Pixta

そもそも「まほろば」の運行は今回が初めてではない。平城遷都1300年目にあたる2010年、奈良県でのイベント集客向けに臨時特急「まほろば」が設定され、4~6月の土休日に1日1往復運行されていた。当時は国鉄381系の運用だったが、今回は「こうのとり」「くろしお」と同じ287系の運用が予定されている。そして⾞両以外での当時との違いは、新⼤阪〜奈良間は ノンストップで運⾏されることが挙げられる。またおおさか東線経由での運転も予想されるが、そのお陰で2010年と比較して5−6分程度ではあるが乗車時間も短縮され、より便利になったと言える。

※上り:新大阪10:03発→奈良10:53着・下り:奈良16:56発→新大阪17:47着(2010年は上り新大阪10:32発~奈良11:27着、下り16:34発~新大阪17:31着)

JR西日本の挑戦やいかに

先述の通り、日本屈指の観光地で見所が多くあるにもかかわらず、JR特急が運行されていなかったり全国で最も宿泊客室数が少ない現状がある。その背景としては、奈良県の景観条例制度により建造物の高さが規制されていることや、観光地である大阪・京都から日帰り出来てしまう立地であることも考えられる。

そんな中、JR西日本は2018年8月に奈良公園近くの「奈良ホテル」を完全子会社化したと発表した。同ホテルは「西の迎賓館」とも呼ばれるほど歴史的で由緒があり、今回JR西がそのようなホテル獲得をしかけた事を見るに、今もなお増加し続けるインバウンド需要取り込みに向け積極的に動いていることが伺える。

JR西日本が子会社化した奈良ホテル 画像:Pixta

更に同年9月に同社は南都銀行と地方創生に関する連携協定を結び、奈良の観光振興に取り組むことも発表している。

このようなJR西の奈良に対する力の入れ具合が見受けられる中で、今回の「特急まほろば」の臨時運行はJR西日本の奈良への挑戦において、試金石的な役割を担うものであるとも言えるだろう。将来的に定期運行を目指しているとのことなので、今秋からのスタートに大きな期待がかかる。

奈良の雄・近鉄の存在感

では何故今まで奈良がJR特急が運行されていない不毛地帯であったか?その理由は他でもない近鉄の存在だろう。奈良県内ではJR社の3倍近くの駅数を誇り、京阪神のみならず愛知・三重県への直通優等列車が縦横無尽に行き交う県下において、観光のみならず通勤・通学の面でも長年近鉄が圧倒的な存在感を放ち続けている。

画像:Pixta

県庁所在地駅を乗車人員数(2016年)で比較してみても、JR奈良駅は約18,000人に対し、近鉄奈良駅は33,000人を超える数字となり優位な状況である。そもそもJR奈良駅と近鉄奈良駅は1km以上離れており、地元住民たちは「ジェイなら」「きんなら」と呼び名を変えて区別するほど別物の扱いなのだ。また商業地等の中心は近鉄側に集まっていることも近鉄奈良駅が有利である大きな要因でもある。

加えて、南海空港特急ラピートとの結節点・難波からの利便性と東海道新幹線・京都からのアクセスは利用客にとっても好都合であろう。京都〜JR奈良間のみやこ路快速毎時2本に対し、京都〜近鉄奈良は特急・急行毎時最大5本、乗車時間で比べても近鉄京奈特急に軍配が上がる。

「挑戦者」のJRにも対抗策はある

ただ、JR西にも勝ち目がないわけではない。新幹線ユーザーにとっては「新大阪から直通特急」で奈良へアクセスはJR西のみが為せる技である。実際、臨時特急「まほろば」は上り・下りともに新大阪にて山陽新幹線「のぞみ」「さくら」との接続が図られる予定であり、新大阪以西からの観光客を取り込む狙いだ。

そして、訪日外国人にとって最強のお得きっぷと言われる「ジャパンレールパス」を使えば、新幹線から特急「まほろば」に乗車できるので、このきっぷを利用する外国人にとって、奈良へのアクセスは格段に経済的になる。打倒・近鉄に向けて「まほろば」が一矢報いることが出来るか、大きな見所でもある。

増え続ける外国人観光客 画像:Pixta

終わりに

「JR西日本グループ中期経営計画2022」において奈良線の京都~城陽間の完全複線化が記されており、これが実現すればゆくゆくはJRにおいても京都〜奈良間のボトルネック解消にともなう特急・優等列車の運行も期待できる。また、奈良市はリニア中央新幹線の新駅候補地であることもあり、こちらも実現すれば大きく盛り上がること間違いなしだ。

この特急の冠する「まほろば」は大和言葉で「素晴らしい場所」の意味だそう。これから始まる秋の行楽シーズン、この特急まほろばに乗って古都を旅するのはいかがだろうか。

記事:西上逸揮

※1……参考『平成29年度衛生行政報告例』

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