韓国戦で宮城はライトからスーパー返球、その時父は…
韓国・機張(きじゃん)で行われていた「第29回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」(全試合テレビ朝日系列・BS朝日・AbemaTVで放送)。興南の宮城大弥投手は投手に外野手に奮闘した。その姿を興南の帽子に父母会のシャツを着て、宮城の父・亨さんは全試合を観戦し、日本の、そして日の丸を背負った愛息を声をあげて応援した。帽子のツバには大きな文字で「強気」と記されていた。
球場を見渡すとすぐにその存在はわかる。興南高校の応援スタイルで選手たちに声を送る。選手の父母たちにも明るい表情で挨拶し、観客席にも活気をもたらしていた。
「息子がワールドカップに出るもんだから、12連休を取りました。U-15にも選ばれましたが、すごいと思います。本人の努力。成長を感じています」
夏の沖縄大会の決勝後、宮城は野球部の寮を退寮。大会が始まるまでの約1か月、久しぶりにゆっくりと息子と過ごした。
「休養も十分にできて、いいリフレッシュになったと思います。ずっと投げてきていたので肩を休ませることもできた。(W杯の試合では)球も走っていましたと思いますね」
米国、台湾、韓国といった大事な試合でマウンドを任された。先発あり、救援あり、そして野手としても4試合にスタメン出場。スペイン戦には代打でも出た。フル回転だった。打率.375。防御率1.04とチームを支えた。
父はそんな息子が誇りだった。かぶってきた帽子は宮城がこの3年間、試合で使っていた帽子だった。
「強気」と書かれた帽子は宮城が試合で使っていたもの。「みんなの思いが詰まっている」
「息子に黙って、勝手に持ってきました。めちゃくちゃ汗臭いんで、洗いましたよ」
笑いながら、言った。真意を聞くとこう答えた。
「3年使っているこの帽子にはね、興南のみんなの思いが詰まっていると思うんです。だから、みんなの思いも背負おうと思ってね。彼らの思いも一緒に(韓国に来て)応援しているんです。汗かいた分の思いです」
宮城がプロのスカウトも注目する投手に成長した背景にはナインや周りの人々のおかげでもあると父は言う。シャツも同様に、興南の父母会の人たちの思いを持って応援したいからと着用していた。
そんな宮城は、スーパーラウンドの韓国戦の5回2死一、二塁のピンチで、ライトの守備から本塁へ矢のような送球で走者を刺した。相手の得点を阻止。ホームインを期待した韓国国民で埋まった球場は1度大きく沸いたが、大きなため息に包まれた。
「あのプレーね……。見逃しちゃったのよ……私。トイレに行ってて。その帰りに報道の方の取材を受けていたら歓声が起きて。まだ映像も見ていないんです」
苦笑いを浮かべていた亨さん。でも、侍ジャパンのユニホーム姿を見られるだけで感慨深いものはある。
「U-15に選ばれた時のユニホームも飾ってあるんです。宝物です。ウチの子は今回、U-18にも選ばれたので、また飾りたいと思います」
宮城にとっての高校生活最後の大会、試合が異国の地で幕を閉じた。父はその雄姿をじっと見つめていた。宮城はこの後もプロになり、大きく羽ばたいていくだろう。ユニホームに限らず、父の宝物はこれからもずっと増えていくだろう。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)