見定めがたい空の下で

 口を突いて出たのだろう。きのう通りを歩いていると、後ろから「あっつい!」と女性の声がした。いきなり厳しい残暑がやってきて、ここ何日か続いている。かたや首都圏はきのう台風に直撃された▲思えば数日前まで、県内では雨の日が続いたというのに、天はどうも穏やかでない。同じようにお感じなのだろう。〈天候不規則な今年の秋です〉と読者のお一人から便りを頂いた▲文はこう続く。〈でもヒガンバナはちゃんと花芽を出しはじめましたし、秋の虫も鳴いています。彼らは日照時間を基準にしています〉。天候や気温がどうあれ、花芽の時期や虫の鳴く頃合いは、ずれないのだという▲同じような話を、植物学者の田中修さんが書いた「植物は命がけ」(中公文庫)の中に見つけた。〈植物たちは、季節の訪れを、昼と夜の長さで知るのです〉とある▲植物の姿のままでは耐えられない寒さ、暑さをしのぐため、植物はある決まった時期に種子を作る。太陽が照らす明るい時と、照らさない暗い時を識別することで、その時々の天候や気温に左右されずに、季節を正しく知る。そういうことらしい▲便りはこう結ばれる。季節を見定める植物や虫たちに〈敬服、敬服…〉。天の様子が見定めがたく、戸惑いがちな昨今、花や虫の不変のさまに余計に感じ入る。(徹)

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