捜査尽くし子どもの権利守る

「乳幼児揺さぶり」論争、担当検事に聞く

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大阪地検刑事部の小松武士副部長

 無罪判決が続き、弁護士や研究者から信頼性に疑問の声が上がる児童虐待の「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)」理論。一方、全国各地で児童虐待が深刻化していることも放置できない事実だ。捜査当局はこの現状をどう考えているのか。虐待事件を担当する大阪地検刑事部の小松武士副部長(48)がインタビューに応じた。検察がこの問題で公式取材に応じるのは初めてとみられる。(聞き手は共同通信大阪社会部=広山哲男、武田惇志)

 ▽立証の難しさ

 ―SBSも含めたAHT(虐待による頭部外傷)事件を巡っては、死因や負傷の原因が虐待ではなく、落下など事故の可能性がしばしば指摘されている。

 虐待と認められるか否かの判断は、単に(揺さぶりによって起きるとされる硬膜下血腫・眼底出血・脳浮腫の)3兆候が存在するといった画一的な視点から行うのではありません。

 たとえば被害に遭った子どもの月齢や年齢、基礎疾患の有無などを前提に、慢性的な硬膜下血腫や頭部の骨折が伴うような、以前から子どもの頭部になんらかの力が加えられていた状況があるかどうか確認します。

 その上で、死亡や重い後遺障害が残るなど重大な結果が起きた原因について、子どもに接していた容疑者の供述内容などの諸事情を踏まえて、総合考慮しています。

 家庭での軽微な事故や内因性の疾患などで起きうる可能性を否定でき、虐待と断定して間違いないか、また公判での立証に耐えうるかについて慎重に検討しています。

 ―AHT事件と他の虐待事件を比べて、捜査の考え方や手法に違いはあるか。

 AHT事件だけ特別なことをしているわけではありません。確かに医学鑑定は重要ですが、あくまで一つのファクターです。いずれの事件も収集された証拠を多角的、総合的に検討して起訴、不起訴の判断や公判での立証を行っています。

 虐待の多くは家庭内で発生するため、防犯カメラなどの客観的な証拠がなく、第三者の目撃者もいないことが多く、立証が難しい事案があります。

 特にAHT事件では被害児の身体の表面に目に見えるけがなどがない場合があります。また、被害児が死亡していたり、低年齢だったりすることが多く、被害側の供述が得られないことも多かったりします。

 ▽医学論争

 ―虐待事件の裁判では、けがの原因を医学的知見から特定したり、事故か虐待かを鑑別したりすることについて医学論争に発展するケースが増えている。

 法廷を医学論争の場にするべきではありませんし、そのようなことをするつもりもないです。AHT以外でも立証が難しい事件はありますし、それらの事件と同じように取り組んでいます。

 結果的に医学論争に持ち込まれる場合があることは否定しませんが、意図してやっているわけでもなく、こちらは証拠に基づいて立証するだけです。

 ―証拠に照らして虐待事件であることに疑いがなくても、不起訴にするケースはあるか。

 不起訴とされる事案の中には、「事件性」―子どもの負傷が大人による故意の暴行によって生じたものか否か―を証拠によって立証することが困難であると判断したものがあります。

 一方、医学的な証拠から事件性があると判断できたとしても、「犯人性」―それを行ったのが誰であるのか―を特定するに足りる証拠がなく、不起訴とせざるを得ないケースもあります。

 また、容疑者が傷害を負わせたことは証拠によって認められるものの単発的な犯行で、けがが比較的軽微だったり、容疑者が事実を認め反省していたりするケースでは、再犯の恐れが低いと判断して起訴猶予にすることもあります。子どもの養育に関して児童相談所の指導に従っているなどの事情も考慮されます。

 ▽再犯と対策

 ―逆に再犯の恐れがあったり、虐待が繰り返される可能性があるような場合、どのような対応をしているか。

 児童虐待の事案は家庭内で起こるので発覚しにくく、いったん発覚しても繰り返されることが多いのが特徴です。現実に再被害が起きたことが過去にもあり、そうしたケースでは再び摘発されています。

 検察としては子どもの権利を守り、痛ましい再被害を防ぐため、できる限りの捜査を尽くし、真相の解明と適切な処分によって適正な判決を得ることが、なによりも重要であると考えています。

 被害児の遺体や傷の写真、脳のCT画像などの客観証拠が「刺激証拠」とみなされ、裁判員への配慮から裁判所が証拠採用しないといった困難もありますが、専門的知見も踏まえてさまざまな工夫を重ね、事案の真相について裁判所の正確な理解を得るべく、最大限努力しています。

 ―検察内部でもAHT事件に関する勉強会が開かれていると聞く。

 大阪地検では、医師など外部講師に講義してもらったり、経験豊富な検察官が若手検察官にレクチャーしたりするなどの勉強会を随時、開催しています。また再被害や再犯を防止する観点から、事件を処分する際には適宜、児童相談所などの関係機関と情報共有をはかり、その後の養育支援に適切につなげるように取り組んでいます。

小松武士副部長

「乳幼児揺さぶり」 虐待か冤罪か 無罪、不起訴相次ぐ 見直しの声

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