自分の弱さ認め、手にした強さ…ノーノー達成した中日・大野雄大の覚悟と進化

中日・大野雄大【写真:荒川祐史】

史上81人目のノーヒットノーラン達成「今年投げている球はプロ人生の中でも一番」

■中日 3-0 阪神(14日・ナゴヤドーム)

 重い、重いエースの称号をずっと背負いきれずにいた左腕の姿は、歓喜のナゴヤドームのマウンドには微塵もなかった。得たのは、まばゆいばかりの勲章。14日の阪神戦で、中日・大野雄大投手が史上81人目となるノーヒットノーランを達成した。3年連続2桁勝利を経験しながら、昨季は未勝利で大きく揺らいだ立場。迎えたプロ9年目、足元を見つめ直した先に偉業が舞い込んだ。

 無邪気な少年のようにぴょんぴょんと飛び跳ねる様は、自他ともに認める「竜の宴会部長」らしい。積み重ねた27個のアウト。許した走者は、失策と四球による2人だけ。最終盤でも、代名詞の速球は150キロを計測。CS進出に向け瀬戸際の戦いを続けるチームを、大記録で加勢した。

 自身も驚いた偉業だが、今季ミットに投げ込まれる球を見ていれば、少しは予想できたかもしれない。夏前、ナゴヤ球場での練習後に大野はふと言った。「今年投げている球は、今までのプロ人生の中でも一番いいくらい」。直球は球速以上の威力で、投球を見た同僚投手たちからも「えっぐい」と感嘆の声が上がるほどだった。

 2013年から3年連続で2桁勝利し、周囲から「エース」と呼ばれた。そう自覚もしたつもりだった。だが、その3年で自らが作った貯金はわずかに3つ。絶対的な立場は築けず、続く16、17年はともに7勝止まり。そしてついに昨季は1軍登板わずか6試合。1試合しか登板しなかったルーキーイヤー以来の未勝利に終わった。

あらためて自分と向き合った今季「打たれても抑えても見るように」

 自らの不甲斐なさに、目をそらしていた。つい深酒してしまうこともあった。「負けて酒飲むなんて、カッコ悪いですよね……」。ふと外を見れば、巨人・坂本勇人や西武・秋山翔吾ら1988年世代が球界の中心にいる。「結果を残して、胸張って88年会に参加したいですねぇ」。三十路で迎えた今季。否が応でも、あらためて自分と向き合った。

「ホンマ、ダメなことやなって思うんですけど、今までは自分が打たれた試合ってあまり見てこなかったんです。見たくなかった。でも、今年から打たれても抑えても見るようにしました」

 マウンドで首をかしげる背番号22を客観視し、ひとつひとつ課題を整理していった。その時の試合展開や自らの心持ち、足りなかった技術……。情けない自らの姿が、苦境から抜け出すヒントでもあった。

 普段から底抜けに明るい京都出身の関西人は、誰にでも真摯に接する人格者。31歳の誕生日を約2週間後に控え、らしい笑顔が戻ってきた。9勝8敗となり、見えてきた4年ぶりの2桁勝利。無安打無得点という誇りを土台に、真のエースへと昇華していく。(小西亮 / Ryo Konishi)

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