県展始まる

 子どもの頃、新聞のチラシの裏に動物や宇宙人の落書きをよくしていた。粘土遊びも好きだった。しかし成長するにつれてやらなくなった▲美術では、なにものにもとらわれず、世の中や自然、心の内や抽象的な事象が表現される。大人になっても創作を続ける人だけがその表現手段を得ることができるのだろう。そしてイメージを具現化した作品は時代の空気をも映し出す▲戦時中、国家は表現の自由を圧迫、規制した。ナチスドイツはあらゆる芸術を国家目的に動員。日本も従軍画家に「戦争画」を描かせ、戦意高揚の手段として使った。美術には人の心を刺激し、揺さぶる力があるからだ▲県内最大の美術公募展「第64回県展」が長崎市の県美術館で始まった。会場には県内の創作者たちによる秀作が並んでいる。最高賞は、戦争、原爆で深い傷を負った本県からの平和発信を願い25回展から創設された「西望平和賞」。戦争の教訓を踏まえ、美術を通じ平和を希求する県展の姿勢は今に引き継がれている▲今年の同賞受賞作はデザイン部門でテーマは児童虐待。時代の闇を感じさせ、現代が果たして“平和”だろうかと問い掛けてくる▲他作品も含め、まずは美の世界を堪能してほしい。さらに今日性も考えながら向き合ってみると、また新たな発見があるはずだ。(貴)

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