「熱パ」を演出する男 西武の主砲・中村剛也

楽天戦の3回、満塁本塁打を放ち迎えられる西武・中村(中央)=9月6日、楽天生命パーク

 プロ野球、パ・リーグのペナントレースが佳境を迎えている。まさに「熱パ」到来だ。

 ソフトバンクと西武の首位争いだけでなく、クライマックスシリーズ進出を狙うロッテや楽天など、最後の最後まで息のつけない展開はファンにとってもたまらない。

 この大混戦を生んだ要因は二つある。まずはロッテの大健闘。特筆すべきは対ソフトバンク戦での圧勝劇だ。

 シーズンを通して17勝8敗の大勝は自チームをAクラス争いに引き上げただけでなく、逆に首位を行くソフトバンクの勢いをそいだことで、西武の追撃を許す結果となった。

 そして、二つ目はその西武の「おかわり君」こと中村剛也選手の神がかり的な打撃である。

 17日現在(以下同じ)打率2割9分6厘で29本塁打、打点は120を記録してリーグトップをひた走る。

 過去に6度の本塁打王と3度の打点王に輝く天性のホームランバッターだが、近年は肩の故障やひざの手術などで成績は低迷。36歳の年齢も考えると峠の過ぎたベテランと見られていた。

 僚友・山川穂高の成長もあり、開幕直後は7番や8番で起用されることも多かった。

 事実、4月の月間打率は1割8分の低率にあえいでいる。

 浮上のきっかけは、6月に入って行った打撃のマイナーチェンジだった。打席で構える際に、右肩を従来より少し高くして、右膝は捕手側に残す。

 これによって体重が右脚に残ることで投手との「間」が取りやすくなった。

 結果は同月から7月にかけて行われた交流戦に直結する。ここで5本塁打、23打点(両リーグ最多)と浮上のきっかけをつかむと、8月11日には不振の山川に代わって4番復帰。その後は8月29日の日本ハム戦で自身5度目の100打点越え。

 9月4日のオリックス戦で満塁本塁打、続く同6日の楽天戦でも2試合連続の満塁アーチをかける離れ業をやってのけた。

 通算20本の満塁本塁打は自身の持つプロ野球記録をさらに塗り替える快挙だが、同部門2位の王貞治氏(元巨人)が15本だから、いかにすごい数字かが分かるだろう。

 今季の満塁時の成績は32打数17安打で4本塁打、49打点。「満塁に愛される男」と言われるゆえんである。

 まん丸な童顔に、体重100キロを超す巨体は漫画の題材にもよく登場する。「おかわり君」の由来は、ご飯のおかわりにホームランのおかわりをも意味する。

 そんな“天才アーチスト”も、今季は打撃の意識を変えていると言う。

 「若いころは自分の打席で決めてやろうと常に思っていたが、今はいつも通りの打撃を心掛けている」

 来た球のコースに逆らわず自然体のバッティングを実践することで、軽打や逆方向への安打が増えた。

 本塁打王の山川を下位に下げてまで中村を4番に抜擢した辻発彦督も「引っ張り一辺倒から、コースに逆らわず打てている。明らかにバッティングが変わった。満塁で打席が回ってくると常に期待できる。現時点で4番を外す理由はないでしょう」と全幅の信頼を寄せている。

 

 力みを感じさせない柔らかな構えから、強靭なリストを利かせた打撃はかつて3度の3冠王に輝いた落合博満氏も「理想に近い」と絶賛する。

 大阪桐蔭高時代に高校通算83本塁打の記録を残しているが、そのパワーは近年主流となっている筋トレで培ったものではない。

 むしろ筋トレを嫌い、走り込み、打ち込むことで作った筋肉が土台となっている。

 オフの自主トレーニングでも温暖な地を選ぶ選手が多い中にあって、地元の埼玉・所沢で黙々と打ち込んでいる。

 自分の信念を曲げないのも一流選手の証なのだろう。

 リーグ最低のチーム防御率を補って余りある強力打線はシーズンを通して猛威を振るった。

 森友哉が打率トップなら本塁打は山川に打点は中村。加えて最多安打は秋山翔吾が名を連ねるのだから、他球団選手の出番はない。

 昨年はリーグ優勝を果たしたものの、クライマックスシリーズでソフトバンクに敗れ、闘将・辻監督は悔し涙を流した。

 エースの菊池雄星は大リーグに、主砲の浅村栄斗は楽天にFA移籍していった。大幅な戦力減があってもチームを支えてきたのは、昨年の屈辱を晴らしたいという気持ちがあるからだ。

 その中心に「おかわり君」は帰ってきた。

 ペナントレースからクライマックスシリーズ、そして日本シリーズへ。まだまだ中村のバットから目が離せない。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。

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