「料理が苦痛」「手抜きごはん」――。こんなキーワードが書籍のタイトルに入った、料理を作ることに必ずしもポジティブではないレシピ本が支持を集めています。
書店員などが選考委員を務める「第6回 料理レシピ本大賞 in Japan」の受賞作品が発表。レシピ本のトレンドはどのように変化しているのでしょうか。
大賞本「めんどくさいものはめんどくさい」
料理レシピ本大賞は「料理レシピ本の書籍としての指標を示し、また魅力をアピールし、その価値を広く浸透させること」を目的に2014年に創設されました。レシピ本は毎年大量に刊行されますが、ベストセラーになるのはほんの一握り。文芸やコミックの「○○大賞」のように、レシピ本は優れた本の指標がないとして、書店員有志らによって同賞はスタートしました。
139タイトルがエントリーした今回、料理部門の大賞に『世界一美味しい手抜きごはん 最速! やる気のいらない100レシピ』(はらぺこグリズリー、KADOKAWA)が選ばれました。手抜き料理研究家のはらぺこグリズリーさんは、初の著書『世界一美味しい煮卵の作り方』(光文社)で第4回の同賞を獲得しており、今回が2度目の受賞となります。
はらぺこグリズリーさん
同書は、忙しく料理をする時間があまりない人や、料理初心者などに向けたレシピ本。冒頭から「料理をするようになっても、めんどくさいものはめんどくさい」と断言し、「冷やっこを作るぐらい簡単」でありながらも、「世界一おいしい手抜きご飯」を目指す内容となっています。
レシピには料理初心者に馴染みのないスパイスは登場せず、調理方法も「混ぜるだけ」といった簡単なものばかり。火を使う料理でも、フライパンや鍋ひとつで調理が完結します。
「料理は奥さんが作るもの」ではない
「エッセイ賞」は『料理が苦痛だ』(本田理恵子、自由国民社)という刺激的なタイトルの著書が受賞しています。著者の本田さんは授賞式で「料理があまり得意でも大好きでもない異端児です。だからこそ、苦痛を感じる人と同じ立場に立てるのではないかと感じました」とコメントしました。
ほかにも、料理部門の入賞作品は『作りおき&帰って10分おかず336』『クタクタでも速攻でつくれる! バズレシピ 太らないおかず編』『syunkonカフェ どこにでもある素材でだれでもできるレシピを一冊にまとめた「作る気になる」本』などがラインナップ。
タイトルを読むだけでも、仕事などで忙しく料理をする時間がなく、「料理を作る必要があるが、その気力すら湧いてこない」人に向けたレシピ本が多いことがわかります。
料理好きで知られるタレントの天野ひろゆきさんが、同賞のアンバサダーとして授賞式に登場。次のように講評しました。
「昭和の頃から当たり前だった『料理は奥さんが作るもの』という流れが少しづつ変わってきていると感じました。そのような“当たり前”が、意外な人を苦しめていたり、プレッシャーを感じさせたりしている。料理本も、そういう方に寄り添うように『時短で手抜きでもいいんだよ』という本が増えてきている」
「がんばりすぎない料理本」が売れる理由
料理研究家・土井善晴さんが2016年に刊行した『一汁一菜でよいという提案』がヒットするなど、ここ数年、「がんばりすぎない料理本」がトレンドになっています。
東京ガス都市生活研究所の「生活定点観測調査」によると、夕食を作る時間が1時間未満の人の割合が1993年には4割程度だったものが、2014年には約6割に増加。その背景にあるのは、共働き女性の増加です。夫の家事参加も増加傾向にあり、料理の担い手が多様化しています。
こうした事情が、限られた時間で簡単に作れる料理本の人気に影響を与えている可能性がありそうです。
料理レシピ本大賞の実行委員長でブックス タマの加藤勤社長によると、出版物の市場が縮小する中、レシピ本は健闘しているほうだといいます。「単独のレシピを調べるには、ネットを使ったほうが早いですが、ライフスタイルの提案や外国料理などはパッケージとしてのコンテンツに需要があります。お金を出しても読みたい方がいる」と分析します。
大賞を受賞した『世界一美味しい手抜きごはん』はすでに販売部数が30万部を突破。著者のはらぺこグリズリーさんは「料理を簡単に作ることにポジティブな印象を持つ人が増えてきた気がします」と語ります。料理に対する意識の変化をうまくとらえ、提案できる本が次なるヒットにつながるかもしれません。