BTCC第8戦:心痛の友に捧げる。ホンダ・シビックのブッチャーがポール・トゥ・ウイン

 スコットランドを舞台に開催されたBTCCイギリス・ツーリングカー選手権の2019年第8戦ノックヒル・ラウンドは、コブラスポーツAmD オーディオエイド/RCIBインシュアランスのロリー・ブッチャー(FK2ホンダ・シビック・タイプR)が自身初ポールポジションから、僅差のレース1を制してポール・トゥ・ウインを達成。家族の急逝により欠場したチームメイト、サム・トルドフとその一家に捧げる勝利を飾った。

 この第8戦の週末を前に、チームを通じて幼い息子の急な逝去とその心痛により、当該ラウンドの欠場を発表していたトルドフに対し、ドライバー、チーム一丸で臨むと語っていたAmD.comのスコットランド人ドライバーは、公式練習から自身のホームコースでトップタイムを連発。

 予選でも早々にタイムボードの最上位に名を連ね、セッション終盤には昨季のポールシッター、チーム・ダイナミクスのダン・カミッシュ(FK8ホンダ・シビック・タイプR)に迫られると、最終的に50秒451のコースレコードを樹立するアタックでライバルを完封し、自身初のBTCCポールポジションを獲得してみせた。

「ここは僕のホームトラックだし、友人や家族の前で最速を記録できて特別なポールポジションになったよ。これまでフロントロウは経験したけど、ポールだけは獲得できていなかった。今日は最初から好調なのは分かっていたけど、毎セッションごとにタイム改善の分野を探り続けてきた」と、喜びを語ったブッチャー。

「そして何より、僕たちチーム全員がサム(トルドフ)とジョージナ夫妻のシチュエーションに心を寄せている。このポールポジションは彼らのためのものだし、レースでも勝利を捧げたいと思っている」

 これでFK2、FK8の新旧ホンダ・シビック勢がフロントロウを占拠し、2列目3番手にタイトル争いを展開するウエスト・サリー・レーシング(WSR)、パーテック・レーシングカラーのアンドリュー・ジョーダン(BMW330i Mスポーツ)を従えて始まったレース1は、オープニングラップから早くも攻防が激化し、ジョーダンが1コーナーとなる丘越えの高速右コーナー”Duffus Dip(ダフス・ディップ)”でカミッシュを捉えてすぐさま2番手に浮上。

 その後方では6番手発進の選手権リーダー、WSRのエースであるコリン・ターキントン(BMW330i Mスポーツ)も、チームBMRのセナ・プロクター(スバル・レヴォーグGT)をかわして5番手に上がってくる。

 すると直後に多重クラッシュが発生しセーフティカー導入となり、チームHARDのフォルクスワーゲンCCの2台と、そのアクシデントに巻き込まれたルイス・ハミルトンの弟、ニコラス・ハミルトン(フォード・フォーカスRS)がリタイアとなってしまう。

ホームコースで抜群のスピードを披露したロリー・ブッチャーがコースレコード更新でのポールを獲得した
R1のスタートでは危なげなくホールショットも、SC明けの中盤戦から2速を失う事態に
「幼い息子を失ったチームメイトに捧げたい」と語ったブッチャー。リヤクォーターにはその”アーロ・トルドフ”の名を掲げて戦った
チーム・ダイナミクスのダン・カミッシュも連続表彰台を獲得し、タイトル争いで大きくジャンプアップ

 このマシン回収で9周目まで続いたセーフティカーピリオドが開けると、先頭を走るブッチャーのシビックがなんとか隊列をコントロールして首位を堅持。しかしレース中盤を過ぎた頃から2速ギアに不調を来し始め、低速コーナーの立ち上がりで苦しい状況に追い込まれていく。

 その異変を見逃さなかった2番手ジョーダンは、イエロー&ネイビーの新型BMW3シリーズを左右に振って地元ドライバーを揺さぶると、27周のファイナルラップを目前にした最終ヘアピン進入でサイド・バイ・サイドに。

 イン側の縁石をカットするラインで応戦したブッチャーと、ジョーダンのBMWはラインを交錯しながらホームストレートへ立ち上がると、2速を失ったシビックに勢いなく、BMWのノーズが先に最終周へと突入。

 しかし1コーナーのダフス・ディップへのブレーキングでわずかに姿勢を乱したジョーダンがワイドになりエスケープロードへ逃れると、続く右の”McIntyres(マッキンタイア)”でインサイドを奪ったブッチャーが首位を奪還。そのまま手負いのマシンをフィニッシュラインへ導き、値千金の勝利を飾った。

「ホームの大観衆の前で優勝できるなんて、本当に信じられない気分だ! 最終ラップ目前のセクター2まではなんとかマネージしてギャップを維持したけど、ヘアピンで前に出られた時は正直『終わった』と思っていたよ(笑)。でもホームコースは最後まで僕を見捨てなかった。すべてはサム一家に捧げる勝利だ。彼らのために優勝できたことは本当に良かったよ」と、今季3勝目を挙げたブッチャー。

 続くレース2は、レース1で惜しくも2位に終わっていたジョーダンが最前列2番手から雪辱の勝利を挙げ今季6勝目をマーク。一方、ポール発進のブッチャーは、2位のカミッシュに続いて3番手争いを繰り広げたターキントンと接触し、自身は生き残って3位表彰台を確保するも、王者はグラベルへスピンオフしトップ10圏外へ。

 このアクシデントでブッチャーに対しグリッド降格のペナルティが与えられたレース3は、トップ10リバースのポールからスタートしたトレードプライスカーズ・ドットコムのジェイク・ヒル(アウディS3セダンBTCC)がBTCCキャリア初優勝をマーク。

 ターキントンは後方からの挽回を期すも10位に終わり、ジョーダンもアクシデントに巻き込まれたものの、これでポイントスタンディングは首位ターキントンの268点に対し、2位ジョーダンが258点、3位カミッシュが257点と大幅に差を縮める結果となっている。

 BTCCの2019年シーズンも残すは2戦といよいよ大詰め。続く第9戦は9月28〜29日にシルバーストンで争われる。

R2でブッチャーとのバトルに敗れスピンを喫したコリン・ターキントン。残り2戦でリードは10点にまで縮小した
R2で勝利を飾ったアンドリュー・ジョーダンも、チームメイトに大きく詰め寄る大成功の週末となった
直前に2017年王者アシュリー・サットン(中央)のテストドライブを実施し、R3で9位と初のトップ10入りを決めたインフィニティQ50BTCC
R3ではアクシデントでポイント獲得を逃したアンドリュー・ジョーダンだが「2戦6レース、まだ戦いは続く」と、2013年以来の戴冠に意欲を見せる

© 株式会社三栄