二塁送球1.8秒―「勝てる捕手」になったドラフト候補、東海大・海野隆司の意地

強肩強打の捕手としてドラフト上位候補に名前の挙がる東海大・海野隆司【写真:編集部】

10月17日のドラフト会議では上位候補、大学NO1捕手の呼び声が高く外れ1位も?

 今年も10月17日に「プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」が開催される。1か月後に迫り、各球団も絞り込みの作業に入ってきた。明大・森下暢仁投手、大船渡・佐々木朗希投手、星稜・奥川恭伸投手らに注目が集まるがスカウトから「上位で消える」「1位候補にもなる」と高い評価を受けているのが、東海大の強肩強打の捕手・海野隆司選手。高校時代は全国的に無名も大学ナンバー1捕手と呼ばれるまでになったのは「勝てる捕手」へのこだわりだった。

 決して言葉数が多い方ではない。冷静な目で周囲を見渡しながら、闘志は内で秘めるタイプの捕手。東海大の海野がドラフト上位候補になったのは「悔しさ」が根底にあった。

 高校は岡山の名門、関西高校。高校2年の夏に甲子園に出場したが、2回戦で富山商(富山)に敗れた。守備では盗塁を刺すなど、先輩投手たちを引っ張ったが、好投手左腕・森田駿哉の前にチームは4安打1得点に封じられ、海野も3打数ノーヒット。2三振を喫した。

「高校生の時はプロを目指せるような選手じゃなかったんです。ただ、諦めずにやっていれば、どこかで転機がある。そこまでしっかり我慢して練習して結果を出していくことが大事だったと思います」

 海野にとっての転機。それは大学3年にあった。進学した先の東海大は入学してから首都大学リーグで4季連続、優勝を逃していた。理由はいくつもあるが、大きかったのは正捕手の不在。海野は2年時から出場していたが、投手をリードできない試合があった。周囲からは“捕手がいない”という声も聞こえてきた。常勝・東海大がこれだけの期間、リーグ優勝しなかったのは異例とも言えた。

「2年秋も負けて、悔しかったです。3年春に正捕手になるんだ、絶対的な捕手になると思ってやってきたら、優勝ができました。勝てる捕手は守備が一番大事かなと思いました。打撃以前に、守備に自信を持てたことで、自然と打撃がよくなりました」

 2年秋までは打撃が課題でスタメン落ちをしていたが、3年時に打撃が開花。3年春には首位打者に輝き、春と秋でベストナインに輝いた。そして、3年春に5季ぶりの優勝に大きく貢献。海野が要となって、どっしりと座ってから、常勝軍団は輝きを取り戻した。社会人の名門・ホンダから母校就任2年目で東海大を優勝に導いた安藤強監督も「海野がことごとく走者を刺してくれた」とその存在が大きかったことを語っている。

強肩捕手と高く評価、しかし評価すべきポイントはスローイングの正確性

 リードはもちろん、海野が守備で丁寧に磨き上げたのがスローイングだった。ソフトバンクの“甲斐キャノン”こと、甲斐拓也捕手の二塁送球は速い時で1.7秒台と言われているが、メジャーを見渡しても1.8秒台でも相当、速い部類に入る。海野は大学生ながら、その域に近づいている。

「(1.7秒台?)実際に走者がいたら、出ない数字だと思います。ただ、イニング間の送球練習だったら出るかと思います。走者がいるときは1.8秒で投げられたらいいなというような感覚です」

 プロのスカウトも高く評価し、海野の魅力でもある肩の強さ。しかし、本人は謙遜する。

「正直、肩はそんなに…良くはないと思います。めちゃめちゃ強いと思っていないですよ…」

 ただ、意識をしているところは別にあった。

「自分は正確にセカンドベースへ投げるということ、セカンドベース以外にもいろんなところにきちんと投げるということを意識してやっています。足の運びは常に心掛けていますね。上体だけではなく、下半身を使って投げます。これは連動して投げるものなので、下が一番、大事だと思ってやっていますね。高校の関西のコーチからずっとしごかれていましたから」

 肩が強いというよりも、正確に速く、強い球を投げると言った方が海野のイメージにはまる。海野は高校時代から、練習試合など実戦のイニング間の送球でしっかりと送球することを心掛けていたことが、今のスローイングの正確性につながっている。そこでしか得ることのできない技術を磨いてきた。それは大学に入っても同じ。その積み重ねが、好フィールディングにつながり、気持ちを打撃に大きくシフトできる要因となった。強打の捕手はこうして生まれた。

頭にあるのは秋のリーグ戦に勝つこと「最後の秋なので悔いが残らないようにしたい」

 また、海野は2年続けて、大学日本代表「侍ジャパン」に選ばれ、今夏の日米大学野球では正捕手として、優勝に貢献。明大・森下や早大の早川隆久投手ら好投手をリードした。

「昨年から(侍ジャパンに)入らせてもらっていますけど、(昨年は)勝ち越せなくて、悔しかった。今回、選んでもらって、絶対に勝ち越したいと思ってやっていました。あんな投手陣がいる中で負けたら、自分の実力不足と言われてしまう。そう見られるので、なんとしても投手を引っ張っていきたい。抑えることができてよかったなと思っています」

 宿舎でもバスでも、そして試合直前のギリギリまで投手陣と話をする海野の姿があった。約1週間という短期間では、性格まではわからない。しかし、話をするうちにわかることもあった。全員の投手としっかりとコミュニケーションをとって、投手が投げたい球、調子を聞いてまわった。リードだけでなく、バットでも適時打に本塁打と勝利に貢献。8月26日の高校日本代表との壮行試合では満員のファンが見守る中、左翼席へ本塁打も放った。大舞台でも力を発揮できるメンタルも備わっている。

 ドラフト会議が間近に迫るが、今の海野は秋のリーグ戦に勝つことしか頭にない。4番・捕手を任され、大学最後のリーグ戦を戦っている。

「最後の秋なので悔いが残らないようにしたいです。追われる立場としてふさわしい戦い方をしていきたいなと思います」

 悔しさから這い上がってきた男は有終の美を飾るため、静かに闘志を燃やしている。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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